9 お遊びIFストーリー おにいちゃんは心配症!?
お遊びSS。
もしも柴田さんが現れなかったら神崎家は?というIFの世界を、(古臭い)少女漫画的テンプレなんかも使い、書いてみました(笑)。
いえその、きしかわ せひろ様リクエストの『柴田さんの変態日誌』は、どうあがいてもコメディというよりサイコホラーになるなあ、と思いまして。
だから、岡田あーみん先生的?なキャラで、お遊びIFストーリーにしてみました。
きしかわ様、ご笑納いただければ幸甚です。
私の名前は神崎るり。
この春、高校生になったばかりの十五歳の女の子♥
これからの高校生活に、ワクワク☆ドキドキしてるんだけど……ひとつ気がかりなことがあるの。
実は私には、すっごく心配症のおにいちゃんがいて……。
「るり!るり!大丈夫か?いつもより5分36秒、風呂が長いぞ!」
ドンドン!ドンドン!
浴室のドアを叩くのは、今年大学四年生のおにいちゃん・神崎明生。
外ではクールな二枚目キャラで通しているけど(実際、私の友だちにもファンが多いんだよね、確かにおにいちゃんは色白で繊細な顔立ちのイケメンだし。その顔を漆黒の長めの前髪で半分隠すようにしているからか、雲隠れにし月読命、なんて厨二全開なふたつ名を彼女たちから捧げられてるのよね。ホントはお間抜けでウザいシスコンだって言いたいけど、おにいちゃんと私の名誉の為、黙ってるんだ)、実態はこんなもんなのよね!
「おにいちゃん!」
叫んで湯船のお湯を手桶ですくい、浴室のドアにぶつける。
怒りの水音?に、さすがのおにいちゃんもひるむ。
「んもう!ちょっとゆっくり目にお風呂につかってるだけだってば!なによ、その5分36秒って!私がお風呂入ってる時間を、わざわざストップウォッチで測ってるの?サイテー!変態!」
「へ……変態って。ひどいよるり。そりゃ測ってるよ、だって心配じゃないか」
ひるみながらも馬鹿兄貴は、何故だか自慢みたいに言い切る。
「お前は4歳8か月と13日目に、風呂でのぼせて倒れたことがあるんだぞ!あの時オレは目の前が真っ暗になるかと思うくらい心配で、もし万が一のことがあったらって不安で不安で……」
なんだか涙ぐんだような声で、おにいちゃんはグダグダ言ってる。私はため息をつき、ずきずき痛む頭を抱えた。
「あのねえ。そんな十年以上前の、幼稚園に行くか行かないかの頃の話されても困るの!どうでもいいけど、そこから離れてよね!おにいちゃんがそこにいたら、私、いつまで経っても出られないでしょ!このままじゃおにいちゃんのせいで、ホントに私、のぼせちゃうじゃない!」
ひえ、とか、ふえ、みたいなヘンな声を出すと、ごごごごめんとか言いながらおにいちゃんは、つまずいて転びそうになりながらも、やっと浴室から出て行った。
はあああああ。
盛大なため息をつきながら、私は湯船から立ち上がる。
そう。
この意味不明なくらい心配症の兄貴のせいで、私にはボーイフレンドがいない。
自分で言うのもどうかと思うけど、私だってソコソコ可愛い方だし、今までにも何人かの男の子に声をかけられたことがあるのよ。
だけど、どこで嗅ぎつけてくるのかおにいちゃんが現れて、その男の子たちをさり気なく(あからさまに)脅して、結局遠ざけてしまうのよね!
『僕はやっぱり、神崎さんには相応しくないよ』
何だか疲れた、死んだ魚みたいな目をした男の子たちは、そう言って私から離れてゆくの。
『あのおにいさんには絶対敵わないし』って。
……おにいちゃん?おにいちゃんは私と関係ないでしょ?
