23、暗黒の国 スペロ2
最後の決戦地、スペロ
その地で、最初に遭ったものは・・
暗黒の国・スペロに上陸したシュウとバルチャーム姫
森の手前で野営をしていると・・
森の中から現れたのは、大量の死人・ゾンビだった。
「姫さん、俺の後ろに」
俺は、すぐに、刀を現下した。
現れて来たのは、人・人・人・・
多数の人間たち、いや、元・人間というべきか
顔が半分なかったり、手や足が普通と違う方へ曲がっていたり、足が無い物は、這いずっていた。その物たちの眼は黒く淀んでおり、生気を感じられない。
襲ってくるかと思ったが、たき火の火は迂回し、全ての物たちが、浜辺に到着すると、ただ、ただ、河の向こうを眺めているだけだった。
その光景は、おぞましい物だが、身動きもせず、ただ、眺めているだけだ。
「姫さん、この人たちは、ここで死んだ人たちなんだね」
「シュウさん、そうだと思います」
「スペロで命をなくすと、その魂は浄化できず、その土地に留まると聞いた事があります、きっとこの人たちはそうなんでしょう」
「そんなリスクがあるのに、この人たちは、スペロに渡るのかい?」
俺が訪ねると、
「スペロは暗黒の国と呼ばれていますが、国の詳細は良くわかりません」
「金銀財宝が山の様にあるとか、不死の湖があるとか、言われています」
「なんでも、人族の国・チャオを最初に創った王が、唯一のスペロから戻った人間と言われていますが・・はっきりとした事はわかりません」
「そうかい、よく見れば、冒険者風の服や、薄汚れた鎧や、色んな人たちがいるねえ」
すると、河に変化が起こった。
最初、ゆらゆらと水面が揺れていたかと思うと、水中から1本の大きな触手の様なものが現れた。その触手を伸ばし、一人のゾンビの上で、その触手の先は、口を開き、上からすっぽりと、そのゾンビに覆いかぶさり、そのゾンビを吸い込んだ。
同じような事を何℃も繰り返し、10人程吸い込んだ後、その触手は、何もなかったように、河の中に戻っていった。
残っている死人・ゾンビたちは、ただ、そこに留まっているだけだ。
「姫さん、今のはなんだい?」
「多分、ディスフィッシュかもしれません」
「死んだもので、魂が残っている者を、好んで食べると言われています」
「でも、本当にいるとは・・誰も見たことはないので、はっきりと断言はできませんけど」
「このゾンビたちは、ただ、向こう岸を見ているだけだね、ちょっと不気味だけど」
「シュウさん、多分、魂が浄化されていないので、故郷に帰りたいという強い思いが、ここへ引き寄せているのかもしれませんね」
「姫さん、さっき、ディスフィッシュだったかな、そいつに飲み込まれた彼らは、どうなるのかな?」
「この地では、人や動物は死ぬと、魂が浄化され、輪廻を経て、生まれ変わると言われています」
「浄化する前に、魂が飲み込まれたなら、生まれ変わることはできず、生と死の間を、ずっと彷徨うことになるかもしれません」
「はっきりとしたことは分かりませんが、エルフの国では、そう伝えられています」
「そうかい」
俺は、一言呟くと、残ったゾンビたちを眺めていた。
朝日が昇る前に、残っていたゾンビ、いや人たちは帰って行った。
「姫さん、昨日は、ほとんど寝れなかったけど、大丈夫かい?」
「シュウさん、私は大丈夫ですよ」
「そうかい、それじゃ、中に入るとするか」
俺と姫さんは、覚悟を決め、妖しい森の中へと入っていった。
お読み下さり、有難うございます。