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朝食のご飯のお供が好物の胡瓜の浅漬けで、朝からこんな良いことが起きるのは、この後何か不幸なことがあってバランスが取られるからだと、用心して1日を過ごしていたから
「ごめん、優希くん」
放課後、いつものように幼馴染みの流奈と下校ついでに近所の神社に寄り道した際。そう切り出されたことに俺はさほど驚かなかった。寧ろようやく来たかという感じだ。
ちょっと安心してる自分がいる。
だが彼女が謝る理由がよく分からなかった。1、2週間程前から少し元気がなくなったり、いつもよく食べるのにお昼の量が少なくなったり、帰りによく寄っていたクレープ屋に行かなくなったりはしていたが。
てっきりダイエットかと思っていた。
「明日、転校するの。……今まで黙ってて、ごめん」
うーん、思ったよりシリアスだった。
でもまだジョークという可能性もある。彼女はお笑い好きで冗談はよく言う。俺は嘘だろ、という思いで
「え、冗談だろ?」
と訊く。
今は5月ーーつまり俺たちが高校3年生になってまだ1ヶ月だ。転校するにもタイミングが謎過ぎる。
「本当だよ。……詳しい事は言えないけど県外だから……。会うこともないと思う」
なんと。
思わず狼狽する。彼女からは冗談の気配が微塵も感じられなかった。
「なんでこのタイミングなんだよ?こんなの……急過ぎるだろ」
「言うのが遅れたのは……ごめん。言い出せなかった」
「いや言うタイミングって意味じゃ……」
「ごめん、この話はこれで終わりにして」
あの白崎さん、誤解しないで私の話を最後まで聞いて欲しいんですが。
「私、優希くんと最後に過ごす時間は楽しい方がいい」
……何も言えねえ。
水泳で金メダルを獲ったばりにそう思った。獲った事ないけどーーそうやって茶化して、ボケを入れていないと平常心を保てそうになかった。
知らずに止めていた息を、溜め息として吐く。
「そんなこと言われたら断れないだろ……」
「ごめん」
謝ってばかりの彼女に、俺はもう謝るなと首を振る。
「ありがと」
彼女がぽしょりと呟いた。