転生無才の劣等魔術師 〜「魔法適性ゼロの無能は出ていけ」と実家を追い出された少年、魔法の代わりに魔術の才能が覚醒して世界最強〜
——魔法適性0。
教会に置かれている水晶は俺の能力をそう映し出した。
魔法とは、魔力を用いたあらゆる超常現象を起こす技術である。
魔法適性とは、魔法という技術を使うための才能を数値化したもので、どんな職業に就くにせよこのスコアが重要になる。
このスコアが高ければ高いほど魔法に関する才能が高いということを示す。
高スコアの人間は訓練することで莫大な魔力を得られ、高度な魔法を使えるようになるらしい。
逆に低いスコアの人間は訓練しても魔力があまり増えず、高度な魔法の習得には時間がかかったり、一生をかけてもできなかったりする。
魔力適性0というのは、どれほど苦しい修行を最適な方法で繰り返したとしても、魔力が活性することはないし、魔力がないから魔法が使えるようになることもない。
この世界では15歳の誕生日の0時をまわると魔法が使えるようになり、魔法適性を数字で確認できるようになる。
一般の村人でも1〜10程度の多少の魔力適性はある。
そもそも、これがないと日常で使う魔導具などもまったく使えない。
俺が目指していた『冒険者』など魔法を使う仕事をする者——魔法師に限らず、剣士や弓魔士など——なら最低でも100以上のスコアは欲しい。
そんな中、俺の魔法適性は0だった。
紛うことなき無能。
日常生活にも支障をきたすレベルの結果だった。
何度測りなおしても水晶が映し出す数字は変わらなかった。
俺はこの事実に衝撃を受け、同時に将来はどうなるんだろうという不安に苛まれた。
目の前が真っ暗になった。
思わずガクッと床に崩れ落ち、膝をついてしまう。
その時だった。
「アルス……残念だ。お前に家督は譲れん。出て行ってもらう」
「と、父さん……! 待ってくれ、魔法が使えなくても、俺にできることをやるから! だから……!」
俺と一緒に魔力適性を見にきていた父シェイルの言葉は冷たかった。
父シェイルは二人兄弟の長男である俺に期待をしてくれていた。
弟ゲイルは性格に難があり、俺が長男で良かったと言ってくれていた。それにもかかわらずこの言葉が出てきたということは、落胆という言葉では軽すぎるくらいにがっかりさせてしまったのだろう。
父シェイルは、かつては一流の剣士として冒険者をしていたらしい。
冒険者としての功績を国王に認められ、平民としては最高の爵位である『準男爵』という爵位をもらい、今に至る。
俺にも若い間は冒険者をさせ、落ち着いた頃に結婚。そして正式に家を継がせる。——そんな父シェイルの理想の人生プランが、この一瞬で全て瓦解してしまった。否、俺が壊してしまった。
父シェイルは、もし俺の魔力適性が悲惨だった場合は、家を出てもらうと事前に言っていた。基本的には魔力適性のスコアは親から子に受け継がれ、子の方がスコアが高くなることも多い。
冗談交じりの他愛もない会話だったはずなのだが、まさか本当にこうなってしまうなんてな……。
「黙れ。……さっさと家に戻るぞ。荷物をまとめたらすぐに出ていけ。わかったな?」
「……わかった。ごめん」
「……謝る必要はない。この家にお前は相応しくないというだけのことだ。……ただそれだけのことだ」
◇
「兄貴魔力適性0だって? ブフォ、マジうけるわ! さすがに0はねーよ! ブフォ! ブフォ!」
家に帰り、母と弟に俺の魔力適性が0であったことと、これから家を出ることを父シェイルの口から伝えられた。
弟ゲイルは何が面白いのか床を転げながら笑いまくり、母は泣き崩れてしまった。
「これでこの家は俺のモンだ! 財産は全部俺のモノ! やったぜ!」
「……それは、お前に魔力適性があればの話だけどな」
俺は堪えられなくなり、毒を吐いた。
まだゲイルは14歳。
ほぼありえないが、15歳の誕生日を迎えてから計測したら魔力適性が0だという可能性もなくはない。
魔力適性の上下はともかく、適性がある親から適性がない子が生まれることはほぼありえないので、可能性としては限りなくゼロに近いのだが……。
「ンなわけねーだろ! 嫉妬かよ! 俺が家を継いだら可哀想な兄貴にちょっと援助してやろうと思ってたのになー。あーあ、やる気なくなっちったなー」
嘘つけ。
そんな気が初めからないことはわかっている。
もっとも、たとえそんな申し出があったとしても断るつもりだが。
