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過去編2

セリオンが十五歳の時。

セリオンはたくましい戦士に成長していた。

セリオンはスルトに連れられ、フロース山に来ていた。今では、かつて扱えなかった大剣を扱えるほどになっている。二人がフロース山に来たのは修行のためである。

「まずは、気息きそくを鍛える。気息は霊的な力の源だ。精神の上位領域でもある。そして、息を根源としている」

スルトは息を吸ってはいた。スルトの体から青白い気が発せられた。

「やってみるがいい」

「そう言われても……」

セリオンは困惑した。

「フッ、まずは頭で考えるのではなく、実際に試してみることだ」

セリオンは大剣を構えた。ゆっくりと呼吸する。するとセリオンの体から青白いオーラが揺らめいた。

「そうだ。それでいい」

場所は凍結した地面の上だった。スルトは剣に力を入れた。

「かかってくるがいい」

セリオンは大剣を構えてスルトを見た。隙が見当たらない。スルトは右手でただ豪剣を持っているだけだ。

セリオンにはどこから攻めても、反撃されるような気がした。

「恐れるな。まだ、これからだぞ」

セリオンは意を決した。

「やっ!」

セリオンはスルトに斬りつけた。しかし、スルトはセリオンの大剣を払いのけてはじき返した。

「うっ!?」

セリオンはスルトの斬撃を受けて後方に飛ばされた。

「くっ!?」

なおもセリオンはスルトに斬りかかった。スルトはそれをやすやすと受け止めた。

スルトの武器は豪剣ごうけんと言って、大剣よりも大きな剣だ。

その名は「フィボルグ Fibolg」、「氷の巨人」という意味だ。

刃と刃がぶつかる。

「戦士には力が必要だ。それも一人で十人を相手にできる力が」

「うわっ!?」

スルトはセリオンの大剣を押しのけた。セリオンは体のバランスをなんとか保った。

「だが、それ以上に必要なものがある」

「?」

「戦う意思だ!」

スルトはセリオンに言い放った。スルトはセリオンに接近すると、豪剣で激しく打ち付けた。

「ぐっ!?」

セリオンは受けに回った。スルトの一撃、一撃の威力が大きく、セリオンには防ぎきれなかった。

「戦士に最も必要なもの……それは戦う意思だ!」

スルトはセリオンの大剣を打ち払った。セリオンの大剣が宙を舞う。

「がはっ!?」

スルトは豪剣の柄でセリオンを打ち付けた。強烈な一撃だった。セリオンはうつぶせに倒れた。

失神する前にセリオンは今自分がいる場所の寒気を全身で感じた。

スルトはセリオンを見つめた。厳しさを宿した瞳だ。峻厳さの現れだ。スルトは穏やかにほほ笑んだ。

それはまるでできのいい生徒に対する教師のまなざしであった。

スルトはセリオンを背負った。そしてセリオンの大剣を回収すると、テントへと歩いて行った。



夜、テントの中。

セリオンはテントの中にスルトによって運び込まれた。

「う、うん……」

セリオンはゆっくりと目を覚ました。セリオンは周囲の状況を確かめた。自分はテントの中で眠っていた。

外はもう夜だった。外ではたき火が燃えていた。セリオンはテントの外に出た。

「目が覚めたか?」

たき火のそばにはスルトが一人で座っていた。セリオンはたき火のそばに近づいた。

「俺はどれくらい眠っていたんだ?」

「ほんの4、5時間くらいだ。まったく、よく眠っていたぞ」

セリオンは恥ずかしくなった。顔を赤らめる。

「すまない……」

「気にするな。誰でも最初から強いわけではない。強くなるためには、訓練を必要とする」

スルトはたき火をじっと見ていた。スルトは聖堂騎士団の団長であり、テンペルの指導者である。

戦士としても超一流の強さを誇る。

周囲には暗闇のとばりが落ちていた。辺りは寒く、静かだった。

「俺はもっと強くなりたい」

「気の早いことだ」

「俺は純粋に強さそれ自体を求めている。でも、それだけじゃない。自分にとって大切な存在を守れるようになりたいんだ」

セリオンはたき火を見た。それから、夜空を見た。フロース山からは夜空の美しい星々を見ることができた。

「それはすばらしいことだ。大切に持っているといい」

「俺はエスカローネを愛している。だから、彼女を守れるように強くなりたい」

「明日からの修行は厳しくなるぞ。少なくとも、そう簡単にのびられては困る」

「分かっているさ!」

セリオンは恥ずかしさを抑えつつ言った。

「戦いと愛、それがおまえの強さだな」

「戦いと愛が、俺の強さ?」

「自分の強さの本源を知っておくことだ。それがおまえ独自の強さに結びつく。おまえはエスカローネに愛を告げたのか?」

「いいや、まだ言っていない」

セリオンはたき火を見つめた。

「まだ、その時じゃないような気がするんだ。だから、まだ言っていない」

「今頃、何をしているんだろうな、彼女は」

「どうだろう……やっぱり祈っているんじゃないだろうか」

「ディオドラもだ」

「母さんも祈っていると思う。それとも厨房で片付けでもしているんだろうか……?」

「おまえは良き母に恵まれた。それは誇りにしていい」

「分かっている。俺が小さいころから、母さんが俺をどれだけ愛してくれたか。俺は母さんから、他者を愛することについて教わった。だから、これからは他の人を愛したいんだ。他者を愛することは、すばらしいことだから」

「フフフフ」

スルトは軽く笑った。

「何か変か?」

「そういうわけではない。初めておまえと出会ったときのことを思い浮かべていた。その時と比べると、ずいぶん今のおまえは成長したものだ」

「初めて会った時か……俺はあまりよく覚えていない」

「まあ、そんなものだ。さて、では我々も眠るとしよう。おやすみ、セリオン」

「おやすみ、スルト」

そういうと、二人は火を消してテントの中に入った。




その日の夜、エスカローネは聖堂付属の礼拝堂にいた。

「神よ、私が愛する人をお守りください」

エスカローネはひざまずき、祈っていた。エスカローネは十五歳。長い金色の髪が美しかった。

「セリオンが無事でありますように」

「エスカローネちゃん?」

そこにディオドラが現れた。ディオドラの髪も流れるような金髪で優雅だった。

「ディオドラさんも祈りに来たんですか?」

「そうよ」

ディオドラはしゃがんだ。

「主よ、セリオンをお守りください。そしてこんにちの日ごとのかてをお与えください」

エスカローネは立ち上がって、ディオドラを見た。美しい、きれいな人だと思った。ディオドラはセリオンの母だ。彼女は毎日きちんと祈りを捧げている。清い信仰心の持ち主であった。

そんなところが、セリオンから見て美しいと思わせるのだ。

エスカローネはなんだか圧倒されるような気がした。なんて美しい祈りなんだろうと。

ディオドラは白い襟元に青色の修道服を着ていた。

「ありがとう、エスカローネちゃん。セリオンのために祈ってくれて」

「いえ、私がしたくてしているだけですから」

ディオドラはエスカローネにほほ笑みかけた。

「愛しているのね、セリオンを」

「え?」

エスカローネは真っ赤になった。それが事実を物語っていた。

くすくすとディオドラは笑った。

「いいのよ、別に、隠さなくって。セリオンは幸せね」

「…………」

「さて、もう就寝時間になるわ。おやすみなさい、エスカローネちゃん」

「はい、おやすみなさい、ディオドラさん」

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