第三話 休日
今日は学校の授業がなく、お母さんもパートは休みなのだが、夕実は土日にコンビニのバイトに行っている。自分の将来のために、できるだけ稼いでおきたいという真っ当な理由をつけて働いている。自分にはやることがないので、今日は朝から勉強をしている。
「えっと、これはこうかな」
学校で習った場所の復習をしていたのだが、いつの間にかノートを全ページ使い切っていた。ノートのストックも無くなっていたので、勉強を中断して買い物をしていると、樹と偶然会った。
「何買ってんの?」
後ろに妹を連れているあたり、まだべったりされているんだなと感じた。懐かれているのは羨ましいが、このままだと依存しすぎて兄離れできないのではないか、と心配してしまう。さっきからにこやかにはしているが、樹の服をつまんで引っ張っているので、早く二人で買い物をしたいんだろう。
「ノートだよ」
ここは会話を切り上げてしまおう。いつまでも話していると精神的な疲労がたまってしまって勉強どころか帰ったらすぐに力が抜けて寝てしまうだろう。それにメンタルが弱い僕が話に集中できるとは思えない。
「買うものがあるんじゃないの」
僕がそう言うと、一瞬後ろに振り向いた後、じゃあなと手を振りながら買い物に戻っていった。
樹だけなら気兼ねなく話せるのだが、後ろに瑞樹さんがいるなら話は別だ。あの笑顔の向こう側にあるオーラのようなものが怖くて仕方ないし、その時の樹は僕が怖がっているところを見に来てるのではないかと思ってしまう。
そんなことを考えてるうちに、数分で買い物を済ませる予定だったのが、三十分くらい経っていた。思わぬところで知り合いに会ったせいで余計な時間を使ってしまった。
「遅かったね。何やってたの」
母さんがリビングで洗濯物を畳んでいて、僕が部屋の中に入ると同時に話しかけてきた。いきなり話しかけられるとビックリするからやめてほしいと心の中でいつも思うのだが、全然やめてくれる気配がしないから、諦めてしまっている部分もあるが、全く慣れない。
「樹と話してた」
疲れたのでソファでゆっくりしていると、樹からメールが送られてきた。内容は「今日は瑞樹が迷惑かけてごめんな、これでも見て心を癒してください」というものと写真だった。動物の赤ちゃんとかを送ってきたのかと思ったのだが、僕が無理やり女装させられたときの写真を送られてきた。
彼なりに今日のことを反省し、できるだけ気を遣わせないようにしてくれているのだろう。僕はそんなことを思いながら送られてきたメールを削除した。
「ただいま」
夕実がドアの向こうから挨拶をし、二階に上がる音が聞こえた。バイトが終わって帰ってきたということは、僕は二時間くらい休憩していたことになる。そんなに経っていた気は全くしなかったので、時間が進むのは速いなと思いつつ、部屋に戻って勉強を再開した。
携帯のアラームが鳴ったので、一階に下りて食器をテーブルの上に並べて準備していると、夕実が狙ったかのように全ての支度が終わったのと同時に来た。そういうことをされるとなぜかイラっとする。
いつも通り兄妹のことには触れずに楽しく夕食を食べて、夕実がお風呂から出てくるのを自分の部屋で待っていた。暇潰しに授業で習った単語の暗記をやっていたが、いつの間にかシミュレーションをやっていた。
雑談を交わすにはどうすればいいのだろう。友達と話すみたいにやったらどうなるんだろうか。
「今日のバイトどうだった?」
「別に普通だよ」
これ以上の会話はなく、僕は夕実の様子を伺い、これ以上話題を膨らまして面倒に思ったりしないだろうかと、余計なことを考えてしまい、ここから立ち去った。
いつものネガティブ思考が始まった。ここからいくつか方法は浮かんだが、どれもうまくいくことはなく、結局いつも通りだった。 単語の暗記作業に戻ろうとしたら、部屋をノックされた。
「お風呂あいたよ」
ただそれだけをドアの向こうで素っ気なく言われ、また無音になった。昔は呼びかけるときも笑顔で言っているような感じだったのが、今となっては懐かしい。いつか昔のように呼びかけてくれる日は来るんだろうかと思いつつ、お風呂に入り、眠りについた。




