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第5話

「来たわね」

宿から出て北の門に向かうと、昨日決闘した女がいた。スノウとか言ったか。

「ドラゴンの討伐に行くんでしょ。私も一緒に行くわ」

「俺より弱い奴についてこられても足手まといだ。連れていくわけにはいかん。第一、お前は決闘に負けただろ」

「負けた時は、無礼なアンタを許すと言ったのよ。ついて行かないと言ったわけじゃないわ」

不満だが、たしかにそのような条件だった。

「それに、教皇様の言う通りだと、あなた異世界から来たんでしょ。この世界のこと知らないじゃない。私がついて行けば、色々役に立つわよ。」

「知らなくてもここまでこれたんだ。何とかなる。それに、ドラゴンを倒すのが目的で、この世界のことに興味はない」

「むー……」

「そんなに行きたいなら、冒険者ギルドにでも行けばいいじゃないか。あそこで仲間を集められるんだろ? 」

「あんな連中、腰ぬけよ。ドラゴンの討伐依頼なんて、ずっと昔から、世界中のどこのギルドにも貼ってあるのに、ほとんどだれも挑まないの。最後に行った冒険者は、3年前って聞いたわ。なんでも、遠くの迷宮を攻略してミノタウロスを倒し、その戦斧を振り回すパワーの持ち主だとか。たしか剛力の……なんとか言う人。今は行方不明だけど」

「へー」

「とにかく、私は仲間がほしいの。ドラゴンの強大さは知ってる。絶対に私一人じゃ勝てない、でもアイツを許すわけにはいかないの。お願い、協力して」

あの気の強い女が、頭を下げて助力を乞うている。

たしかに、昨日戦った限りでは、弱い感じはしなかった、というか、単純な剣の技量なら、俺よりはるかに上だろう。そして、教会の騎士という割に、この世界にも詳しいようだ。ドラゴンについて色々調べているのだろう。しょうがない、一人ぐらいなら連れていくか。

「わかった。だが、俺が、仕方なく、連れて行ってやるんだ。使えないようなら置いて行く、俺に歯向かっても同様。立場を忘れるなよ? 」

「わかったわ! 」

スノウは元気にそう言った。

本当に分かっているのだろうか? 疑問が残る。

まぁとりあえずは良いか。

そんなやり取りがあって、俺たちはミュールを後にした。


「こっちの道も綺麗だな……」

整備された道を見て俺がそう呟くと、スノウは答えた。

「ミュールは大都市であるとともに女神教の総本山でもあるからね、巡礼者が多いのよ。そのおかげで、北の山脈に行くまでに、いくつも宿場町があるわ。」

俺は地図を確認する。街が多かったのはそういう理由があったからか。水や食料の補給もできるし、ありがたい。

「ただ、あまり山脈に近付くと、魔物が強くなるから、町や村は減ってしまうわね」

ふむ、最後だけは厳しい道のりと言うわけか。まぁしょうがないだろう。

幸い、ミュールの南と違い、北の道は平原で見晴らしが良い。

俺たちは魔物の襲撃にも遭わず、次の街へ到着した。




ミュールの次の街を出発し、整備された街道を歩き、宿場町や村に泊まり、時には野宿をして、一週間がたった。このまま行けば後1ヵ月ほどで着くだろう。

徐々に道は悪くなって行き、ゴブリンやコボルトと言った魔物も出てくるようになったが、俺たちの敵ではない。


「ねぇ、ちょっとこっち行っていい? 」

突然、スノウがそう言った。

「なぜだ。」

「こっちに、私の生まれた村があるの。いや、正確には、あった」

不審な顔をしていると、彼女はつづけた。

「私の村は、女神教を信仰している村だったの。小さな村だったけど、ミュールからの司祭が来ていて、立派な教会があった。でも、ある日突然……」

「ドラゴンに襲われたのか」

「うん……それで両親と兄、それだけじゃない、女神教を崇拝する村中の多くの人が殺された。あとから駆け付けた騎士団によって私は助けられたけど、村はもう壊滅したわ」

俺は、何と声をかければいいかわからなかった。

しかし、どうやらドラゴンと女神が対立しているということは分かった。女神が一方的にアイツを殺そうとしているのではなく、ドラゴンや魔物も女神を敵対視しているようだ。そう言えば森林で遭遇した虎も、同じようなことを言っていたな。

