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出会い

 少し薄暗いヌウアヌアベニューにある教会で、隔週でシニアに合唱を教えている。

練習を始めようとしていた時だった。


合唱団のリーダー、と言っても七十代後半のメンバーが若い男性を連れてきた。


「りさ先生、新しい牧師先生をご紹介します、吉田クリス先生。クリス先生、こちらは徳川りさ先生と言ってイギリスにピアノで留学なさっていておじさまが有名なピアニストですよ。」


(あー若い先生だな、でも顔がちょっとボーっとしているな、クリスって言うのだからハーフかな?大柄な人だ)


りさは思った。


それ以外の感情は何もなかった、年齢も下なら、好みの顔でもなかったから。


その時クリス牧師は

(あれっ、思ったよりより若いじゃん、小さくて俺好みだな。まあ年は40過ぎだろうな)

と思った。


りさと違って好印象を持ったのだった。


「こんにちは、初めまして、徳川りさです」


牧師の事はフランスのトゥーロンの音大で学んだフルーティストと紹介された。そして今は牧師。


「こんにちは、若い先生で驚きました。リーダーと同世代の方だと思っていましたので。クリスです、どうぞ宜しくお願いします。」


日本で音楽大学を卒業してヨーロッパまで留学したのに牧師になるなんて。よほどの出来事が彼に起こったのだろうなと瞬時に想像した。


 りさはフルートがそんなに好きではない。


結構簡単に音が出る楽器。中学生から習い始めても管楽器というのは結構プロになれる。


だから、管楽器の学生は音大に入ったりするとピアノは弾けないし、聴音は出来ないし、単位を取るのに苦労している人が多い。


ピアノや弦楽器と違って、小さい頃から音楽を始めていないから。管楽器の人が遅くから始める理由に、体が小さいと肺活量や手の大きさ、楽器の重さ、様々な事が管楽器を演奏するのに不向きだからだ。


管楽器の中ではフルートは比較的早めに始められる楽器とは言える。


りさは作曲も勉強したからフルートの曲も書いたことがあり、楽器として知識がある。


音楽高校の卒業試験にはフルートをピアノの曲でトップの成績で卒業した。


そうそう、リーダーが牧師に紹介した時、私がピアノを専攻したと言ったが否定しなかった。

作曲科だったと言っても意味が分からないだろうから。


牧師先生を紹介されてりさは思いついた。

(この先生を番組にに呼んでみようかな)


コーラスの練習が終ってからりさはいつも団員とお茶を飲んだりランチを食べる。

そこに若い牧師も現れた。ひとしきり団員がクリス牧師と話をしてからりさも話すタイミングが出た。

りさは自分のテレビ番組のゲスト出演を打診してみた。


りさはハワイのテレビ局で番組を持っていた。

インタビューを中心とした番組内容だった。


りさがインタビューしたいと思う相手、興味深い活動、社会に貢献している人や経営者、リーダーをハワイの日本語がわかる人たちに、人となりや仕事内容を紹介をしていく番組だ。


りさはいつもゲストを探していた。


「クリス先生、私はテレビで番組を持っていて、その方のヒストリーや知識などを紹介する内容なのですが、是非ゲストとして出演してくださいませんか?」


「えっ、りささんすごいのですねえ、僕でよろしければ、是非お願いします。」


すぐにクリス牧師の出演が決まった。

彼はラッキーだ。

小さなテレビ局の小さな番組とはいえ、その番組に出ると日本人社会の間で一気に知名度が付くのだ。

他のメディアの人がりさの番組を聴いていて、興味深いゲストだと直接連絡を取り、他の日本人社会の講演会に招かれたりする。


 りさはホノルルのテレビ局のアナウンサーであり、ウェディングのオルガン弾きとプランナーでもあり、ビジネスコーディネーターとしての様々な顔があったから、ハワイには沢山の知り合いがいた。


その頃のりさは仕事も充実していたし、彼もいた。


彼の龍一には家庭があったけど、素敵だし、次に出会う結婚相手が現れるまの、そんな感じで付き合った。

予想外にもお付き合いは長くなった。


その間には、家庭と決着は付けてもらい、一緒になりたいと思った時期もあった。


龍一は、体の弱い息子が成人してからでないと無理とか、今は慰謝料を取られたら十分に残らないとか、理由を付けては私との不倫関係が続き、変化が訪れるまで5年もかかってしまった。


