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勇者の《友達》#2

 朝と昼の中間くらいの時間帯の、ギルドの鍛錬場。


 ほとんどの冒険者は依頼をこなすべく出払っており、師匠以外の人影はなかった。

 この時間帯に人が少ないことを見越して、剣の鍛錬にやってきている、と本人から聞いたことがある。


 師匠は俺たちが鍛錬場に来たことには気づいたが、その剣の動きを止めることはなかった。


 踏み込みからの抜剣、続けて剣閃の連続で空を裂き、途絶えぬ足運びで場内を動き続ける。

 大きな振りで動きの隙を見せたかと思ったら、誘い込まれた架空の相手を飲み込む勢いで剣の奔流を生み出し、圧し返す。


 遠くから俯瞰しても、異様に思う。

 隻腕――それも女性の右腕だけで、どうやってあれだけの手数を出すことができるのか。


 師匠がようやく剣を収めたところで、オリーが話しかけてきた。


「兄さん、あの方は?」

「ああ、俺の剣の師匠だ……本人は認めないが」

「それは何故です?」

「弟子をとるつもりはない、他人に教えられる技術などない、だと」

「そうですか……ということは見取り稽古を主体とされているんですね」

「あの人に教える意図があるかはわからないが、俺の方は勝手に学ばせてもらってる」

「……私も、この場所を使ってもよろしいんでしょうか」

「そのつもりで連れてきた。そうしてくれると助かる」


 オリーがここで剣を振っている間は、ギルドを聖剣教会の目の届かない隠れ蓑にできる。

 今後、俺と相棒が討伐に出ている間はここにいてもらうつもりだったので、オリーのこの反応は望ましいものだった。


 離れた位置から師匠に声をかける。

 すると、しかめっ面の彼女がこちらを向いた。


「うるさいな、アタシが鍛錬中に話しかけられるの嫌いだって説明しなかったか?」

 俺は「覚えてるよ」と応えた。その後でこう続ける。


「鍛錬が終わってから話しかけても、今みたいに嫌そうな顔するのも知ってる」

「なんだ、詳しいじゃないか」

「ついでに言うと、鍛錬前も、ギルドの依頼掲示板前でも、外で会った時も、あんたは同じ顔してるぞ。自分から話しかけるときくらいだ、あんたがしかめっ面してないのは」

「……本当に詳しいし。なんだいアンタ、アタシのこと好きなのか?」

「そりゃ、まあ。好きでもない相手に絡んで時間を無駄にするほど、俺だって暇じゃない」

「正直なヤツだねぇ。あけすけっていうか、無神経ってゆうか……連れの魔法使いの嬢ちゃんにちょっとでも気を配ろうとか、考えたほうがいいんじゃないか。ヤキモチ妬いてるよ、その子」


 相棒に目をやると、見たことのある膨れっ面で俺を睨んでいた。

 つい先日の聖女との会話中にもこんな顔をしていた気がする。


「俺の相棒は元からこんな顔だから気にしないでくれ、師匠」

「だから師匠じゃねえって……ま、それはいいとして」


 師匠はオリーを見ると、じっと観察しはじめた。

 俺からオリーを紹介してやった方がいいかと思ったが、その必要は無かったらしく、自然な感じで二人の会話は始まった。


「この子とは、はじめましてだね」

「はい、お初にお目にかかります。オリーと言います」

「いい、いい。そんな丁寧な喋り方しなくても」


 師匠は上着で隠している左腕を見せた。

 その腕に肘から先は無い。

 その欠けた腕を振りながら彼女は名乗った。


「アタシの名はエルダ。《隻腕(せきわん)》のエルダとか呼ばれてる……たまに《左腕(さわん)》とか呼ぶ奴もいるけどね」

「『左腕』、ですか。《右腕(うわん)》ではなく?」

「そう。理由、わかるかい?」


 師匠から問題を出され、オリーは考える仕草をつくった。


 俺は解答を知っているが、口を出さない。

 その二つ名が彼女の実力を称賛し――かつ揶揄するものであるとわかっているからだ。


 故に、俺は師匠のことを指して《左腕》とは呼ばない。

 もちろん、心の中でも。


 オリーはどうやら答えに辿り着いたようだが、答えにくそうな感じだった。


「答えはわかりましたが……なかなか、答えにくいです」

「いいよ、答えてみな」

「では……答えが合っていたら、一手ご教示願えますか?」


 ははは、と師匠が笑う。


「面白いねえ、この子。どこで拾ってきたんだい、アンタ」

「歳の離れた妹だ」と俺は言った。


 たぶんこの嘘は通用しないだろうとは思っていたが、それでも貫き通さなければならない状況がある。

 『聖剣教会に黙って勇者を匿っている』なんていう面倒事に師匠を巻き込むつもりはない。


「妹ねえ……ま、そういうことにしてやろうか。それで? なんでアタシが《左腕》呼ばわりされるか、答えてみな?」


 師匠の催促に、オリーは渋々ながら、しかし聞き取りやすい声で答えた。


「隻腕でありながら、それを感じさせない動き。『左腕が無い』はずなのに、『左腕がある』かのように錯覚させられる……そのレベルまで昇華された剣の技術、そしてその技術に対する称賛と畏怖を込めて、そのように呼ばれているのでは?」

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