私が好きだって言ってたじゃない。
そりゃ、イチイチ邪魔しに来るおにいちゃんもおにいちゃんだし、一番悪いのはおにいちゃんだよ?
でも、そこで凹む男の子にも正直、私はイラつく。
あのおにいさんには敵わないって、そもそも六つも年上の大学生に、中学生が敵う訳ないでしょ!
なんで勝とうとか思う訳?あんなの無視してよ、無・視!
凹む必要なんかないじゃない!……って。
「だからるりは『姫』なんだってば」
私が愚痴ると、生ぬるい目をしたみんなにそう言われた。
「男の子たちへの同情がない。なさすぎる」
「ま、『姫』だからねー。しょうがないねー」
「なんじゃ、わらわに相応しい男はおらぬのか?」
「いる訳ないじゃん。月読さまがお守りになってる一族の姫さまだよ?」
「姫さまはいいけど、選り好みしているうちにおばさんになったりして……」
「うっわ、シャレにならないんだけどォ」
ぎゃははは、とみんな笑う。
んもう……他人事だと思って!
翌朝。
私は制服に着替え、早めに家を出た。
おにいちゃんはお寝坊だから、こんな時間に起きてくることはない。
さっさと出かけて、学校の近くのカフェでカフェオレでも飲もうかな?
中学生の頃はおにいちゃんが毎日、尾行同然に学校までついてくるからコンビニにも寄れなかったもんね。
ウキウキしながら駅へ向かう。
こんな清々しい気分で登校できるのなんて、初めてかもしれない。
なんとなく新しい出会いがありそうな予感……キャッ。
「あ、スイマセン」
角でぶつかったのは、おにいちゃんと同じくらいの年頃の男の人だった。
なんとなくとろんとした感じの、耳に柔らかいテノール。
ドクン、と胸が鳴ったのは……何故?
「スミマセン、よそ見して歩いてて。あ、そうや。この辺に住んではる方ですか?」
「あ……は?はる?」
私がポカンとしていると、ああ、と彼は軽く眉を寄せ、言い直した。
「いえその。大阪訛りです、気にしやんといて下さい。……住んでらっしゃる方ですよね?実はあるおウチを探してるんです。神崎さんのお住まいはこの辺やと思うんですけど……」
「神崎?神崎はウチですよ?ひょっとして父を訪ねてこられたんですか?」
青年は目を見張った後、ふわりと笑んだ。
初夏の陽射しを透かす木漏れ日を思わせる笑み。
改めて見ると姿勢のいい、美しい若い木を連想するような人だった。
「はい。半年こちらでお世話になりながら勉強させていただくことになりました。恵杏大の橋本教授のご紹介で参りました、結木と……」
……ドッドッドッド…ドドドドドド……
「…~り~る~り~る~り~!!」
ずざざざざざぁああ。
私の後ろで地響きと、道に足を滑らせながら止まる、不吉な音がした。
「る~り~。勝手に学校へ行っちゃ駄目じゃないか~!」
恐る恐る振り返ると、部屋着兼パジャマのスエットスーツの上に春物のコートを引っかけたおにいちゃんが、乱れた髪のまま肩で息をしていた。
目がつり上がっていて、不審者以外の何者でもない。
「……お知合いですか?」
一瞬絶句した後、結木と名乗った青年が私へ訊いた。
「知りません!」
叫んで、私はクルリときびすを返し、駅へ向かって駆け出した。
「る~り~!」
「ちょっとあなた、高校生の女の子追いかけてどないするつもりです?」
「うるせえ!なんだよお前は。るりはオレの妹だ!痴漢やナンパ男から妹を守らなきゃならないんだ!放せ!」
「はいはい。大変ですねえ。春先には難儀な人が多いなあ……」
そんな声を聞きながら私は走る。
でも……あのおにいちゃんにまったく動じない、彼。
(結木さん……って、いったっけ?)
ちょっとドキドキ……しちゃうかも♥




