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第33話 まさかの告白

 イアンが目を開けた瞬間、その場の空気が固まった。

 どこか虚ろなのにいやに熱の籠った眼差しで、イアンが私の両手を包むみたいに握る。


「い、イアン様!お戯れはよしてください」


「……っ!あ、あぁ、すみません。貴女の手が可愛らしくてつい……。お水、ありがとうございます」


 顔を僅かに赤らめてはにかんでグラスを受けとるイアンの表情に事情を知る私、ジーニアス先生、テディ、ルイス様は絶望し、何も知らない他の面々はただただ困惑している。

 そんな中、ハッとなったダリアが駆け寄ってきて私とイアンの間に割り込んだ。


「いっ、いきなり何なんですか!悪ふざけにしては質が悪すぎます!」


「……戯れや冗談ではありません、ダリア嬢。私はこれまで、父が望むがままに理想の息子を体現してきました。別にそれを苦痛だと感じたことはありませんでしたが、同時に自分には、“感情”とうものがどこか欠けているように感じていた……」


 しかし、と徐に言葉を切ったイアンの眼差しが私に向く。この流れは不味いぞ……!

 私はテーブルに置かれていた銀のお盆をひっ掴み、勢い良くイアンの後頭部に振り下ろした。鈍い音をさせたイアンの頭が左右に大きく数回揺れて、ゆっくり前に倒れる。いつの間にか近くに来ていたブレイズとミシェルがそれを支え、てきぱきと別室に運んでくれた。それを見送り絶望で放心しているダリアを捕まえながら、逃げようとこそこそしていたテディの尻を蹴っ飛ばす。


「くぉら逃げんな元凶!今すぐダリアに謝りなさぁぁぁぁいっ!!!」


「ぴぃぃっ!ごっ、ごめんなさいぃぃぃぃっ!!!」












 気絶させたイアンを運び終えたブレイズとミシェルも戻ってきた所で、全員に向かいテディとジーニアス先生から事情の説明が行われた。流石にテディの正体なんかは伏せたままだけど。

 そして、事の一部始終を聞いた皆からなんとも言えない溜め息がこぼれる。


「つまり、イアン殿は今、惚れ薬の効用で最初に見たミーシャ嬢に惚れてしまったと言うことか?」


「おいブレイズ!少しはダリア嬢の気持ちも考えないか!!」


 青ざめたミシェルがダリアの背中を擦りながらデリカシーに欠けるブレイズを叱る。が、起きてしまった事実は覆しようが無い。私は瞳に涙を浮かべながらも必死に泣くのを耐えているダリアの前に行き、椅子にかけている彼女の前で膝をついた。


「初対面に引き続き、このような形で多大なご迷惑をお掛けしてしまい本当に申し訳ございません、ダリア様」


「……っ!よくもそんなぬけぬけと!」


 カッと目を見開き振り上げられたダリアの右手が、思い切り私の右頬を叩いた。皆がぎょっと目を見張るが、何とか倒れるのを堪えた私は真っ直ぐにダリアを見上げる。

 イアンはもちろんだが、ダリアも被害者だ。これで彼女の気が少しでも晴れるなら全然なんて事無い。

 その私の態度をどう捉えたのか、それともまだ気持ちが収まらないのか、再び振り上げられたダリアの手を、彼女を宥めていたミシェルが掴んで止める。


「もうよせ、ダリア嬢。本来はテディ殿の暴走とジーニアス教諭の怠慢が招いた事態。ミーシャ嬢に非はない筈だ」


 静かに諭され、ダリアがゆっくり手を下ろす。

 とは言え、彼女は一度不当な婚約破棄で心に傷を負った身。今だって不安で仕方がないことだろう。本当に申し訳無いことをしてしまった。


「ダリア様、私にイアン様への特別な情はございません。誓って、この状況を悪用し無いこと、並びに一刻も早く解毒薬をお届けすることをお約束致します」


「……っ」


 『もちろん彼が正気に戻られるまで、一切接触しないよう徹底いたしましょう』と続ければ、ダリアはようやく少しだけ安心した様だった。


「ち、ちょっと待ってよ!その解毒薬は誰が作るのさ!」


「あんたに決まってんでしょ、ふざけてんの?」


 ギロっとひと睨みしながら言い放てば、キャンキャンわめいていたテディは見事に固まった。全くこの子は、自分がどれだけの真似をしたのかわかっているのか居ないのか……。


(まぁ、ゲーム通りならネグレクトぎみに育った筈だし、善悪判断とかを司る情緒の面の成長がまだ不安定なのかな)


 ふぅ、と溜め息をつく私を見て、何故か男性陣(見た目は令嬢だかルイス様込み)は身を寄せあっている。どうした。


「いやぁ、ミーシャ嬢は見かけによらず逞しいな。誠に結構なことだ!」


「いや、流石に強すぎるでしょう。令嬢が少年の、し、尻を…蹴りっ……!」


「笑い事では御座いませんでしょう殿下!全くあの子は、お転婆にも限度があります!まぁ、他者の気持ちに寄り添える純真な資質は評価致しますが……!」


 言いながら立ち上がったルイス様が濡らしたハンカチを赤く腫れた右頬に優しく当ててくれた。ひんやりして気持ちいい。


「……しかし仮に今は無関心でも、接触次第ではイアン殿がミーシャさんに本気になったり、逆に貴女がイアン殿に惹かれてしまう場合もあり得るのでは?」


 っておいこらそこの元凶その2!何故はなしがまとまりかけたタイミングで不安を煽るようなこと言うわけ!?

 皆がポツリと呟いたジーニアス先生を睨むなか、とうとう耐えきれなくなったらしいダリアの瞳から涙が一滴こぼれた。あぁぁぁぁ……!


 どうにかしなきゃとパニックになりつつ、バチッとルイス様と目線がかち合う。シャーロット様のふりでドレスに包まれたその腕にぎゅっとしがみついた。


「ご、ご安心なさいませダリア様!私、実は女性の方が好きなのです!(本当に同性の人を愛してる方、ごめんなさいぃぃぃぃっ!でも今はこれしか思いつかないんです!!)私は入学した日からずっと、シャーロット様をお慕いしておりますの!!」


 苦肉の策でとんでもないことを口走った私に、てーん……て感じで皆の目が点になる。


「は、はぁぁぁぁぁぁっ!!?」


 麗らかな日差しの中修羅場と化している薔薇園に、意地で高さだけは女声に保ったルイス様の困惑した悲鳴が響くのだった。



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