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《警戒》と余暇#1

* * *


 オリーとの出会いは聖女から押し付けられる形だった。

 しかしその後で俺とオリーの関係は、外部の干渉とは無関係に、二人で過ごすうちに自然と築かれていった。


 仲良くなるきっかけは何だったかというと、剣の鍛錬だった。


「出会って間もない頃の私は、兄さんを剣の先生だと思っていました。でもしばらくしたらその認識は変わっていきました……そう、一緒に剣を振る友達になったんです。友達ができるなんて初めてのことで、私は毎日兄さんと剣を振ったり、時々模擬戦をするのが楽しくてしょうがありませんでした」


 とはオリー本人の弁だが、俺は彼女を友達とは見ていなかった――こんなことを正直に本人に伝えたら不機嫌にさせてしまうから言わない。


 俺にとってオリーは、競い合うライバルだった。

 一回り以上若い年齢、そして小さい体でありながら、そう俺に認識させるほどに、彼女の剣は優れていた。


 大人げなく、つい嫉妬してしまうほどに。


* * *


 聖剣教会の聖女から勇者の少女を託された後、俺が真っ先に警戒したのは、教会から少女を連れ戻そうとする動きだった。


 勇者たる彼女の居場所が聖剣教会側だということは、もちろん理解していた。

 もしも教会が勇者を探していたなら、勇者を送り返そうか真剣に考えた――聖女の不興を買ってでも。


 しかし、聖剣教会の頂きに近い立場の聖女が、ただの冒険者である俺のところに勇者を送ったという事実が、踏みとどまらせた。

 聖女はおそらくこう考えたのだ。

『急いで勇者を教会から遠ざけなければならない』と。


 そうでなければ辻褄が合わないのだ。


 よりにもよって《聖剣復活祭》という教会の面子に関わるであろう行事の当日に、眠る勇者を木箱に詰めて聖都の外に送り出すなど、よほど逼迫した事情があったとしか考えられない。


 聖女が何を思ってそうしたのかは、考えても分からなかった。

 こんなことがバレたら、聖剣教会内部の地位の高い連中が黙っていないと想像できないほど、聖女の頭は鈍くないだろう。


 だが、聖女の行いは無意味なことではあるまい、とも思えた。

 聖女の味方をするわけではないが、そもそも俺は聖剣教会という団体を信用していなかったから、対面してみて意外と話せる人間だった彼女個人の方が信用できた――あくまでも比較的に、ではあるが。


 勇者を自分の宿に泊めてから数日は、網を張って情報を集めることにした。

 正体不明の輩、具体的には聖剣教会絡みの何者かが、いつ街中に現れても対処できるように。

 しかし、何も網にはかからなかったのだ。


 相棒と二人、昼間に宿屋の食堂で茶を飲んでいると、彼女はこう話を切り出した。


「暇……いえ、平和ですねえ、剣王様」

「ああ」と同意する。


「でも、私は剣王様とゆっくりできる時間が増えて嬉しいです。なんなら、ずっとこうしていても平気ですよ。あ、お茶もう一杯もらってきましょうか?」

「そうだな、そろそろ宿とギルドの間だけを行動範囲に絞り込むのはおしまいにした方が良さそうだ」

「……え、今の話の流れでどうしてそういうことに? 今のは同意して『今まで忙しかったからな、もう少し一緒にいる時間を増やそうか』って言うところでは?」

「逆に聞くが、今の俺たちの状況でそれが許されると思うか?」

「うう、わかってますよ。でもちょっとぐらいは乗ってくれてもいいじゃないですか……」


 日数にしておよそ十日。

 これだけ待っても何も起こらないということは、おそらく俺の予想は外れたらしい。


 聖剣教会は、どういう訳があるのか、聖都から遠く離れていないこの街に勇者捜索の手を伸ばしていない。

 聖女が裏で手をまわしているのか、単にこの街まで手を伸ばす余裕がないのか。

 それか――ありえないとは思うが、勇者が居なくなったことに気づいていないのか。


 なんにせよ、冒険者稼業は再開しなければならない。

 手持ちは心もとないというほどではなくとも、金は減っていくし、三日に一回は依頼をこなさないと実戦の勘が鈍る。


 それに――剣にせよ魔法にせよ、鍛錬をするには宿はあまりにも狭い。

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