こいつに援助されるくらいなら死んだ方がマシだ。
「おい、そんなことより用意はできたのか?」
「あ、ああ。……どうせそんなにいっぱい荷物を持てないしな」
弟ゲイルに嫌味を言われつつも、俺は手を動かしていた。
中くらいのバックパック一つ分に収まる範囲なので、荷造りはすぐに終わった。
内容としては数日分生きられるだけの非常食と手切金。あとは俺がずっと大事にしていた一本の剣くらいのもの。
この剣は、父シェイルから10歳の誕生日に与えられた何の変哲もない普通の鉄製の剣。
訓練用のものだが、村の外には魔物はうようよ潜んでいる。
無いよりはマシだろう。
「そうか、じゃあ……おさらばだ。家を出た瞬間を持って、お前はウチとは関係ない」
「ああ、わかってる。……今までありがとう。さようなら」
俺はそう答え、荷物を背負う。
そして、家の敷地を出ようとした瞬間。
「へへー、ざまあみろ! 兄貴だからってよそ様と話すときの礼儀だとか口煩く言うからこうなるんだ! 魔物に襲われて野垂れ死んでしまえ!! あっ、でもさぁ、どうしてもっていうなら〜、俺がこの家を継いだら使用人として雇ってやってもいいけどなあ?」
そんな言葉を弟ゲイルに言われてしまった。
もはや、この家での立場は完全に逆転してしまっている。
言い返す言葉もない。
何を言っても無駄だ。
俺は感情を殺し、無視して敷地を離れた。
もう、戻るつもりはない。
◇
午前九時。
教会で魔法適性を鑑定してもらったのが午前八時くらいだったから、このたったの一時間で俺の人生は大きく変わってしまった。
そんな中、俺は村の外に繋がる門を目指してフラフラと村の中を歩いていた。
この村には魔法適性がなくてもできる仕事がほとんどない。
仕事があったとしても未経験者は断られてしまう。
隣の大きめの村——アスタードまで行けば何とか魔法が使えなくてもできる仕事があるかもしれない。
そう思って、ひとまず隣の村まで移動しようと思っている。
一人になったことでこの状況を冷静に捉えられていた。
父シェイルをがっかりさせてしまった絶望と同時に、これから先の長い人生をどう生きれば良いのかとパニックになっていた。
しかし家を出てみれば、おおよその道筋は見えてくる。
・俺が目指した冒険者の夢は諦める。
・魔法が使えなくてもできる仕事を何とか探し出し、貧乏ながらも慎ましく生きていく。
たったこれだけの単純なことだ。
これまでは準男爵家の長男として、意識してはいないものの少しのプレッシャーを感じていた。
しかし、今はそれがない。
ある意味自由になったのだと前向きに捉えるとしよう。
「それに……夢もまだ完全に諦める必要はないかもしれない」
片手で数えられるほどだが、歴史上後天的に魔法適性を身につけた者は存在する。
ほぼありえないが、ほんの少しの希望はあるのだ。
と、まあそんなことはともかく。
まずは目先の生活費だ。
アスタード村への道中には魔物も出てくるはずだが、この辺の魔物は弱かったはず……。
魔法が使えないとはいえ、魔法を使わない剣の稽古は父シェイルにつけてもらっていた。
慎重に戦えば隣町くらいなら何とかなるだろう。
俺は頬をパンと叩き、気合いを入れる。
そして、村を出た。
「そういえば、九時……か。本当の誕生日はそろそろなんだよな」
『誕生日』とは、神が作った人間個人の生誕を祝う一年に一度の記念日と言われており、一日のうちにいつ生まれたとしても、誕生日の日付は変わらない。
しかし俺は意味もなく誕生日には誕生時間も意識してしまう。
確か、午前九時すぎに生まれたんだっけ。
そんなことをボンヤリと思っていると、突然頭が痛み出した——
まるで、脳が焼き切れるかのような強烈な痛み。
一人の男の人生を振り返るようなイメージで膨大な量の映像が俺の脳内で処理されているかのような感覚があった。
「な、何だこれ……い、痛い……意識が……遠の……く……」
俺は、思わずその場に蹲ってしまった。
「はあ……はあ……はあ……はあ……」
動悸が激しくなり、息が荒くなる。
そして、薄れていた意識は完全に途切れた。
「……!?」
……意識が途切れていたのは時間にしてほんの数分ほどだったようだが、回復した頃にはさっきまでの強烈な痛みは嘘のように引いていた。
しかし、驚いたのはこれだけじゃない。
「全部……思い出した」
◇
二千年前——
「我が一生に一片の悔いなし……とは言えないな」
とある山中の小屋のベッドで衰弱していた俺。
