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2 感想100・200記念SS ヒーローがムッツリスケベな件。

 『月の末裔』で目覚ましかった(当社比)のが、寄せていただいた感想の数です。

 3桁!3桁の数ですよ!

 信じられますか?超底辺なろう登録者なのに!


 浮かれた私は活動報告でお祝いにリクエストを募りました。←黙殺されたらどうするつもりだったんだ、私。

 キリ番を踏んだ方優先、という形で。

 以下がそのSSです。

 まずは感想100記念。リクエストは伊賀海栗様(と、101番目のつこさん。様)。

 ありがとうございました。

 

★★★☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆★★★


  SS『あの時の結木』


 自然に目が覚めた。

 何気なく深く息を吸い込むと、清々しい青いにおいがした。

(木霊の誰かが、フィトンチッドを分けてくれたんやな)

 胸でひとりごち、俺は半身を起こす。

 寝室として使っているこの和室には、庭側に障子がはまっている。

 白い障子紙越しの光の加減から考えて、もう午後遅いだろうと察した。枕元に置いてあるスマホで、俺は時間を確認した。

 2:43pm

 横になったのが11時前だったから、4時間近く寝込んでいたのかとさすがに驚く。

(ハラ、減ったなァ……)

 喉も乾いた。

 水かお茶でも飲んで、何かつまもう。

 少なくとも菓子鉢にあられが残っていた筈だ。

 のそりと起き上がると、俺は何も考えず、ダイニングキッチンへ行こうと間仕切りの襖を開けた。


「ぅえ?」

 変な声が出てしまったが許してもらいたい。

 だって、ダイニングに布団を敷いて誰かが寝ているなんて、思う訳ないではないか。

 布団にくるまった人物は、むにゃむにゃと言うかふにゅふにゅと言うか、寝言にもならない寝言を口の中でつぶやくと、寝返りを打った。

 布団の陰から顔が見えた。

「かっ」

 慌てて口をつぐむ。大きな声を出すと起こしてしまうかもしれない。

(えええ?神崎さん?)

 意外なと言うか、でもまあその人しかおらんよなと言うか、布団の中で幸せそうに眠っている人物は神崎さんだった。

 俺は立ったまま、ぐるぐると考える。

(なんでや?いやその、と……隣の部屋やけど。隣の部屋であって、決しておんなじ部屋やないけど、やな。寝るか?フツー、年頃の女の人が無防備に。すぐそこに男がおるんやけど?いやその、別にいかがわしいことなんかせえへんで。せえへんけどやな、されても文句言えん状況やんか。いや、そりゃ俺は寝込んどったけどやな、正直そんな気も元気もない状態やと言えんこともない状況やったけどやな。起きてきたら、必ずしもそうやないやろ?いつ起きてくるかわからへんのに……)

 もしかして、男やと思われてへんのか?

 かなり凹むことに思い至り、俺は一瞬、脱力した。

「ん……」

 乾いて白っぽくなった唇の内側が、はっとするくらい綺麗なベビーピンクなのに気付き、俺は生唾を呑む。

(ま、まずいまずいまずい。まずい。まずいっちゅうねん!)

 慌てて目をそらし、こそこそとキッチンスペースのシンクへすり足でゆく。どうしてもぎくしゃく、中腰っぽくなってしまう。

 その時ふっと、濃いフィトンチッドの香りが鼻をかすめた。

(あ、そういうことデスか……)

 別の意味で脱力した。

 この濃さ、ナンフウや遥みたいなガキのものやない。大楠先生や。

 大楠先生自ら、神崎さんへフィトンチッドを分けたということは、神崎さんがかなり疲れていたということだろう。

 それもそうだ。

 色々と立て続けに起こってそれだけでも大変なのに、見知らぬ土地へ、この間知り合ったばかりの人間にほとんど無理矢理、連れて来られたのだ。

 気が張っているからしっかりしているように見えていたが、俺以上に疲れていて当然だ。

 気が回らなかった自分に軽く自己嫌悪しながら、洗って伏せてあるゆのみへ蛇口から水を注ぎ、ひと息に飲んだ。カルキくささはあるが、渇いた身体に水は沁みた。大息をつく。

「んんん……」

 やや苦しそうな声。慌てて振り向く。

 神崎さんは口を引き結び、眉間にしわを寄せている。悪い夢でも見ているのかもしれない。そっと枕元へ寄ってみた。

 途端に足の裏に何かが張り付いた。見てみると、細長い植物の切れっぱし……棕櫚の木の繊維、だった。

 まざまざと見えた。

 大楠先生のフィトンチッドに込められた癒しの霊力に、神崎さんはくずおれる。それを支える先生。

 寝室にフィトンチッドを撒き、俺の眠りを深くさせてからあちらの部屋の押し入れから寝具を運ぶナンフウと遥。

 布団をのべ、おそらくは神崎さんをお姫様抱っこして布団に寝かせる大楠先生……。

(許さん!)

