佐和子さんが買ったシャツ
りさは食事に限らず、クリスに洋服も買った。
もちろんクリスがりさに買ってくれたり、おごってくれたりもする。
基本的にはりさは男性と付きあった場合、男性が全て払うものと思っている。
その代わり、相手が喜んでくれるお礼やおもてなしをする。
今回の場合は相手の懐状況がわかりすぎたのと、りさが人生初と言っても良いくらい稼ぎ始めたのが重なり、クリスに自分の好みの洋服を買って着せた。
中には半ズボンなど着るのを嫌がっていたのも少なくない。
そのころAbercrombie & Fitch通称アバクロが流行っていた。
りさはこのブランドが好きだった。
クリスとアラモアナショッピングセンターにあるアバクロに行った。
田舎顔のクリスには似合わなかった、体系も合わなかった。
がっしりはしているが背が高く細身用のこの店の品は、サーファー御用達し観たいな店なのだ。
クリスにはしっかりしたラルフローレンのボタンダウンのシャツがたくさんあることを不思議に思っていた。
他の持ち物と比べたら、お坊ちゃま風だ。
今はお金がないとしても、留学もしているし実家は裕福なのだと思っていた。
ラルフローレンは子供とおじさん御用達しの店でもある。
クリスにはちょうど似合う。
りさはクリスと付き合ってからはずっと、それらのボタンダウンのシャツとアロハシャツにアイロン掛けをしていた。
りさは日本人の中でも小柄だ。でも、クリスはハーフだからサイズも大きくて毎回大変だった。
クリスの貧相な一戸建ての家は夕方は西日で暑く、汗を流しながらがんばってアイロンがけをした。
彼にパリッとしたシャツを着せたかったから。仕事の行きと帰りに彼の家によって洗濯をしたり、そうじもしていた。
だからこのヌウアヌアベニューには一日に3往復することもよくあった。
ある日、嫌な人からもらった品物はその人のエネルギーがしみ込んでいるから持っているべきではないと先輩に言われたそうで、クリスはその良い品質のボタンダウンシャツを何枚も処分した。
ポロのボタンダウンのシャツはみんな佐和子さんからのプレゼントだったのだ。
私がアイロンをあてていたポロのシャツが全て無くなっていた。
りさは驚いた。
クリスが自分で買った安っぽい生地の薄いYシャツが残った。
同じ女として、佐和子さんが可哀そうに思った。
そんなに貢いでいたらその人の気持ちを察していたのだと思う。
もらう物はもらってあとはポイか。それで、品物もポイ。
私が買った物もポイされる日が来るのかな、と思った。
それが2回目の彼のずるさと弱さを感じた出来事だった。