勇者の《友達》#3
オリーの回答を聞くと、師匠は滅多に見せない種類の笑みを浮かべた。
子供を前にして、子供みたいに楽しそうに笑っている。
「いいねえ、端的であり、要点をつき、さらに的確な答えだ……オリー、だったね。年はいくつ?」
「先日、十二歳になったばかりです」
それは嘘の年齢だ。
俺が『オリーは妹である』という設定を作り上げるうえで、「兄が妹の年齢を把握していないのは他人に疑いをもたれそうだ」と気づき、慌てて外見にふさわしい年齢を割り当てたのだ。
オリー本人は自分の年齢を把握していない。
ただ、「十歳の誕生日だけは巫女様に祝われたことがあります」と言っていたので、少なくとも十歳は越えているはずだ。
「ああ、惜っしいなあ。あと四年、いや、せめて二年早く生まれていればなあ、そしたら体も出来上がって、リーチも大人と同等だったのに」
師匠は頭を抱えて、本当にがっかりした感じの動きをした。
「体の大きさが剣の実力に関係あるのですか?」とオリーが言った。
「そりゃあ、もちろんあるさ。一般的に、というかほぼ十割の確率で、剣の技術が同じなら優れた体格の方が勝つ」
「……私は、とある方に《剣の理》について教わりました。その方によると、《理》の完全なる理解者は体格差などものともせず勝利すると」
オリーの声が若干の険をはらんだものに変わった。
どうやら師匠の発言が気に障ったらしいが、対面する師匠は首を傾げていた。
「《剣の理》? ……あ、もしかしてオリー――――ってことは、アンタひょっとして!」
突然師匠の首が俺の方を向いた。
今日の彼女は百面相だ。
剣を振っているときとは結びつかないような、間抜けな顔だった。
半開きになった口はぱくぱくと動いているし、大きく開いた目は瞬きを速いペースで繰り返している。
俺が反応を返せずにいると、師匠はかぶりを振った。
まるで良くない考えを振り払うように。
「ああもう、知らないからね。アタシは」
「何のことだ?」と聞く。
「よく聞きな……アタシは、オリーはアンタの妹だってことで納得する。その代わり、アタシを面倒ごとに巻き込むんじゃないよ」
「言われなくてもそのつもりだ。オリーの世話は俺が見る」
「わかってんのかね、本当に……」
ため息をついた後で、師匠はようやくオリーと正面から向き直った。
「オリー、さっきの質問に答えられたし、約束通りに相手してあげるよ」
「……あなたは《剣の理》を知っているんですか?」
「ああもう、そういうの無し無し!」と、師匠は右手をぶんぶんと振った。
鍛錬場の備品である刃引きされた剣を一つ手に取ると、オリーに投げる。
危ない――と俺が思うと同時に、オリーは回転する剣の柄を掴んで、淀みなくすっと正眼に構えた。
師匠も剣を手にして同じ構えをとる。ただし、そこに左手は無い。
「剣のなんたらかんたらとか、そんなのは所詮口から出るものでしかない。剣士だっていうなら、言いたいことは剣で語れ」
「わかりました――では、参ります!」
掛け声と共にオリーは師匠へ向かって飛び出し――もしかしたらという俺の期待を裏切るかたちで、剣を受け流された小柄な勇者の体は宙を舞い、その後地面へ落下した。
何が起きたのかと俺が考察する間もなく、「嫌なこと思い出させやがって」と言いながら剣を振るう師匠によって俺の足は払われ、無様に地べたと口づけを交わすこととなった。
師匠が立ち去った後、立っているのは相棒だけとなった鍛錬場。
俺とオリーは、地面に倒れたままで言った。
「……兄さん、あの人はおかしいぐらいに強いです」
「当たり前だ、俺の師匠なんだから」
そして、二人で笑った。
相棒は面白くなさそうな顔をしていたし、オリーはどうして笑っていたのかは知らないが、俺は楽しくて、そうしていた。
乗り越えたい目標が近くに居て、それに向かって共に挑戦する者がいる。
ただ、その幸運に感謝した。