 一瞬殺意が湧いた。

 が、すぐその殺意を押し込める。

 悪気なんかない。そう、彼らに悪気なんかない、筈。

 悪気が無いからこそ、無造作に年頃の娘さんを眠らせた上、こんなところに寝かせたのだ。

 ヒトの身体をリアルに持っていた頃ならば、彼らにも多少は人間の男めいた欲もあったかもしれない。

 だが今、彼らは木霊なのだ。

 自意識にヒトだった頃の名残りは濃く残しているだろうが、生物としては樹木。

 彼らにすれば、眠る幼子を寝かせるくらいの感覚なのだろう。

 その筈。その筈だ。

 違ってたらぶっ殺す!(無理やけど)

「う、う、うーん」

 うなるような声。

 うなされているのだ。悪い夢でも見ているのかもしれない。

 煩悩方面のグダグダは一時棚上げにし、俺は彼女へ声をかける。

「神崎さん。あの。神崎さん……」


 目を覚ました彼女に、紙と書くものをと必死の形相で言われて困惑するのは、このすぐ後のことだった。


★★★☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆★★★


 これは、ヒロイン・るりにつきまとっている兄の怨霊から逃れ、ヒーロー・結木の地元に逃げてきた頃の話です。

 病み上がりの結木が昼寝をしていた隣の部屋で、ぐっすり眠っているるり。

 先に目が覚め、るりが無防備に眠っているのに気付いた結木は、さぞもやもやしただろう(笑)……という予想のもとに書いた話です。


 では、次。

 感想200記念SS。

 リクエストはキリ番を踏まれた砂礫零様です。


★★★☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆★★★


  SS『はじめてのクリスマス』~結木草仁視点~


 12/24 am9:00。

 俺は張り切ってエプロンをつけた。

 自分のは黒のエプロン、るりさんのは赤のエプロンだ。

 最近、二人でキッチンに立つことにも慣れた。


 結婚して約一か月。

 今日は二人で過ごす、初めてのクリスマス・イブだ。


 母に書いてもらったメモを見ながら、俺はチキンの下ごしらえをする。

 ウチの母は趣味で、ちょっとばかり垢抜けた家庭料理を作る人だ。

 まあおばさん(ばあさん?)なので、『垢抜けた』といっても大したことはない。

 それでも和洋中、普通なら買ってくるようなのを含めて、日本の家庭に並ぶおかずは大抵、材料と調味料でタカタカっと作ってしまう。

 俺が小さい頃からクリスマスには、毎年、一から仕込むフライドチキンがテーブルに並んだ。

 売ってるものに遜色ない、しかも揚げたてすぐのフライドチキンを家で食べられるので、俺は楽しみにしていた。

 今日はそれを再現しようと思う。

 クリスマス用に売っている大きな骨付きもも肉を二本、冷蔵庫から出す。

 これは昨日、仕事帰りにスーパーで買ってきておいた。

 ローストレッグにするような骨付きモモ肉を、まるごとどーんとフライドチキンにすると、かなり豪勢な感じになる。

 クリスマスだけの贅沢な楽しみだ。


 丁寧に筋を取り、皮の下からはみ出している、目につく余分な脂身を取る。

 皮を上にし、そこをフォークでブスブス刺して、下味が沁み込みやすくする。

 擦り込む感じで全体に塩をし、バットに並べる。

 レモン一個を半分に切り、ぎゅっと果汁をしぼる。この時、ちょっとくらい種が肉の上へ落ちても気にしない。

 そして肉がひたる程度に牛乳を入れる。レモンの果汁で牛乳がもろもろっとなるが、それも気にしない。


 ……と、母のメモにある。

 こういうことをけっこう細かく気にしてしまう俺の性格が、母には完全にばれている。

 苦笑いしながら、それでもどうしても気になったレモンの種だけは取り除いた。

 仕込んだチキンを冷蔵庫にしまう。

 5~6時間後の昼過ぎ辺りに上下を入れ替え、下味がまんべんなく肉にしみこむようにするらしい。


 後は衣の準備。

 薄力粉をベースに塩、パプリカ、カレー粉、粗びきこしょうなどを混ぜる。