「事情は分かったが、行ってどうするんだ? もう誰もいないんだろ? 」

「うん、でもせめて亡くなったみんなに祈りと、誓いをしたいの」

「……わかった」

まったく、面倒くさい奴を仲間にしてしまった。そんなこと言われたら断れないじゃないか。

そうして、俺たちはスノウの村へと向かった。


「なぁ、あれがお前の村なのか……?」

小高い丘からスノウの村の方角を見ると、不自然に雲がかかり、空は暗く、ただの廃村ではない、邪悪な気配を感じた。おそらく、魔物が根城にしているのだろう。

「ええ、あれ、なんだけど……」

スノウもそれは察知したらしい。

「ともかく、ここで退くわけにはいかないわ。村に何か魔物がいるなら、私が倒して、みんなが安らかに眠りにつけるようにする」

そう言って、スノウは廃村へ向かった。

ドラゴンに向かう前に強敵との戦闘経験があっても良いな……。

そう思い、俺も後へ続くことにした。

廃村へ続く道の途中では、今までと異なった魔物が出た。

スケルトンという、剣や槍などの武器を持った骸骨。オークやリザードマンより動きは機敏で、統率のとれた攻撃をしてくる厄介な敵だ。ただ、筋力がそれほどでもないようで、ガードされても力押しで攻撃すれば、割とあっさりと倒すことができた。

スノウも器用に攻撃を避け、的確に頭蓋骨を切り離したり突いたりして、無力化している。

村に着くと、禍々しい気は一層強くなった。


「村がこんなになっているなんて……」

悲壮な表情でスノウは呟いた。

家屋は軒並み燃やされたり破壊された跡があり、畑は荒れ果てている。

人はおろか、野性動物などの気配すらない。

「どこかにこの元凶があるはずだ。探そう」

俺がそう言うと、スノウも頷いた。

村を周っていると、邪悪な気がある一ヶ所から出ているのに気がついた。

「あそこね」

どうやらスノウも気付いたらしい。

それは、立派だと言っていた教会から発せられたものだった。

周囲を警戒しながら、俺たちは教会に近づく。

すると、どこかで石にひびが入るような、小さな音がした。

注意深く周囲を見渡すが何もない……。

と思った瞬間だった。

大きな羽が勢いよく広がる音。上だ。

見上げると、教会の上に、3メートル程のコウモリのような羽を生やした、ドラゴンの顔の生物がいる。人間のように手と足、そしてとがった尻尾。肌は灰色で、手には大きな斧槍を持っている。まさしく絵画の悪魔のようだ。

「あれは、ガーゴイル! 」

スノウが言った。

「ガーゴイル? 」

「そう、ドラゴンは襲った教会が二度と復活しないように、守護する魔物を配置すると言うわ。普段は石像だけど、侵入者が来ると反応するそうよ」

「そういうことは早く言え! 」

そんなやり取りをしていると、ガーゴイルが教会の屋上から、斧槍を振りかぶり、襲いかかってきた。

俺とスノウはそれを避けて、突きで攻撃する。

が、皮膚が石でできているようで硬く、弾かれてしまう。

「どうすりゃいいんだ! 」

「知らないわよ! 」

ガーゴイルは無視して、斧槍を薙ぎ払う。

俺とスノウはバックステップでかわす。あんな大きな武器だ。重量も相当なものだろう。

それに遠心力も加わっている。ガードしても盾ごと吹き飛ばされるだろう。

攻撃がかわされると、ガーゴイルは飛び上がって大きく息を吸い込んだ。

この動きは見たことがある。滝の修行で戦ったミズチが強烈な水流を吐く動作だ。

「なにかくるぞ、下がれ! 」

反応してスノウは後退する。その瞬間、ガーゴイルの口から炎が出て、俺たちの眼前の空間を焼き払った。

「攻撃は強力で、こっちの攻撃は効かないってのに、火まで吐くのかよ……」

「フッ、ドラゴンの前のウォーミングアップにはちょうどいいわ……」

そう言ったスノウの額には冷や汗が見える。

ガーゴイルは俺に向かって滑空し、斧槍を横に振る。瞬時のことで避けることができず、盾で受ける。凄い衝撃で、盾を持つ左手に痛みが走る。

その隙に、スノウが素早く胴体に突きを繰り出すも、少々石が欠けただけで、効いている気配がない。

その後もガーゴイルは斧槍を振り回し、俺たちは何とか避け続けた。

モーションが大きいので注意すれば当たらないが、一発でも食らったら致命傷は確実だ。

こちらには有効な攻撃手段がなく、スタミナが切れて避け切れなくなったところで負けだろう。

「スノウ、撤退しよう。相手が悪い、ハンマーかなんか、砕くものを用意するんだ! 」

「嫌よ! 村をこんな様子のままで置いていけない! 」

彼女は頑なに引く気配がない。

俺一人で逃げてもいいが、その場合、きっと彼女は死ぬ。後味が悪い。

なんとか対処法を考える。

普段は石像、皮膚は石でできている。しかし、このように動いている。

どうやって動いているんだ?

