勇者の《友達》#1
オリーを連れての初めての外出先は、冒険者ギルドだった。
討伐依頼に出かけるわけではないが、数日ぶりのギルドへの顔出しなので、相棒も共にいる。
この時は冒険者としての仕事を十日ほど休んだ後であったため、ギルドに顔を出したときは受付の女性職員から歓待を受けた。
もっとも、それは俺に会えて嬉しいからではなく、俺と相棒に割り振る予定の討伐依頼がようやく片付けられる、という切実な事情に対する解決の糸口が見つかったからであった。
「待っていましたよ。お二人が二十日もお休みしていたせいで、指名依頼の進捗が無いことに焦れたギルドマスターがそろそろ直接動き出すところでした。その前に来れて良かったですね」
「休んでいたのは十日だ……事前に伝えもせず休むことになって悪いとは思っているが、そもそも冒険者なんて大体が無断で休むものだろ」
「それはその通りではありますが、昔からあなたが定期的に依頼をこなしてくれていたから、こちらはそれをアテにしていたんです。居なくなって初めてあなたの重要性というものを理解しましたよ」
「なんだ、今頃か? 分かってくれたなら嬉しいが、生憎と俺は人妻に興味がないから今さら迫られても困ってしまう。色気よりも、今は報酬に色を付けてくれると嬉しい」
「そうですね、報酬については一応ギルドマスターに相談しておきましょう……あと、私も少女趣味の男性に興味はありませんから、お互い興味無い同士という点では気が合いますね」
別に少女に興味があるわけではなく、むしろ目の前に居る既婚の女性職員のように豊満な体が好みなんだが、共にやってきた面子が相棒とオリーという未成年の少女たちなので、あまり強く出られなかった。
裏の鍛錬場を借りることを告げて受付から離れ、顔なじみの冒険者と軽く雑談などをこなしてから鍛錬場へ向かう。
その道すがら、オリーから話しかけられた。
「兄さん、今の方々は?」
「俺や相棒と同じ冒険者だ」
「冒険者……一応名前だけは知ってはいますが、どのようなことをされているんですか?」
冒険者の仕事内容の説明はギルド受付の領分なんだが、と思いつつ、知っている範囲でオリーに説明をする。
冒険者とは、平たく言えば冒険者ギルドに持ち込まれた依頼をこなして生計を立てている者たちだ。
俺は魔物討伐を専門にしているが、実は他にも冒険者の仕事はある。
先日のような荷馬車の護衛、傷に効き目のある薬草の採取、街中のちょっと危険な場所の見回りなどなど、依頼の内容はさまざまだ。
共通して言えることとは、ギルドに持ち込まれる仕事は大体が危険の伴う仕事だということ。
冒険者ギルドに登録していれば、基本的にどんな依頼も請け負うことができるので、なんでも屋としてやっていく者もいたりする。
「魔物討伐依頼は特に多い、というか一番多い。次いで商人や旅人の道中の護衛、野盗の討伐、その他もろもろ、と続く。魔物討伐を専門とするハンターという職業もあるが、冒険者よりは旨味が少ない。特別な事情がない限りはだいたいが冒険者ギルドに登録している」
「旨味とはなんでしょうか?」
「ギルドが登録証を発行してくれるんだ。これを持っていれば一定の身分を保証される。そのために冒険者になるやつも多い」
実は俺が冒険者になった理由もこれだったりする。
「詳しい数字は覚えてないが、冒険者が依頼をこなすと報酬から税金が一部引かれる仕組みになっている。俺たちはそうやって、この街を収める領主に税金を納めているわけだ。その関係で、冒険者は規定の日数以内に依頼をこなすことが義務付けられていたりもする」
「へえ、ということは剣王様と私はそれなりに税金を納めているんですね」と、相棒。
「まあ、このギルドの中では多い方だろうが……前に同じ説明をした気がするが、何を初耳みたいな反応してる」
「いやー、普段は討伐報酬の内訳なんか見ませんから、すっかり意識から外れてました」
相棒は軽く笑っているが、本来冒険者なら『無駄に税金を払っていないか』に目を光らせるのが当然だ。
代わりに俺がその役目を担当しているから、彼女が気にせずに済んでいるだけなんだが……あえて言う必要もないだろう。
そもそも、このギルドは冒険者が税金を多く納め過ぎないように配慮してくれているから、あまり心配しなくてよいというのも事実ではある。
「でも、剣王様のパートナーになるからには内助の功を求められますからね、ゆくゆくは私も――」
「いや、お前は魔法で支えてくれればいい」
「……あれ、なんで食い気味に言うんですか?」
なぜなら買い出しでお釣りを受け取らずに帰ってくることが過去何度もあったからだが、オリーの前でそれを言ってやると相棒の尊厳を傷つけるかもしれないので、口に出さない。
金銭感覚は教えて身につくものではない。失敗しながら修正してゆくものだ。
しかし、魔法に関してはともかく、金の適切な使い方を相棒はいつまで経っても学習しないので、俺は諦めている。
恵まれた才を持つ者は一芸を極めてくれればいい。
多少世間ズレしていようが、そんなものは周りが補えば済む話だ。




