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《勇者》の簒奪#3

 翌日の早朝。


 別の宿に泊まっていた馬車の御者と落ち合い、俺と相棒は馬車に乗った。


「帰る前によるところがあるんでさあ」という彼の言葉を特に疑いもせず、祭りに沸く聖都の街並みを荷台からぼんやり眺めていると、程なくして馬車が止まった。


 御者の用事だから俺たちに出番はないだろう――と考えていたら、「冒険者のダンナ、来てくだせえ!」と突然声をかけられて、驚いた。


 問題でも起こったのかと、一応帯剣した状態で馬車を下りる。

 相棒は、いつも身に付けている護身用の短剣以外は武装しないので手ぶらだ。


 御者の声がした方へ目を向けると、全体的に白く背の高い建物。

 聖剣教会本部、それも昨日とは違い建物の正面入り口が見えた。


 俺たちが御者のところへ向かうと、彼は腰を低くして、白い修道服を着た金髪の若い女性と対面していた。


 その女性とは初対面だが、俺にはあるものを感じ取ることができた。


 ――圧力。

 強者や権力者が知ってか知らずか、共通して放っているもの。


 剣の師匠も、ベテラン冒険者も、老獪なギルドマスターも、強さの違いこそあれど同じ気配を放っている。


 そして、俺は別のものも女性の外観から感じ取っていた。

 ――こいつ、乳でかいぞ、と。


「はじめまして、冒険者のお二人」と女性は切り出した。


 話し方だけでわかる。

 この修道女、話を説くことに慣れている人間だ。

 声が通る、滑舌がいい、さらにさらりとした滑らかな声質。


 直感では高位の修道女と見ているが、どれぐらい上だ?


 修道服によって位が違うという話もどこかで聞いた気がするが、この女性の服からは分からない。


 胸部の隆起具合から相当なサイズが隠されているであろう、という程度しか。


「護衛ご苦労様でした。これからお帰りになるということでしたので、その前に少々お話を、と思い引き止めてしまいましたが……問題ございませんか?」


 俺は首を振った。


「ありがとうございます。なかなか冒険者の方と直接お話する機会がないもので」

「あの、その話って長くなりますか」と相棒が言った。

「お手間はとらせませんよ。立ち話で済むくらいにしておきますので」

「剣王様はお忙しいんです。用があるなら早くしてください」


 相棒の言葉を聞き、修道女の後ろに控える男二人が顔色を変えた。


 一人は背中に剣を背負っている、もう一人はおそらく短剣か何かを隠している。


 相手の体勢の変化からこういう情報を瞬時に読み取れるようになったのも、師匠との鍛錬の成果だ。


「分かっておりますよ、魔法使いさま」


 にこやかに言う修道女に、今度は俺が反応した。


 ……いつ気付かれた?


 御者が話したなら別に構わないが、もしそうでないとすると――ひと目で看破したのか?


 相棒は手ぶらにいつもの外套という軽装で、傍目には斥候に見えるはず。

 魔法使いと断定するには判断材料に乏しいはずなのに。


 剣呑とした空気の中、修道女は微笑みながら言った。


「申し遅れました、私はこの聖剣教会の聖人位、《聖剣の巫女》です……外部の方々には《聖女》という風に呼ばれることもありますが、どちらでもお好きな方で」


 すらすらと自己紹介を済ませる修道女――もとい、聖女。


 完全に油断していた。

 まさかこんな大物と出くわすことになるとは。


 昨日依頼達成した時点でさっさと聖都から出ればよかった――と後悔しても、もう遅い。


 おそらく聖女は、話が終わるまで俺たちを逃さないだろう。


 もっとも、聖剣教会の聖女を前にして逃げるのは愚かな選択だ。


 そんなことをすれば、俺の住む街の冒険者ギルドごと握りつぶされるだろう。


 《聖剣の巫女》というのは、それぐらいの権力を持つとされる人物なのだから。

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