自分の身体の状態は自分が一番良く理解している。
死期が近づいていることを冷静に感じていた。
俺は、この一生を魔術研究と修行に捧げた。
幸いにも俺には魔術の才能があったようで、魔術研究はすればするほど新しい発見があったし、魔術の修行はすればするほどメキメキと順調に力を伸ばすことができた。
災厄の魔王を単独で倒したことで、世間からは『世界最強の魔術師』と言われ、名声までもを手に入れた。
しかし——
俺の人生は、裏返せば魔術しかなかった。
魔術の研究と修行に明け暮れるばかりでそれ以外のことを何もしてこなかった。
もし、もう一度人生をやり直せるのならば、魔術以外のこともやってみたかった。
気軽に話せる友達、一緒に過ごせる恋人、家族。
そのどれもが俺にはないものだ。
ごく普通のありふれたものだが、本当に羨ましい。
一人くらい看取ってくれる人がいてくれれば、こんなに寂しい最期にはならなかっただろう。
「人生を、やり直す……か」
普通の魔術師ならただの空想でしかないが、俺は腐っても世界最強の魔術師と呼ばれた男。
昔、不死魔術を研究している過程で転生魔術の可能性を発見したことがある。
上手くいけば、この願い……叶えられるのか?
人の死後には二種類ある。
一つ目は肉体とともに存在は消滅してしまい、無になる。……これが大多数の人間の最期だ。
二つ目は肉体は消滅するものの、『根源』と呼ばれる魂よりも深い要素が残留し、長い時間をかけて大気中の魔力の素——魔素が結びつくことで魂となり、妊娠中の胎児の肉体に宿る。……稀に起こる現象だ。
根源を意図的に魔素が結びつきやすい構造に調整することで、100%ではないが転生に成功する確率を上げることができる。記憶や才能を保持した状態で転生することも理論上は可能だが……今の俺の残魔力では難しいかもしれない。
15歳の誕生日——もっと正確には、誕生時間の15年後に記憶が戻るように……これならギリギリなんとかなりそうだ。
もし失敗したとしても、通常通り消滅するだけだ。
イチかバチか、やってみる価値はある。
「よし——」
俺は、転生魔術を発動した。
ベッドの周りに幾何学模様が浮かび上がり、俺の意識はそこで途絶えた。
◇
「転生、成功だ——!」
今世の15年と、前世の一生。
その記憶が共存しているのは何とも変な気持ちだが、俺の最後の魔法は成功していたらしい。
転生魔術は歴史上誰一人として成功したという話は聞いたことがない。
魔術を研究する者として、また魔術師としても世界で初めての成功というのは心の底から嬉しい。
「それにしても……死んでる間に色々と変わったものだな……」
まず、『魔法』などという新しい概念ができている。
これは俺がよく知る『魔術』と同様に超常現象を起こすことができるというものだが……奇妙な概念だな。
15年生きてきた俺の人生が知る限りでは、どう考えても今の時代にポピュラーな『魔法』は、かつての『魔術』の一部の概念でしかない。
集合で表現すると、『魔法⊂魔術』ということである。
つまり、『魔法』は『魔術』なのだが、『魔術』は『魔法』ではないということだ。
『魔法』は基本的には『魔術』に劣る。
『魔術』の方が発動速度・威力・安定性の全てにおいて優秀であり、あえて魔法を使う必要性を感じない。
なぜ魔法などというレアなものがこれほどまでに流行ったのかはわからない。
そもそも『魔術』なら人間全員が等しく使えるし、わざわざ『魔法』という技術に拘るのは何か意図を感じる。
まあ、とりあえずは現実を受け止めるほかないのだが。
「ひとまず、試し撃ちするか」
村の門を出てすぐなのでほとんど魔物はいない。
目視で探してもいいが、面倒だ。魔術を使おう。
——『周辺探知』。
これは、俺の周囲に魔力の網を貼り、近くにいる魔力を持った存在に当てることで位置を特定する魔術だ。
魔力を念のため人間ではないものと確認した後、魔物がいる場所に向かった。
ブラックウルフ。
黒色の狼の見た目をした魔物だ。
あまり力がないため人間を積極的には襲わないが、普通の村人が襲われれば命をかけた戦いになる。
どの魔術で攻撃するのか迷ってしまうが、ひとまずは基本の初級魔術を試してみよう。
——『火球』。
文字通り火の球が俺の手の平の先に出現した。
火力が高いため、青白く燃えている。
その火の球を直線的に発射することで、ブラックウルフに直撃。
ドゴオオオオオオンンンンッッッッ!!!!
