過去編3
セリオンとエスカローネが十七歳のころ。
空は満天の星々で輝いていた。エスカローネは夜風に当たりながら、星を見ていた。
「エスカローネ?」
「? セリオン」
そこにセリオンが現れた。
「どうしたんだ、エスカローネ? こんなところで」
「ちょっと夜の風に当たりたいと思ったのよ」
「そうか……それにしてもきれいな星々だな」
「うふふ、セリオンもそう思うのね。なんだかうれしい、セリオンと同じ気持ちになれて」
「俺もうれしいよ、エスカローネ」
「ねえ、セリオン」
「どうしたんだ?」
「私、心からうれしいの。セリオンが私の名前を呼んでくれることが」
「そうなのか?」
「最近セリオンはスルト団長と一緒なのね」
「ああ、修行中の身だからね。それにスルトは俺にとって父同然なんだ。一緒に修行できて最高だよ」
「セリオンって最近そればかりね」
「どうしたんだ、エスカローネ?」
「私はセリオンのそばにいたいの。でも、セリオンの邪魔はしたくない」
「俺もエスカローネと一緒にいたい。でも、今はだめなんだ。まずは自分を鍛えたい。大切なものを守るためには力が必要なんだ」
「ごめんなさい。セリオンを困らせたかったわけじゃないの。ただ、最近一緒にいられる時間がなかったから」
二人はバルコニーでたたずんでいた。夜の風が二人のあいだを吹き抜けていく。
「もう、風が冷えてきた。そろそろ、戻ろうか」
「ええ、そうね」
セリオン十八歳。
セリオンは蒼龍バハムートと対峙していた。二つの足で大地に立つ。
セリオンは天使スラオシャから受け取った大剣・神剣サンダルフォンを構えた。この神剣は片刃の大剣だった。
一方、バハムートは二足歩行型の龍で、背中に二枚の翼を持っていた。空中に浮遊している。
「いくぞ!」
セリオンは全身から蒼い闘気「蒼気」を発した。
バハムートはセリオンの位置に向けて青い熱線をはきつけた。セリオンはバックステップでかわした。
バハムートは熱線で薙ぎ払ってきた。セリオンは前に跳び出た。バハムートの熱線はかわされた。
セリオンは大きくジャンプし、蒼気を纏った大剣でバハムートを斬りつけた。
「はっ!」
バハムートを打ち付ける。
しかし、バハムートは鋭い爪で切り払ってきた。セリオンは大剣でバハムートの攻撃をガードした。
だが、衝撃を殺すことはできず、セリオンは後方に吹き飛ばされた。
しばらく時が過ぎる。
バハムートは熱線をはきつけた。
「はあああああああ!」
セリオンは熱線を蒼気で相殺した。熱線を大剣で受け止める。
セリオンはバハムートに向かって駆けた。そして、跳びかかって斬撃を叩きこんだ。
「やっ!」
セリオンの攻撃はバハムートを押した。バハムートは大きく右手を振り払った。とたんに衝撃波が巻き起こった。セリオンは衝撃波に飲まれた。
「うっ!?」
セリオンは地面に叩きつけられた。
「はあ……はあ……はあ……」
セリオンは大剣を手に取って起き上がった。重なるダメージによろめく。
「強い。さすが蒼龍バハムート……だが、まだ終わらない!」
バハムートは熱弾を口から連射した。
「蒼気!」
セリオンは熱弾を迎えうった。セリオンは熱弾を一発ずつ斬り裂いていく。セリオンはすべての熱弾を迎撃すると、バハムートに急接近して蒼気の刃で斬りつけた。バハムートはあえいだ。この攻撃はバハムートに大きなダメージを与えた。バハムートは大地に着地した。
バハムートは今度はセリオンを爪でつかみかかってきた。
「おっと!?」
セリオンは後ろにしりぞいてかわした。バハムートは熱弾を発射した。
セリオンは熱弾をバハムートに狙いを定めて反射させた。熱弾ははじき返され、バハムートに命中した。
バハムートはよろめいた。
「いける!」
セリオンは大剣に雷鳴を纏わせた。刃から雷が放電する。
バハムートは翼にエネルギーを集中させた。両翼に膨大なエネルギーが集まる。
