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ブスい姫  作者: にちお
4/4

その4

その後、王子は別室に通され、王と王妃、姫の4人でお茶をしました。


王子は姫の顔を直視できなかったのですが、顔を見ないで話すのはとても失礼なことです。

そこで目の焦点を姫の額に合わせることにしました。


国の情勢や他愛ない話などで会話は弾んでいましたが、王子は一度だけ迂闊うかつな質問をしてしまいました。


「……ところで姫は……、王と王妃、どちら似なのでしょうか?」


王の顔が固まり、王妃の目はフラっと泳ぎました。


少しの沈黙。


王子には永遠に感じました。


(いかん。地雷を踏んだ)


王子は自室の書棚にあった「王族としてのフォローセリフ集」を5倍速くらいで脳内再生しました。


1ページ、2ページ…。


ふと助け舟を出すように、姫が口を開きました。


「わたくしは…両親のどちらとも似ておりませんが、ひいおばあさまに似ていると言われております」


美しい声です。


「なるほど。そうなのですね。」


王子はきわめてクールに振舞いました。


脳内の「王族としてのフォローセリフ集」がパタンと閉じられます。


「王子は、どなたに似てらっしゃるのですか?」


姫は笑顔を作りました。


モザイクをかけたくなるような笑顔ですが、王子は“姫の顔を見ず、額だけを見る”という技を習得しつつあったので、すんなり答える事ができました。


「わたくしは母に似ていると、よく言われます。髪と瞳の色は父似ですが」


「まあ、そうですの。とても綺麗な金髪で羨ましいですわ。わたくしの髪は色も重いし、手入れをしてもどうしても硬くて」


王子は、とても自然な一呼吸ほどの間を置いてから「黒髪は神秘的で理知的に見えます」と笑顔で言いました。


その言い方がとても素朴かつ紳士的だったので、姫は少し照れました。

頬を染めて下を向き「ありがとう」と小声で言います。


可憐な感じをうけるかもしれませんが、そう言ったのはあくまでアメリカバイソンのような生き物ですから、王子は額から染み出る汗を抑えるのに、精神力をたくさん使わねばなりませんでした。



まあ、そんなこんなで王子は王族の胆力と精神力を使い、お茶会を乗り切る事ができました。



ちなみにその後、王子に降りかかった試練は次のとおりである。


姫と2人きりで中庭を散歩


姫と2人きりでセカンド・ティータイム・インパクト


姫と2人きりで敷地内にて乗馬


姫と2人きりで湖畔に佇み、夕日を見る。

巣に帰るのであろう、カラスの親子が姫の顔を見たとたん湖畔に落ちた。


日が暮れるころ、王子は“姫の顔を見ず、額だけを見る”という技を完全に修得。

ゲームならば特定スキル82レベル(MAX99レベ)になっていただろう。


ちなみに姫が乗っていた馬は「ペルシュロン」という種で、かなり大きく、スタミナも馬力もある馬なのだが、帰城するころにはゼイゼイ言って口から泡をふいていた。

姫は背丈こそ王子より低いが、かなり重さがあるらしい。



夕食はご馳走にならず、帰ろう。


王子は心に決めました。



****


その日の夜。


姫はベッドの天蓋に設えてある木彫りの天使を見つめ、悩ましい表情をしていました。


悩ましい表情と言ってもバイソンの眉間に皺が寄ったような。そんなです。


(どうしよう…。)


王子は優しかった。


紳士的だった。


王族として相応しい風格や威厳も持ち合わせていた。


だが。


(どうしよう。こんなことを思うのはとても失礼だけど、見た目が…特にお顔が好みじゃないわ)


やめてください石を投げるのは止めてください。


ともかく姫はそう思ったのです。


(でも、そんな理由でこの縁談をお断りするわけにはいかない。どうしたらいいのかしら…?)


姫は枕元にある「王族としてのお悩み解決集」を手に取りました。


ぱらぱらとページをめくります。


「婚約相手のビジュアルに不満があるとき…あった、これだわ」


姫はお目当ての項目を見つけ、解決策を朗読しました。


「え・・・っと。」


“結婚式で初めてお相手の外見を知る。王族あるあるですね”


「まあ、そんなこともあるのね。」


“もし、伴侶となるべきお相手の外見が気に入らなかったら。あなたはどうするべきでしょう。”


“もしあなたが独裁者なら、どうぞ相手を追い払ってしまって下さい。そして、崇高なあなたに相応しくない者を連れてきた犯人を呼び寄せ、問い詰めて下さい。場合によっては拷問して処刑してしまっても良いでしょう。”


「まあ!酷いわ!私はそんなことできない。他にはないの?」


“もしあなたが気高い心を持つ王族ならば、相手の外見などどうでもいいはずです。気高いとはそういうことです。なんでこんな項目、読んでるの?”


姫は自分が恥ずかしくなりました。


確かにこの本に書かれているとおりです。


外見で人を選ぶなんて。


「でも…でも…。」


王子の外見を思い浮かべます。


「だめ、やっぱり好みじゃない。どうしても解決策が必要よ」


姫は読み進めます。


“あなたが賢い王族なら”

“あなたがちょっと足りない王族なら”

“あなたが…”


そして最後に


“もっと詳しい解決策をお求めの場合は、次の住所へご連絡下さい。親身になってご相談にのります。解決率99%!ユー キャン ドゥーイット!!”


と書いてありました。


住所は沼地のほとりで、魔女の名前が書いてあります。


「なによ、宣伝じゃない」


姫は本を放り出し、頑丈そうなベッドを軋ませつつ寝返りを打ちました。


(待って。確かに魔女なら魔法で解決かしてくれるかもしれない)


姫は筆を取りました。


***

つづく

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