表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート

ぐちゃぐちゃランドセル

作者: 冲田

「ただいまぁ!」


 学校から帰ってきてまず一番にやることは、玄関にランドセルをほうり投げること。それからもう一度、元気にごあいさつ。


「いってきまぁす!」


「ちがうでしょ!」


 すかさず、お母さんの声が飛んできた。「お帰りなさい」も言わせずに飛び出そうとした僕は、ぎくりと立ち止まった。


「今日こそプリントを出してね。いっぱい、たまっているはずよ」


 おとなしく言うことを聞いたほうが出発が早くなるって、僕は知っている。

 ランドセルをあけると、連絡帳にはさまったプリントを数枚取り出した。

 それから、さんすうのノートにはさんだ小テスト、小さく折りたたんだ紙切れがふでばこの中から。

 ランドセルの底から、じゃばらになって積もったプリントのかたまりもでてきた。


「もらったその場で全部ファイルに入れておけば、こんなことにはならないのよ」


「ちゃんと全部ファイルに入れたつもりなんだけどな」


 お母さんはまったく信じていない顔をしていたけれど、本当なんだ。

 ものすごく不思議なんだけれど、気づかないうちにプリントはランドセルのあっちこっちに散らばってしまう。


 それだけじゃない。授業がはじまって、さあいざふでばこをあけると、鉛筆が入っていない。

 家で宿題をやった時にはあったのに、と思って、ためしにお道具ばこの中を見ると、何本か見つかる。


 ズボンのポケットから消しゴムが出てきたり、給食袋から定規が発見されたこともある。

 学校で見つかるならいいけれど、あとで家でみつかるようなこともある。

 そうすると、「忘れ物が多いですよ」と先生に注意されて、連絡帳にも書かれ親の知るところになるのだ。


 そんなある日のことだ。今日はお母さんに言われる前にプリントを出してしまおうと、家に帰ってすぐにランドセルをあけた。ふと中をのぞいてみると


 ──なにか、いる?


 カブトムシくらいの大きさのソレは、せっせ、せっせと、ファイルからプリントを取り出して、ぎゅうぎゅうとランドセルの底に押し込んでいる。

 目をこすってよくよく見ると、謎の生物? は、次のプリントを取り出して今度は小さく折りたたみはじめた。

 じぃっと眺めていると、謎の生物と目が合った。


「君は、だれ?」

「おいらは、かばんに住んでる妖精さ」

「どうしてプリントをぐちゃぐちゃにしているの?」

「ぐちゃぐちゃが、おいらにとって快適な空間だからだよ」

「鉛筆をお道具ばこに入れてたのも、君?」

「ふでばこの中で寝ようと思ったら、硬いし、とがって痛いし、じゃまだったんだもの」


 一度姿を見たからだろうか。それからは妖精さんをよくみかけた。

 朝の学校や帰ってきた家でランドセルを開けた時は、だいたい現行犯だ。

 からっぽのふでばこの中で寝ているのも見た。

 そして、どんなに頼んでもぐちゃぐちゃをやめてくれない。


「もう、いいかげんにしてよ!」


 がまんならなくなった僕は妖精に向かって怒った。


「君のせいでしかられるし、すっごく迷惑なんだ。今すぐ出てってよ!」


「でも、おいらはこのランドセルと君のことが、大好きなんだ」


「知らない! 僕は大っ嫌いだ!」


 妖精さんは悲しそうな顔でしゅんとすると、ランドセルからぴょんと飛び降りて、それから二度と見ることはなくなった。


 妖精さんを追い出すと、小言をいわれなくなって、ものすごく平和だった。

 けれど、だんだんとなんだか寂しくなってきた。

 整然としたランドセルの中を見るたびに、プリントをぐちゃぐちゃにする妖精さんの姿を探してしまう。


「ごめん、ごめんね。ひどいこと言って、ごめんね」


 もうここにはいないかもしれないけれど、僕はランドセルの中に向かってつぶやいた。


「あらぁ? 家の鍵、どこいったかしら」


 買い物から帰ってきた玄関先で、お母さんがカバンを必死にゴソゴソとしていた。

 そういえばさっきも財布の中からポイントカードが見つからなかったし、最近ゴソゴソが多い気がする。

 ひょっとして……と、僕はお母さんのカバンに目をこらした。


 いたずらっぽく笑う妖精さんと目が合って、僕も思わずにやりと笑った。


お読みいただきましてありがとうございました!

感想や☆、ブクマ等いただけると励みになります♪


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルがすごく良いですね! 好きです! [一言] 妖精さん、うちにもいますね、確実に笑 子供に寄り添うって、こういうことなんですね。とても勉強になりました。 可愛いお話です。ありがと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