第6話
「この武器、強力なんだけど使いづらいな……」
ガーゴイルの持っていた斧槍を手にし、俺は呟いた。
スノウの村を離れ北の山脈に向かい旅を続けている道中、魔物が現れ、試しに奴の持っていた武器を使った。
ガーゴイルは片手で振りまわしていたが、重量があるため、必然的に両手で持つことになり、盾が使えない。
リーチと重さからなる威力、薙ぎ払った際の攻撃範囲の広さは魅力だが、ずっと剣で戦っていた上、重さでスピードは落ち、避けられることも多い。
「まぁ、はじめて使う武器だもんね。そうだ、今日から私と練習しない? 模擬訓練、とでもいうのかしら」
なるほど、一緒に戦ってきてわかったが、スノウの敏捷性はなかなかのものだ。
スノウと戦えるようになれば、素早い敵が相手でも、斧槍の一撃を当てられるようになるかもしれない。俺は承諾した。
それからも旅は続いた。
北の山脈に近付くにつれて、ゴブリンやコボルトはより機敏になり、オークやオオカミは一回り体格が良くなった。ツメの長い熊の魔物も出るようになった。グリズリーというらしい。
しかし、強くなっているのは俺たちも同様だ。斧槍の扱いにも慣れて、相手が大きくても、強烈な一撃を喰らわせることができる。
スノウはスノウで、騎士団仕込みの剣術に加え、実戦経験を積み、臨機応変な戦い方ができるようになってきた。
そして、山脈の前、最後の宿場町。到着したのは夜だった。
宿に泊まり、今日も訓練をするか? とスノウに問いかける。
「今日はいいわ。それより、話をしましょう。」
俺は意図が汲み取れなかったが了承し、宿をでて、街の中の丘に行った。
「星が綺麗ね」
「そうだな」
街の灯りはほとんどなく、夜空には多くの星が見える。
空気も綺麗なのだろう。元の世界では、こんな綺麗な星空は見たこともない。
丘に座って、しばらく二人で無言で星空を見上げていると、スノウが口を開いた。
「私、両親を失って、ドラゴンを倒すために、ずっと修行してきた。騎士団でも。」
俺は頷く。
「そのおかげで、騎士団でも一番強くなった。でも、一緒にドラゴンを討伐してくれる人は、騎士団にも、ギルドにもいなかったわ……。」
そうだったのか。まぁ、村のあの様子を見ればわかる。ドラゴンというのは、この世界では恐怖の象徴のようなものなのかもしれない。
「だから、あなたに感謝してる。一緒に冒険してくれて、ありがとう。村の魔物を退治してくれて、ありがとう。訓練にも付き合ってくれて、ありがとう。」
「止せよ、そういうのはドラゴン倒してからだろ。」
「う、うん……、でも、これだけ言わせて」
「なんだ? 」
「ドラゴンを倒しても、また一緒に、冒険しようね! 」
少し照れたように、スノウは言った。その表情は、不思議と、どこかで見たような、懐かしい感じがした。
「……考えておく」
「もう。」
口では文句を言うものの、その返答に彼女は満足したようだった。
「私は、先に宿に戻るわね! また明日」
そう言って、スノウは走り去ってしまった。