はじまり
昔々あるところに、お姫様がおりました。
このお姫様は、ブスでした。
しかもただのブスではありません。ドブスです。
しかし王様と王妃様は
「姫、可愛い~(ハート)」
と刷り込んで育てたので、姫は自分の事を「可愛い」と思っていました。
でも現実としてはブスでした。
王様も王妃様も、ブスい姫が生まれたときは悩みました。
しかしブスでも可愛い我が子です。
悩みに悩んだ末、王様と王妃様は権力を行使し、国民の美意識を変えてしまう事にしました。
つまり、われわれ常人が「美しい」と思う者はブスに。
「ブス」と思う者は美人に。
まるで言葉遊びのよう。
しかし世間的な美意識を変えるのは簡単ではありません。
美女コンでブスめの女性を1位にしたり、デザイナーに「モデルはブスを使え」と圧力をかけたりして、まずメディア押さえました。
次に本当の意味での美人は、他国においやってしまいました。
国中に刺客を放ち、美人がいれば難癖をつけて追い出してしまうのです。
***
それから過ぎること15年。
権力者が実力行使に出たせいで、その国の美意識は変化しました。
つまりブスは優遇され、美人は迫害されるという流れになったせいで、民衆の意識が変わってしまったのです。
ブスの人口が増えました。
他国からもブスとされる女性が大量に入国して来ました。
ブス専の男性も集まってきました。
その国では「ブスはきれい、きれいはブス」になりました。
はれてブス姫は、世間的には「美しい姫」となりました。
***
ひるがえって、こちらは隣の国。
隣の国には「美しい」と評判の王子がおりました。
こちらは本当に美しい王子でした。
スラリと高い上背。
均整が取れ、鍛えられた肉体。
涼しげな鼻梁。眉。
形の良い唇。
クルクルと巻いた金髪に光が反射し、黄金の粒のように輝いております。
王子は清く、優しく、たくましい人物です。
そんな美形王子に、お見合いの話が来ました。
そう、ブス姫さまのいる国からです。
両国はもともと仲が良かったのですが、結束を固めようとか、まあ、そんな理由でお見合いが決まってしまいました。
***
お見合いも近いある日。
ブス姫様はお見合いの日を心待ちにしておりました。
でも心配もありました。
相手は、顔も見たことのない男性です。
そんな姫様の心配を知ってか知らずか、お付のメイドは鼻歌を歌いながら、姫様の黒くゴワついた髪をていねいにブラッシングしています。
はたから見るとアメリカバイソンにブラッシングしているようにも見えましたが、メイドはうっとりとした表情で言いました。
「姫様の髪はいつもお美しい…。」
メイドの感想には応えず、ブス姫様は鏡に写った自分を見て言いました。
「お隣の国の王子は、とてもお美しいかたと聞いたわ。お心も同じように綺麗な方だと良いのですが…」
メイドは答えます。
「姫様、大丈夫でございますよ。王子はとても賢く、聡明な方だと伺っております。」
ブス姫様はメイドの言葉を聞き、小さいため息をつきました。
「・・・そうだと良いのだけれど・・・」
「ご心配なさらず。いつものように笑顔をお作り下さいまし。姫様の笑顔を見れば、誰もが幸せな気持ちになるのですよ。隣国の王子様とて例外ではございませんとも!」
それを聞いた姫は、いつもの明るさを取り戻し笑顔を作りました。
こうやってお話するぶんにはたいしたこと無いですが、ブス姫の笑顔は「うわっ」と声が出てしまうような、そんな感じの笑顔です。
でも姫様の幼馴染でもあるメイドは心から嬉しそうに、
「姫様、すてきですわ」
と言いました。
***
そしてお見合い当日。
「波乱の予感がする」
ブス姫様のお父上であらせられる国王が、王妃様に言いました。
王妃様は国王のセリフをスルーして、大理石の床を見ています。
「聞くところによると、隣国の王子はたいそう美形だそうだ。いや、我が国で言う美形ではなく、ワールドワイドな意味で」
王妃様は逃避すべく、大理石のマーブル模様を迷路に見立て、目を泳がせていました。
しかし脳内で「ゴール地点」と決めた場所の手前で、大理石のマーブル模様が途切れています。
(せっかく大理石の迷路で現実から目をそらし、ついでに王の話も右から左へやり過ごそうと思っていたのに…)
王妃様は肩を落とし、王様を見ました。
「あなた、いまさら言っても仕方がありませんわ」
「そう言うけどさ」
「なるようになります。何があろうとも、あなたは玉座でどっしり構えていらっしゃれば良いのです」
「そりゃお前は黙ってニコニコしてれば良いけどさ。もし何かあったら、ワシはコメントしなきゃいけないじゃん?」
「何も起こりませんよ」
「デモデモダッテ」
王妃様は王様をシカトする事に決め、今度は壁の模様で迷路を始めました。
そこへ近衛がやってきて、大きな声で言いました。
「隣国の王子がお着きになりました!!」
さあ、王の間の大扉が盛大に開きます。
***
つづく