りさにはそれまでもいろいろな出会いはあったが、男たちは帯に短し、たすきに長し。

それぞれの相手とお食事は何度かしたが、結局はピンとこなかった。


男女関係の線を超えた相手は龍一以外には出てこなかった。つまり、龍一の方が他の出会った男性より魅力的だった。


五年目に新しい恋人候補が現れた。


その頃は龍一もりさも、長く連れ添った夫婦のように相手を十分に大事にしなくなっていて、りさにとって龍一との関係は潮時だった。この機会を逃さまいとりさはあわてて5年間続いた愛の期間から終わりを告げた。


りさのタイミングだけではもちろんない。結局家庭との決着を付けなかったのは龍一だ。


しかし、その相手とは一ヶ月で別れる事になった。なんと、結婚詐欺師だったのだ。

深入りする前でよかった、本当によかった。


詐欺師のライアンはテレビのクライアントの事務所で紹介された。


この人の出現は長い間決断できなかった龍一との仲を割いてくれるための登場だった。


くだらない仕返しのおまけもあったりして、今は笑ってしまう滑稽なハプニングだった。

そのことは、りさの中では何のしこりも残っていない。


それは本当に龍一と別れる道具になる為に現れてくれたのだから。


クリス牧師に出会った時は、再度龍一と会い始めてはいたが、前ほどの頻度ではなかった。


クリス牧師はりさに礼拝の時にピアノを弾いてほしいと言ってきた。

りさには既に他の教会で日曜日に礼拝で弾くピアニストの仕事を持っていたから、そのお給料より多い場合か、時間がずれていればと思い、金額を提示した。


どうしても取りたい仕事もでもなかった。


牧師先生が書いてきたEメールに


「こんにちは、百ドルで十時十五分までに出られるならお受けできます」

と、必要内容だけ書いて返事をした。


後でクリスから聞いた話だが、なんと無礼な返事だと思ったらしい。

(こんな書き方しかできないなんて、大した人ではないのだろうな。もう頼むのを止めるか、いや、75ドルと提案してみよう)


「時間は9時からなので10時には終ります。そちらの教会に間に合うと思います。ただ、75ドルでお願いできないでしょうか?」

とクリス牧師から返事が来た。


(何だこの牧師、百ドルって言っているのに値切ってくるのか???)

りさは驚いた。


ただ、余分に仕事ができるのだからまあいいかと思い、引き受けることにした。


それからは、隔週のコーラスの指導に行く度に、日曜礼拝で弾くたびに、クリスと教会で会った。


どうぞどうぞと招き入れるのでオフィスでお茶を飲むようになって世間話をしたりして、それからまた仕事を頼まれた。

牧師としてシニアのケアホームに慰問としてフルートを吹きに行く時の伴奏してほしいと言った。


空いている時間なら大丈夫と言うことで一緒にクリスの車でカネオヘのケアホームヘ行ったり、日系人が多く通うクリスの教会のすぐ近くのクアキニ病院のケアホームに行くようになった。


私は初めの頃は仕事で行っていたが、途中から教会から支払われなくなり、クリスのポケットマネーでランチをご馳走になる事になった。


リサは小柄だからたまにとても若く思われる。でもさすがに一六歳も違うと同じ世代には見えない。クリスがりさのことに好意的なことは薄々気が付いていた。

でもりさはクリスの顔が趣味ではなかったし、何と言っても若造だ。全く恋人の範囲には入っていなかった。

でもからかってみた。


ある日、ケアホームがあるカネオヘという町へ向かう途中に年齢の話になり、りさが言った


「私の年齢はクリス先生のお母様に近いと思いますよ。」

(クリスは驚いた、えっいくつなんだこの人は!)


「何歳くらいまでが許容範囲なの?」


「僕は年上好きだから結構大丈夫ですよ」


「へー、私でも?」


「もちろんですよ」


「私は48歳よ!」


クリスは内心すごく驚いた、そんなに年上なのか。

クリスは続けた。


「いや、見かけが若いし、全然範囲内です、僕は日本人の母とフランス人の父との間に生まれたから、年齢とかあまり気になりませんよ」


聴き心地よい返事が返ってきた。


クリスは32歳だった。


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