ブラックウルフは跡形もなく消滅してしまった。
「うん、魔術はまったく問題なく使えるみたいだな」
転生魔術の失敗で魔術が使えなくなっている可能性も頭にあったので、ちゃんと魔術が使えて一安心だ。
魔法は使えないが、魔法よりも圧倒的に強い魔術が使える。
これなら問題なく安全に隣の村——アスタードまで辿り着けそうだ。
◇
目的地を目指して軽快に足を進める。
距離にして約50キロほどの道のりの半分を超えた。
かなりの距離だが、父シェイルが俺に稽古をつけてくれていた甲斐あってかなりバランスよく身体が鍛えられているようだ。ほとんど疲労を感じない。
もっとも前世の記憶を思い出すまでは上手くこの身体を生かしきれていなかった。
しかし魔術を用いた『身体強化』によるアシストや経験による身のこなしの上手いやり方を知ったのは大きい。
この調子ならあと一時間もあれば到着しそうだ。
今日は天気もよく、軽いピクニック気分。
そんな調子で歩いていていたところ——
「きゃああああああああああ————!!!!」
と、若い女の子の叫び声が聞こえてきた。
な、何事だ!?
俺は咄嗟に叫び声の先に意識を集中し、『周辺探知』を使う。
北東100メートル先で、女の子がやや大きめの魔物に襲われているようだった。
魔力の質からすると……魔物の正体はダイアウルフか。
この辺りでは想定できないほどに強力な魔物だな……。
ダイアウルフは、エリアボスと呼ばれる強力な魔物である。
エリアボスというのは、フィールドにいる通常の魔物と比べて著しく強い個体を言う。
魔物であることに変わりはないが、魔物とエリアボスは区別されることが多い。
つまり、声の主は大ピンチということだ。
「誰かわかんないけど、こういうのは助け合いが大事だしな」
俺は声の主を助けることに決め、駆け出した。
百メートルほどなので、助走をつけてジャンプすることですぐにエリアボス上空に到着した。
エリアボスの正体は、俺の予想通りダイアウルフ。
周辺にいるブラックウルフと比べれば三倍ほどの大きさがあり、銀色の毛並みが美しい。
しかし綺麗な見た目とは対照的に、前足がドスンと地面に衝突するたびに大地にヒビが入るほどの獰猛さを持っている。
そんなエリアボスから逃げるのは、金髪碧眼の美少女だった。
白を基調としたローブを纏い、長い髪をなびかせている。
歳は……顔を見る限りは俺の肉体年齢と同じくらいなので15歳前後か?
いまいち自信がないのは、少女の胸が意識しなくても目に入ってしまうくらい大きく同年代とは思えなかったからだ。
状況確認はこのくらいで十分だろう。
俺は、腰に携えた剣を抜き、魔術を使う。
『身体強化』に加えて——『鉄剣強化』。
鉄を原子レベルまで把握し、一時的に素材である鉄に魔力を帯びさせることができる魔法。
前世で俺が開発したものだ。
……まあ、当時はいつの間にか大衆的に使われていたが。
剣を握る手に力を込め、空中で身体を捻り、思い切りダイアウルフに斬り込む——
「よっと——」
ザンッ!
俺の一閃でダイアウルフの身体は正面から真っ二つに割れたのだった。
当然急所を含めて深く斬っているので、もうこのエリアボスが動くことはない。
「え……空から人が……エリアボスを一撃で……今、何が……!?」
エリアボスに襲われていた金髪碧眼の美少女は混乱しているらしく、まだ状況がよくわかっていないらしい。
「怪我はないか? ダイアウルフに襲われながら叫んでるのが聞こえたから助けたんだが……」
見たところどこも怪我はないようだが、足首を捻るとか見えない部分で怪我しているかもしれない。念のため確認はしておかないとな。
「あ、ありがとうございます! そ、そうなんですね……私、助けてもらえたんですね! お陰様でどこも痛くないです! 本当に助かりました!」
我に帰ったと思えば、ペコペコと何度も頭を下げる女の子。
「良かった。じゃあ」
用は済んだので離れようとしたその時。
「え!? あ、あの! どこに行くんですか!? 私、リーシャ・スカラレームって言います! あの、お礼をさせてください!」
「え、お礼? そんなのいいよ」
リーシャにとって俺は確かに命の恩人かもしれないが、俺にとっては目の前にいる雑魚を一匹片付けたに過ぎない。
「ダメです! その……ご迷惑じゃなければ、何かお礼をさせてください! 私にできることならなんでもしますから!」
「な、なんでもって……」
「はい、なんでもしますよ!」
女の子がそれを言っちゃダメだろう……。
そのうち悪い男に変なコトをされちゃうぞ?
