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《勇者》の簒奪#1

 その日、俺は冒険者ギルドの馬車に乗っていた。


 行き先は聖剣教会、依頼内容は『生け捕りにした魔物を教会に引き渡すまでの護衛』、さらに空は曇天と、何一つ良いところを見つけられなかった。


 周囲を警戒する傍ら、自らの失敗を悔やみひたすら謝り続ける相棒の面倒もついでに見ていた。


 俺が以前あげた黒い外套にくるまって、馬車の隅っこで同じ言葉を繰り返す。


「剣王様ごめんなさいごめんなさい、魔法に巻き込んでしまってごめんなさい。これでもう三度目になるのにまたまたまたやってしまってごめんなさい……反省していないように見えるかもしれませんが今回も心から反省しているんです。本当なんです、本当なんです……本当なんです」

「もういいと言っているだろ」と言った後、俺は指を四本立てた。

「それと、昨日で通算四回目だ」

「ひうっ!」


 と小さく叫び、相棒はますます萎縮した。


 ドラゴーヌとの戦闘時に俺が相棒の攻撃魔法に巻き込まれてしまうという珍事から、だいたい半年が過ぎていた。


 その間、なるべく俺は巻き込まれないよう立ち回りを学習したり、相棒との意思疎通の仕方を工夫したりといった取り組みの成果が出始め、被害を被ることはだいぶ減っていた。


 この日の前日は、だいたい二ヶ月と半月ぶりぐらいに、相棒の魔法に巻き込まれた。


「何回も言ったぞ、お前があの時アレスイーグルを拘束魔法の…………名前、何だったか」

「《バインド・アイネス》です。効果時間は短いけど発動が一番速い拘束魔法の……」


 アレスイーグルは魔物化した鷲で、動物時より数倍大きく、段違いに速い。

 そのため行動を制限する罠もしくは魔法が無ければ仕留められない。

 なかなか倒せないため、討伐報酬も高額だ。


「その魔法を放って無ければ、逃げられて討伐失敗だった。確かにヤツの翼と俺の足が繋がったせいで思いがけず空を飛ぶことになったが……結果的には間近から急所を狙えて、傷の少ない素材が手に入った。こうして新しい依頼に繋がっているのもお前のおかげだ」

「そう言っていただけるのは嬉しいですが……やはりこんなことではいけません。剣王様に並び立つためには、もっともっと魔法の扱いに熟達し、さらなる活躍の場へ剣王様をお導きしなければ」

「ああ、頑張れ……無理に頑張らなくてもいいけどな」


 相棒が活躍しているせいで俺までこの依頼に充てられることになってしまったのだが、それは言うまい。


 俺と相棒がペアで活動していることはギルドも知っている。


 相棒の魔法の実力は、すでに街の冒険者ギルドでは並ぶ者を見つけられなくなってきた。


 その二点の事実により、相棒を難易度の高い依頼に割り当てるため、まずは俺へ依頼を出すという流れができてしまった。


 冒険者ギルドだけでなく、最近は街の鍛冶屋まで結託している。

 俺が「あんな良い剣見せられたら欲しくなるに決まってるだろ」と考えるのを見越してあれやこれやと紹介してくる。


 彼らの企てにより、俺は新しい装備のために出費がかさみ、金を稼げる高額の依頼を受けざるをえない状況ができてしまった。


 今回の依頼もその一つだ。


 金に困っていなければ、誰が聖剣教会に関わる依頼なんて。


 ……まあ、俺と同じ考えの奴が冒険者に多いせいで、今回の依頼はなかなか人を充てがえず、やむなくギルド側が報酬を釣り上げた、という裏話もある。


 誰かがやらないと誰かが困る。


 魔物討伐も、受けるやつが居なくて掲示板の飾りと成り果てた依頼書の処理も、生け捕りされた魔物をしまう檻が不足してしまい何とかして空きを確保しなくてはならないという事情も、これらは一様に誰かを困らせているのだ。


「剣王様、どうかしましたか? 馬車酔いなら私が魔法で軽くしましょうか?」


 気にするな、という感じに相棒に手を振る。


 ため息も吐きたくなる。


 誰かが困っているなら、誰かが解決すればいい。


 誰でもいいなら俺である必要はないのにな――などと考える俺を乗せて、馬車は聖剣教会本部が居を構える聖都に、何事もなくたどり着いた。

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