「来る!」
バハムートは最大級の熱線を吹き付けた。セリオンは正面から熱線に向かって大きくジャンプした。
大剣と熱線が正面からぶつかった。
「いく!」
セリオンはバハムートの熱線を押しのけた。
「くらえ!」
セリオンは雷鳴とどろく一撃をバハムートに叩きつけた。雷電がバハムートに降りかかった。
雷の力がバハムートに伝わる。バハムートはよろめき、耐えきれずに倒れた。
「勝った! 俺の勝ちだ!」
バハムートはよろめきつつ、立ち上がった。
「まだ、やるつもりか?」
セリオンは警戒した。
しかし、バハムートからは戦闘を続ける意思は感じ取れなかった。
「何だ?」
バハムートはセリオンの前で、こうべを垂れた。
「臣従の誓いか……」
セリオンはバハムートに近寄った。そしてバハムートの頭の上に自分の手を置いた。
「分かった。これが臣従の誓いだ」
バハムートは正しい姿勢に戻った。すると、バハムートは翼をはばたかせて、大空に飛翔していった。
この時以来、バハムートはセリオンを主とし、セリオンの召喚に答えるようになった。
バハムートを倒したセリオンはテンペルに帰還した。
「セリオン!」
声がした。声の主はアリオンだった。アリオン十四歳。
「アリオン、帰ってきたぞ。蒼龍バハムートを倒した」
「また一つ、誉れを上げたな!」
セリオンとアリオンは互いの右手を勢いよく合わせて握った。
「セリオン!」
「アリオン!」
アリオンはセリオンに憧れていた。早く自分も武勲を上げたいと。
「すごいな。やっぱりセリオンはすごいや」
「じきにアリオンもそうなれるさ」
「いや、俺には無理だよ。セリオンだからできるのさ。というより、セリオンにしかできない!」
「ところで、エスカローネがどこにいるか知っているか?」
「いいや、分からない」
「そうか……」
「どうしたんだ、セリオン?」
「いや、なんでもない」
そのころ、エスカローネは礼拝堂にいた。主なる神に祈りを捧げる。
「主なる神よ、私の愛するセリオンに祝福を」
礼拝堂は静かだった。礼拝堂にはエスカローネしかいなかった。エスカローネはセリオンがバハムートと戦いに行ったことを知っていた。セリオンなら大丈夫という気持ちと、もしかしたらという相反する気持ちを持っていた。
「エスカローネ」
「セリオン?」
「俺はバハムートを倒した。バハムートに勝ったんだ」
「ええ。セリオンなら勝てるって思っていたわ。おかえりなさい」
「ただいま。それと……」
「? どうしたの?」
「ずっと言いたかったことがあるんだ」
セリオンは照れていた。
「何?」
セリオンはエスカローネを直視した。
「俺はエスカローネを愛してる」
「!?」
エスカローネは息をのんだ。セリオンの告白にエスカローネはほおを赤らめた。
「私もセリオンを愛しているわ」
「エスカローネ!」
「きゃっ!」
セリオンはエスカローネを抱きしめた。セリオンはエスカローネの存在を全身で感じた。
「エスカローネ、愛してる」
「セリオン、愛してる」
二人は短く唇を重ねた。エスカローネは大粒の涙を流していた。
セリオンとエスカローネはヴァナディース Wanadiis 平原に来ていた。緑の平原がどこまでも眼下に広がる。
「ねえ、セリオン」
「なんだい、エスカローネ?」
「どうしてここに来たの?」
「スラオシャから神の意思が下った。俺たちシベリア人はいつかツヴェーデンを出ていかねばならないからさ」
「ツヴェーデンを去るということかしら?」
「そうだ。俺たちは俺たちの新しい国をもたねばならない。もうツヴェーデンにいてはいけないんだ。ツヴェーデンはツヴェーデン市民のものだから。俺たちは新しい国を必要としている」
セリオンとエスカローネは二人並び立っていた。セリオンはエスカローネの肩を寄せた。
「セリオンならできそう……ううん、そう信じられるわ」
「さあ、行こうか!」