15、戦い
おっさんことシュウは、再び、人族の国・チャオに戻ることを決意した。
人族の王・アプスタッドと獣人族の王・パラダスの戦いの決着は・・
俺は今、リーンいう男と対峙している。
黒いローブをまとい、右手に長剣を持ち、その眼は黒く淀んでいる。
人の気配がしない、そう、何か無機質な物のような感じがした・・
ただ、動きは素早い、すっと前に来るかと思うと、上段から剣が降ってきた。
俺はそれを、自分の持っている刀で受け止め、素早く後ろに下がる。
リーンは、すぐに俺を追い、剣を横殴りに振るうが、とても洗練された太刀筋ではない、ただ早いだけだ。
普通の人間なら、それで切られてしまうが、俺は、その全てを避けていく。
時には、刀で受け、時には、紙一重で避け、何十合、そうしただろうか・・
まだ、俺からは切りかけていない。
ルトが、
「シュウ、攻撃しないとやられるよ」
声をかけてくれるが、
分かっているんだ、切らないとダメだということは・・
リーン、人であって人でない、でも、元は人だろう。
人を切るという事に、俺は躊躇している。
だが、このままでは、ジリ貧だ。
リーンの攻撃は、ますます早くなり、俺は全てを避けきれず、
少しずつ傷を負っていた。
「シュウ、攻撃しないとやられちゃうよ!」
ルトの悲痛叫びが届いた・・
「わかっているんだよ、だけど、人を切るってのはなあ・・」
頭ではわかっているのだが、身体が言うことを効かない。
「シュウ、娘さんに会いたいんでしょ、ここでやられちゃっていいの」
そうだ、俺は、どうしても香織に会うんだ。
俺は、リーンの剣を激しくたたき返すと、素早く後ろに下がり、腰に剣を構えた
そう、得意の居合の構えだ。
リーンは、体制を立て直すと、剣を向けて突っ込んできた。
俺は、素早くリーンの横を通り抜け、刀を一閃した。
手ごたえはなかったが、俺の刀は、金色に光輝いた。
リーンを見ると、上半身と下半身が二つに分かれ、黒い靄となり、消えていった。
「シュウ、大丈夫」
ルトが飛んでくる。
「ルト、有難う、おかげで覚悟を決められたよ」
「シュウさん、大丈夫ですか?」
バル姫も俺を心配してくれている。
ダメだな俺は、もっとしっかりしないと。
両手で、自分の頬をたたき、気合を入れなおす。
これからは、もっと厳しくなるはずだ。
「みんな、有難う。さあ、急いでいこう」
俺はそう言うと、ペガサスに乗り込んだ。
俺たちはペガサスに乗り込み、空上の人となった。
俺は、見送ってくれているシュンバに、
「必ず、戻ってくる、だから、それまで耐えてくれ」
そう叫ぶと、
シュンバは、微笑みを浮かべながら、手を振っていた。
チャオの王・アプスタッド、獣人族の王・パラダス
2人の戦いは、すでに1時間になろうとしていた。
アブスタットの剣とパラダスの長く伸びた爪が、何合となく打ち合い、
火花を散らしていた。
「人族の割には、よくやるがな」
パラダスは叫んだが、
アブスタットは、何も答えない。
パラダスは、アブスタッドの回りを回りながら、その研ぎ澄まされた爪で、
襲いかかるが、アブスタッドは、それを自分の長剣で防御する。
そのたびに、鋭い火花が散っていた。
このままずっと、この戦いが続くかと思われたが、アプスタッドの剣に、一筋の亀裂が入った。パラダスの攻撃に、剣が耐えかねたのだ。
パラダスの次の攻撃の時、ついに剣は根元から折れてしまった。
パラダスは、にやりと笑い、
「よく戦ったが、武器がなければ、どうしようもあるまい、これで最後だな」
そういうと、パラダスは、アプスタッドに向かって、飛び掛かっていった。
アプスタッドは、折れた剣を捨て、何もなかった背中から、剣を取り出した。
その剣は、黒く輝き、飛び掛かってきたパラダスを切り裂いた。
「何故だ?お前は何も持っていなかったはずだ・・」
それが、パラダスの最後の言葉。
「馬鹿な獣人だな」
そう呟くと、アプスタッドは、落ちているREXを拾った。
それ見ていた獣人たちは、
「我が王が負けた・・」
全ての獣人たちは、身をひるがえし、逃げ始めた。
ここに、人族の王・アプスタッドが勝利を収めた。
「王、どうしますか? 追撃しますか」
側近の一人が尋ねると、アプスタッド王は、
「放っておけ、ここに、このREXがある限り、もう来ることはあるまい」
ここは、暗黒の国“スペロ”
一人の男が、暗闇の中で佇んでいる。
その眼は赤く輝き、長い髪は、強い風で舞っていた。
「アマールよ、何処にいる。ああ、私は、貴方を喰らいたい。身体も心も全てね。
そうするこでしか、私の欲求は満足できないのだよ」
変わり果てたテネブリスの姿であった。
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