考えられるのは……

「スノウ! ブレスを誘うぞ、奴が飛んだら、真下に向かう。」

「なにか考えがあるの? 」

「ああ、試す価値はあると思う。というか、それしか手がない」

「わかったわ! 」

そうして俺たちは一旦散り、ガーゴイルの広範囲のブレスを誘う。

俺の思惑を知ってか知らずか、読み通りガーゴイルは空中に舞った。

「行くぞ! 」

「ええ! 」

スノウがヤツの真下に向かう。俺もそのあとを追う……そして

奴が息を大きく吸い込む。

俺はジャンプしてスノウの肩を足場にし、さらに高く飛ぶ。

スノウの驚いた声が聞こえたが気にしない。

狙いは口。

ブレスを吐こうとするまさにその瞬間、俺は奴の口内めがけて剣を突き刺した。

肉に突き刺さった感触。

炎は発射されず、俺とガーゴイルはそのまま落下し、地面に叩きつけられた。

「いてぇ……」

地面に打ち付けられ、全身が痛む、しかし、どこも動くし、激痛が走るところもない。骨は折れていないようだ。

ガーゴイルは動かない。安心してよさそうだ。

「よくもまぁ、このスノウ様を足蹴にしてくれたわね……」

背後からスノウの怒気をはらんだ声がする。

「あぁ、すまない」

素直に謝ることにしよう。

「フッ、フン。まぁいいわ。なんとか倒せたみたいだしね。あなたのお陰で、村のみんなも安心して眠りにつけるわ……」

邪悪な気配も徐々に消え去っていくのを感じる。

「でも、なんであんな作戦考えたの? 」

「あぁ、石像が動くのにはなにか理由があると思ってな。あれは、石の皮膚を持つ、石像に擬態した魔物だと推測した」

「なるほど、それで、表面への攻撃が通じなくても、体内への攻撃は有効だと考えたわけね。それで、炎を吐く瞬間をねらったと」

「そういうことだ」

「なかなかやるじゃない。」

スノウは不本意ながら感心したようだ。

「とりあえず、アイツが守ってた教会に入ってみましょうか」

俺たちは教会の中に入る。

荒らされた机や椅子、壁や床には魔物の爪跡や血痕もある。

中央の、おそらく女神像であるそれ、は完膚なきまでに破壊され、もはや足しか残されていない。

「やはりひどい有様だな……もう出よう……」

俺はスノウを促すが、ぼーっと女神像の方を見ている……。

すると、白い光の球体が、女神像から俺の方へと飛んでくる。

「なんだこれは? 」

敵意はない。むしろ、俺たちに協力してくれるような、そんな印象を受ける。

どうすればいいかと立ちつくしていると、スノウが呟いた。

「お父さん……」

スノウがそう言った。


スノウによれば、どうやら、この街の司教というのはスノウの父親で、女神と協力して、死んだ後も、勇者に力を授けようと、魂だけの状態になってこの教会で待っていたらしい。

「話はわかった。でも、俺は新たな力はいらない、協力してくれるなら、スノウの力になってやってくれ。」

光の球体は、頷くように上下に移動し、スノウの剣に吸収された。

スノウの剣を見ると、俺の剣と同じように、良くわからない文字が刻まれていた。

「どういう効果かわかるか? 」

スノウに尋ねる。

「文字は読めないけど、お父さんが教えてくれた。見てて」

そう言って、スノウは剣を天に掲げる。

「癒しの光よ……汝の傷を癒せ」

剣先から無数の光の球体が出現し、俺の体を包む。

すると、さっき空から落下した際の全身の痛みが、嘘のように消えていった。

「治癒魔法……か……」

不可解な現象に、思わず魔法という言葉が口から出る。

「そうみたいね」

新たな力をくれたお礼に、足しか残っていない女神像に祈りをささげ、俺たちは教会を後にした。



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