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プロローグ

 俺は歳をとった。


 もはや剣を振れなくなった――いや正しくは振れるのだが、もはや威力を伴った剣筋というものを描けなくなって久しい。

 そんな感じのジジイに成り果ててしまった俺ではあるが、たった一つだけ誇れるものがある。


「剣王様はいつまでも、私の知る一番お強い人です。いつまでも愛しています」

「兄さんは白髪の混じったおじいさんになりました。けれど私は生涯かけても兄さんに追いつけないでしょう」

「剣王の魂が体から離れたその時、私は捕まえて魔界に連れていく。剣王が傍に居れば魔界と人間界の完全統一も容易い。そして――嗚呼、そう。それからは、二人の魂が消滅するまで一緒に居よう」


 かつて数多の修羅場を潜り抜けた相棒の魔法使い。

 聖剣に選ばれながら魔王を倒さなかった勇者。

 勇者と戦う運命を知りながらもその道を選ばなかった魔王。


 彼女らは、言い方は違えども、俺が自分の弱さをぼやくたびに俺の強さを称えて、今のように言う。


 それを聞くたびに思うのだ――俺の人生は無駄ではなかったのだ、と。


 運命のめぐりあわせで強力な力を得た――否、与えられてしまった三人を、運命から解き放ち、普通の人間みたいな暮らしをさせることができた。


 俺一人の人生と引き換えにして、彼女らが幸せを感じられる生活環境を整えることができたのだ。


 結局俺には生涯の伴侶と言える人との出会いはなかった。

 結婚もしていない。

 『剣と結婚した男』と揶揄されても強く否定することはできない。


 だが、それがなんだというのだ。


 俺が誰かと結婚して子供を二人授かったとして、せいぜい三人を守り、育てきることができたかどうか、といったところだろう。


 ならば、世界最強の魔法使いと、伝承に残る英雄が総がかりでも敵わない勇者と、歴代最強の力を与えて生み出された魔王を、揃いもそろって仲良く肩を並べ、お祭りの出店の串焼きを食べさせられるぐらいの仲に導けたのなら、それはもう結婚して成し遂げられたはずの成果と同等の結果を生み出すことができたと言ってよいのではないか。


 なんとなく、もはや七十を超えたジジイであることを自覚しながら、こんなことを口にしてみる。


「お前ら、俺が結婚するって言ったらどうする?」


 それを聞いた三人はそれぞれの答えを返す。


「ようやくその気になってくれたのですね、剣王様――もちろん私はオーケーです。人間を延命する魔法はもう三十年前に完成しています。これから私と二人、仲睦まじい夫婦になりましょう。あ、おまけでそこの二人も住まわせてあげますから、心配しないでくださいね」


「兄さん、そこの貧乳若作り魔法バカが何か言っているけれど、気にしないで……結婚して、夫婦仲良く天寿を二人で全うしよう……誰にも邪魔されない場所で」


「剣王、人間の慣習は私には理解できない。けれど結婚がなんなのかはわかっている。きっと私と剣王なら、どんなことだって、どんな事態だって乗り越えられる。だから、二人で永久の契りを交わそう」


 ――ああ、うん、そうか。

 大体言いたいことは理解できた。


 こいつら、本当の姉妹みたいに仲良くしてるけど、俺の取り合いになった途端、正面切って戦うつもり満々だ。

 どうやら俺は――最後の、最期の瞬間になっても、こいつらに言ってやれないようだ。


 俺は乳のでかい女以外を抱く趣味はないのだと。

 そして、いつまで経っても見た目が未成年の少女のままなおまえ達は、悪いが性欲を向ける対象ではないのだと。


 もし言ったら、こいつらは結託して自分ら以外の巨乳をすべて滅ぼしかねない。

 それはおそらく、世の男どもが嘆き悲しむ事態につながっていくことだろう。


 世界のため――いや、世界の同胞の男たちのために、俺は焼きたての魔物肉の串焼きを咀嚼して時間を潰し、発言を誤魔化すことにした。


 ただそうしているのも退屈だから思い返すとしよう――俺たち四人が歩んだ軌跡を。

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