愚者であるが所以
ショウイチの幸せな日常生活は、僅か10歳で音を立てて崩れ去った。「父の失踪」が1人の少年の世界を灰色に変えた。
父のミヤウチ=アキラは、30年程前、まだ異世界転移魔法が確率される前の古い手法で召喚された者の1人だった。古い手法は多くの触媒と高い技術を必要としたため、一部の大魔導師が密かに行っているものだった。
アキラは召喚された後、自分の知識を使って貧しいウィンダを建て直す為に尽力した。農耕技術のノウハウや、商業に流通など、あらゆる面で人々を指導し、やがてウィンダの父と呼ばれる存在になっていた。しかし、ウィンダは魔導大国グランドルの圧政を強いられ、いつまで経っても民に豊かな生活が訪れることは無かった。
そこでアキラは自分の知識と引き換えに、ウィンダの政治の改善を求めた。しかし、アキラはグランドル軍に捕まり、ウィンダに帰る事は無かった。
そこで、アキラの親友であるジンを中心に結成されたのが、革命組織「ジェダス」だった。アキラの奪還と、グランドルからの独立を求める反乱軍となり、グランドルとの激しい戦争が始まった。
反乱軍の努力の甲斐あって、グランドルからアキラを取り戻したものの、ウィンダは焼け野原となり、アキラの作り出した物は全て壊れてしまっていた。
アキラは、人々の笑顔を取り戻すと告げると、ウィンダを去り、どこかへ消えてしまった。この後に、何故かグランドルとの和解の話が持ち上がり、結果的に終戦となった。ウィンダは権力者に支配されない自由都市となり、人々には平和が戻っていった。
しかし、アキラを失った妻のリナとショウイチに、幸せが戻る事は無かった。幼いショウイチは、父の形見である自由都市となったウィンダを守るため、都市の最高部隊である治安維持部隊へ入隊した。
ちょうどその頃にグランドルを始めとする大国の研究機関が、異世界転移魔法の確立化に成功した。転移者は何故かとてつもない力を持っている事に気付いた各国は、自らの軍事力増強のために次々と転移者を召喚していった。しかし、人智を超えた力を持つ転移者の力は国を持ってしても制御出来る物でなく、転移者に国ぐるみでごますりをして、何とか自国の軍に取り込もうとしていた。しかし、窮屈な軍を抜け出して好き勝手に振る舞う転移者が時を経るごとに現れ始め、ウィンダにも転移者たちが流入してきた。
ウィンダの治安維持部隊は、産まれでは無く、実力があれば誰でも短期間でのし上がれる仕組みのため、転移者たちはウィンダにおける地位の獲得を目指して治安維持部隊に入隊をし始めた。しかし彼らは、自らの地位だけを求め、街の治安の維持などに興味は無く、ウィンダは次第に荒れ始めた。
転移者の子孫である「アウター」は、不完全に転移者の能力を遺伝するため、転移者からも一般人からも差別される存在であり、その1人であったショウイチは、不完全な能力のため、転移者との戦闘訓練において勝ち目は無かった。荒れ果てて行くウィンダと自分の無力さに打ちひしがれていたショウイチは、治安維持部隊の訓練長であり、この部隊の現状に疑問を持つジンと出会った。同じくアウターであるジンは、アウターでも、やりようによっては転移者相手に勝てる事を知っていた。
ショウイチは父の親友で戦いの達人であるジンに訓練を志願し、血の滲む様な3年の努力の末、洗練された戦闘技術を身に付け、1人の転移者との戦闘訓練に勝利した。
「力に使われるな、支配しろ」
このジンの教えが、この後のショウイチの戦いの根幹となった。
知恵と力を手に入れたショウイチは、父の夢を実現するために、次なる一歩を踏みだすのであった。