「そもそも、俺には最優先でやるべきことがあって時間なんて——」
そう、俺がやるべきことは……あー、あれ?
魔術を極めるのは前世でやりきったんだった。
今世でやるべきことは……友達作りか。
「いや、よく考えれば時間はあるな」
「じゃ、じゃあちょうどいいじゃないですか! お礼をさせてください!」
上目遣いで俺を見てくるリーシャ。
くっ……可愛い……。
二千歳以上離れているはずなのだが、可愛いものは誰がどう見ても可愛いな。
ま、まあ歳が離れているからと言って、何か特別なことがあるわけではない。
「そ、そうだな。……じゃあ、気が済むまでお礼をしてくれ」
「はい、ありがとうございます〜! あの、名前をお聞きしてもいいですか……?」
「ああ、名乗ってなかったな……。アルス・オルフェルスだ。アルスとでも呼んでくれればいい」
「アルス……ですね! わかりました〜!」
天使のような明るい笑顔を俺に向けるリーシャだった。
◇
その頃、アルスの実家——オルフェルス家。
アルスが実家を出た後、シェイルは寂しそうな目でボーッとしていた。
対照的に、ゲイルはずっと浮かれていた。
「ヒャッホイ! やっと俺の時代が来たぜ! 邪魔な兄貴が消えて良かったぜ。なあ親父、俺にいつ家督を譲ってくれるんだ?」
ゲイルの浮かれた様子がシェイルの視界に入った瞬間、シェイルのこめかみの青筋が浮き上がった。
「うるせえ、黙ってろゲイル! お前にこの家を継がせる気はねえ! それだけは覚えてろ!」
「……え、はあ!? な、何言ってんだよ! 意味わかんねえよ! ふざけんな! 説明しろ!」
突然のシェイルの豹変にゲイルはブルっと震えた。
これは完全に想定外だった。
兄アルスが去った今、シェイルが作り上げた準男爵家の地位にあずかれると思っていただけに驚きを隠せない。
「何度でも言ってやる。お前が心を改めない限りこの家を継がせる気はねえ! 俺はまだアルスの可能性を信じてんだ!」
「は? な、何言ってんだよ……。兄貴は魔法適性0の無能じゃねえか! 俺が魔法適性0はありえない! 意味わかんねえよ!」
「魔法適性0が無能だと……? もう一回言ってみろ」
シェイルに鋭く睨まれたことで、ゲイルは萎縮してしまう。
「いや、その……」
「実はな、俺も15歳の頃は魔法適性0だったんだ」
「……!?」
「この世界では、たまに奇跡が起きる。俺に魔法の神様が微笑んでくれたのは、若い頃魔法の才能がないからと実家を追い出された時も腐らず一生懸命頑張ったからだ……と思ってる。俺はアルスにも奇跡が起きることに懸けてこの家を追い出すフリをしたまでだ」
「そ、そんなこと……兄貴には全然伝わってねえよ! 兄貴にとっちゃ追い出した悪者でしかねえよ!」
「伝わってちゃ意味ねえからな。べつに今すぐどうこうって話じゃねえ。……ふん、俺の目が黒いうちはゲイル、お前に家を継がせることは絶対にねえ。肝に銘じとけ」
「こ、このクソ親父……生きてる間は継がせないだと……?」
連載候補短編です!
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(評価は↓の広告下辺りにある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】のようにすればできます)
おひとりにつき【★★★★★】までしか評価を付けられないため、星5は冗談抜きでめちゃくちゃ大きいです!
感じたままで構いません。ぜひ皆様の清き評価をお願い申し上げます!
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・合わなかった
という場合でも星1や星2などつけていただけると参考にさせていただきます。
(合わなかったし文章が読みにくいので星1、合わなかったけど文章は読みやすいので星2 など)