睡 -sleeping beauty- ※ひろかな
ふわ。
一瞬身体が浮かびあがったと思った次の瞬間に目が覚める。
寝室のカーテンの向こうは既に明るく、時計を見ずとも、おそらくはいつもの起床時間なはずだった。
今日は……休日か。
ぼんやり霞む頭で思い出す。天井を見上げたまま、ゆっくりひと呼吸、ふた呼吸したところで、傍らに動く気配がした。
「ん……」
どうやら自分の右隣に寝ていた彼女が寝返りを打ったらしい。顔だけそちらに向けて様子を覗うと、うっすら開いた寝ぼけ眼がこちらを見つめていた。
「おはよう、カナちゃん」
すると言葉になりきらないかすかな呻きだけが返ってきた。ちょっと無理をさせすぎたかなと内心反省しつつ、目覚めてしまったからには、朝食の準備でもしようと身を少し起こすと。
「だぁめ」
いやにはっきりした声の直後、彼女の足先が自分の足に触れた。それがそのまま足の甲を擦りあげ、膝から下が絡めとられる。
二度寝を決め込むつもりだな。
察するなり、その気配を感じ取ったか腰に腕が回り、実力行使さながら身体がぴったりと寄せられた。
「まだだめ」
解け出た言葉とすぐに次いだ寝息を胸元に感じつつ、これは逆らい難いなときっぱり諦める。ぽすんと再びベッドに沈み、彼女の背中に腕を回してそっと抱いた。
そういえば、何だったかな。
ふいにそんな疑問が湧く。目覚める直前まで、とてもいい夢を見ていた気がするのだが。
「続きが見られるといいな」
ひとりうそぶき、ゆったりと目を閉じる。
そうして触れ合った心地良さに甘んじながら、もうひとたび繰り返すまどろみに己を絡め合わせた。