美人さんとの出会い
「人はなぜ告白なんてものをするんだろうな。」
俺、椎名八尋は友人の田原悠宇に言った。
「おいおい、どうした急に。遂に脳までやられちまったか?」
「おい、今まで脳以外全てがイカれてたみたいに言うな」
「だってさぁ、今の蘭の気持ち考えてみろよ。校舎裏、人気のないところに想い人を呼び出し告白。この状況を見て何も思わないの?」
「そう言われてもなぁ」
そう、俺たちは今、学校の4階から校舎裏を覗いている。
これからここで、俺たちの共通の友人、藤井蘭が一目惚れしたという人に告白する、らしい。
というのも、俺が実際に蘭から聞いたのではなくて、悠宇から「蘭が告白するらしいから見に行こう」と無理やり連れて来させられて今に至るという訳だ。
つまり、蘭とその想い人との物語にとって俺は部外者であり、今は野次馬Aである。
そんな野次馬Aにどんな感情を抱けって言うのか。
「はぁ、そんなんだから彼女が出来ないんだよ?」
悠宇は呆れながら言った。
チッ。イケメンは呆れててもかっこいいのか。
しかし、現に悠宇が彼女持ちなのに対して、俺は彼女いない歴=年齢なので何も言い返すことが出来なかった。
「お、来た」
そんな会話をしている内にどうやら、蘭の想い人が来たようだ。
ここからではあまりハッキリと顔を見ることが出来ないが、美人であることは分かった。これから彼女を美人さん(仮名)と呼ぶことにしよう。
その美人さんが蘭の前で立ち止まり、微笑んだ。
美人さんが来たことで蘭が緊張しているのが見てわかる。
2人が向かい合い、張り詰めた雰囲気になる。
この空気に俺と悠宇は思わず息を呑む。
美人さんが口をパクパクさせている。
恐らく何か言ったのだろうが、ここからでは聞き取ることは出来なかった。
美人さんが何かを言い終わったあと、蘭が喋りだした。そして、頭を下げ何かをお願いしている。
好意を伝えたのだろう。
すると、美人さんは驚く事のなく、蘭に何か言って立ち去って行った。
気のせいだろうか。その時、一瞬こちらを見て微笑んだ気がした。
「あちゃー」
悠宇が右手で両目を覆う仕草をし、演技とも思えるほどに下手くそなリアクションをとる。
しかも、口元は綻び、まるで振られたことを喜んでいるようだった。
サイコパスかよ。
「心外だなぁ、僕は蘭が彼女に縛られずに済んだことを喜んでいるだけじゃないか」
俺の顔を見て察したのか、「やれやれ」とか言いながら弁明してきた。
「それが、やべぇつってんだ」
そう言うも、どうやら理解して貰えないらしい。
元々、何考えてるかわからないやつなので話題を変える。
「ほら、蘭を慰めに行ってこい。」
「はいはい」
悠宇を蘭の元へ行かせ、俺はバッグを持って昇降口へ向かう。
昇降口着くと、そこには美人さんがいた。
嫌な予感がする。こういう勘ってのはよく当たるものだと、おじいちゃんが言ってた気がする。
俺はなるべく音を立てないように静かに靴を履き替え、外へ出ようとする……
「ねぇ」
……が、失敗。嫌な予感は見事的中し、美人さんが声を弾ませて話しかけてきた。
「……なんでしょうか」
気怠そうに言ってみるが、効果なし。むしろ、興味津々といった目で見てくる。
俺の第六感が言っている。『こいつはヤバい』と。
さて、どうしたものか。とこの場を切り抜ける方法を考えていると、美人さんは嬉しそうに笑って、言った。
「私と付き合ってよ」