 塩はきつめ、香辛料は好みだが基本香り付け程度でよし、とのこと。

 おっかなびっくり混ぜ合わせ、ちょっとなめてもう少しカレー粉を足し、まあこんな感じかなというものが出来上がった。

 後はこれをチキンにまぶして揚げるだけだ。

 フライドチキンそのものは初めてだが、唐揚げは今までに何度も作っている。

 何とかなるだろう。


 るりさんは今まで、こういうアットホームなクリスマスを過ごすことが少なかっただろうなと思う。

 そもそも、楽しむことを自分に戒めてきたようなところが見える。

 俺の腕前では高が知れているけど、出来るだけ手作りの、美味いクリスマスディナーを食べさせてあげたいと思う。

 仮に失敗したとしても、失敗したなあと一緒に笑い合えるような、楽しいクリスマスにしたい。

 俺がメインを作ると言ったので、彼女はケーキを作ってくれることになった。

 スポンジから焼いた苺のショートケーキにチャレンジする、と言っていた。

 今、その為の買い出しに行っている。

 彼女はお菓子が得意なので、とても楽しみだ。


 玄関先で物音がした。

 迎えて荷物を受け取ろうと、俺はそちらへ行く。


「はいいい?」

 俺は思わず、頓狂な声を出してしまった。


 玄関先に荷物はあったが、彼女はいなかった。

 トイレかな?くらいに思い、俺は荷物をキッチンへ運び込んだ。

 すぐにキッチンの扉が開き、彼女が入って来たが……そこで『はいいい?』だ。


 扉の向こうから現れたのは、確かにウチの奥さんだ。いや、でも、しかし……。

「あの、やっぱり変かな?」

 もじもじしながら彼女は、スカートのすそを引っ張る。

 白いもこもこした縁飾りの真っ赤な膝上丈のワンピースに、大きめの白いボンボンがやたら目立つ真っ赤な三角キャップの……サンタクロース・ガール。

 服と同じくらい、ほっぺも赤い。

 恥ずかしそうに内また気味になっている、ぽこんとした膝小僧がかわいい。

「ナンフウさんが、お宅の旦那はああ見えてお祭り人間やから、コスプレとかしたら喜ぶで、クリスマスやし天使のコスプレとかどうやって言ったんだけど。いくら何でも天使は恥ずかしいって言ったら、サンタやったらどうやって。サンタさんならいいかなって思い切って買ってみたんだけど……やっぱり、変だよね?」

「い、いや……」

 ついつい膝小僧に目が行く。

 ちらちら見える太ももが気になる。

 ……くっそナンフウめ。

 ウチのピュアピュアにピュアな奥さんに、変態じみたこと吹き込みやがって!

 こ、こすぷれ妻なんて……こすぷれ妻なんて。

「あはは。やっぱり変だよね、ちょっと寒いし、着替えてくる。今からスポンジも焼かないとダメだし……」

 きびすを返そうとする彼女の手を、俺は思わずつかむ。

 キョトンと見上げるこりすのような彼女の顔。イケナイ気分になってくる。

「……ショートケーキは、別に明日でもかめへん」

 え?とつぶやく彼女の唇を、俺はそっとふさぐ。


 ……メリークリスマス & ハッピーニューイヤー


★★★☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆★★★


 彼らが結婚して、初めてのクリスマスを迎えるとしたら……という、新婚イチャイチャ・バカップル話です。

 本編がちょうど、生きるか死ぬかのどシリアスなタイミングでしたので、作者としてもいい息抜きになりました。

 砂礫零様、ナイスなリクエストをありがとうございました。



 しかし。

 結木くん。

 本編では君、そこそこカッコいいヒーローなのに。

 この感想記念SSでは色々とその、バレバレですねえ(笑)。


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― 新着の感想 ―
[一言] こうして続けて見ると確かに結木さん大分ムッツリですねwww まあ、男はみんなムッツリですからね!w しょうがないですねw
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