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第4話

ミュールは、大都市というだけあって、栄えていた。

道路は石畳だったが綺麗に整備されていて、建造物は石で造られているにも関わらず2階建や3階建てが当たり前、遠くには大聖堂も見えた。

宿屋や酒場、店なども多く、街は活気であふれていた。

道行く人々は、西欧系が多いものの、黒髪の東アジア系や肌の黒いアフリカ系の者も多く、流通の中心であるようだった。


街を見物しながら歩いていると、昨日別れたであろうヨークを見つけ、話しかけた。

「コイツを換金したいんだが、一緒に来てもらえないか? 礼は勿論する」

俺は虎と戦って得た宝石の一部をヨークに見せた。

「お前さん、そんなもんをどこで手に入れたんだ……? 」

ヨークは驚いたような顔をする。

「お前たちと会う前に、森の中でちょっとな」

「気になるところだが、アンタには借りがある。わかった。俺が案内しよう」

こうして俺たちは換金屋に向かった。


換金屋は冒険者ギルドというところの向かいにあった。ラタピーは今は冒険者ギルドにいるらしい。次の依頼を探すのだとか。

冒険者が、洞窟などで手に入れた宝をすぐに金にするためらしい。

ヨークがいたおかげでぼられずに済んだ。

当分金に困りそうもない金額だったので、ヨークに少し分けてやろうと思ったが、彼は

「俺は商売で金を稼ぐんだ。心遣いは嬉しいが、その金は受け取れねェ」

と言った。

しかたないので、情報の収集も兼ねて飯をおごると言うと、それぐらいなら、と言って、俺たちは近くの酒場に入った。


「俺は赤いドラゴンを倒すためにこの世界にやってきた、異世界人だ。赤いドラゴンについて訊きたい」

「はぁ!? 」

酒場でそう話すと、ヨークは目を丸くして、変な声を上げた。

「ホームレスの旦那、頭でもおかしいのか? 」

俺の言うことを信じないヨークだったが、俺が女神に使命を与えられ、修行し、この剣と盾が女神から受け取ったものだと説明すると、納得したようだった。

「なるほどなぁ……しかし、ドラゴンかぁ……」

ヨークは悩みながら言った。

「旦那も強いが、ドラゴンはその比じゃねえ。ギルドでもトップの冒険者が挑んで、行方知れずになってる。なんせ、この世界の魔物の頂点だからな」

ヨークはそう言った。

「強さはわかった。が、それが諦める理由にはならない。どこに住んでいるのかはわかっているのか? 」

「北の山脈に住んでると言われている。おそらく確かなんだろうが、あそこは魔物も強くてな。戻ってきた奴も少ねえんだ」

なるほど。それだけわかれば十分だ。

剣と盾はある。あとは鎧や籠手、ブーツなどの装備を整え、水や食料などの旅の支度をして、北の山脈へ向かおう。

「ありがとう、ヨーク、恩に切る。これはここのお代だ。」

金を置いて、出ようとする。

「旦那、悪いことはいわねぇ、辞めとけ……って言っても止まりそうにねえな。生きて帰ってこいよ。女神様の加護のあらんことを。」

「あぁ。ありがとう、ヨークも達者でな。」

そう言って、俺たちは別れた。




装備を整え、地図を買い、ミュールの北の門へと歩いていると、大きな広場があった。

中央には女神の像が立っている。

滝で出会った女神とそっくりである。

近くには巨大な聖堂もあった。

石でできているが、高さは現代の建築物にも劣らないほどで、神殿のようにも見える。

周りは騎士が巡回し、まるで城のようだ。

その様子に圧倒され、まじまじと眺めていると、兵士が話しかけてきた。

「その剣と盾、あなたが例の勇者様ですね、少々、ご同行願います」

気がつくと辺りを兵士に囲まれていた。

突破してもいいが、後々面倒くさいことに巻き込まれると困る。

俺は大人しくついていくことにした。


聖堂の中は兵士のほかにも一般人、シスター、神父が多く出入りしていた。

真っ白な壁と、巨大な柱、所々に女神の彫刻があり、この世界に疎い俺でも女神を進行していることは理解できた。

長い通路を進んでいくと、徐々に人の数が少なくなり、重厚な扉の前にたどり着いた。

「教皇様、勇者を連れてまいりました」

「よろしい。入るが良い」

兵士が扉を開け、中に入ると、豪勢なイスに白と赤の派手な衣装を着た老人がいた。

年老いてはいるものの、異様な威圧感がある。

「よくぞ来て下さった、勇者様」

教皇と呼ばれた老人は俺にそう告げた。

「私は女神教の教皇、ファハト。女神様のお告げで勇者様がこの街にいると訊き、一目見たいと思っていたのじゃ」

なるほど、あの女神が接触できるのは俺だけではないようだな。

しかし、女神教とは安直なネーミングの宗教だ。

「話はわかった。しかし俺はさっさとドラゴンを倒しに行きたいんだ。とっとと解放してくれないか? 」

「ドラゴン討伐を依頼しようとしていた所ゆえ、そう言っていただけるなら話が早い、ですが、1人で挑んでも勝ち目はありませんぞ。なんせ、ドラゴンは魔物の王ですからな」

「で、仲間をつけてくれるってわけか。要らないね。見たところ、そんなに強そうな奴はいなさそうだし、あんたの護衛も必要だろ。」

周りの兵士が怒っているようで、空気に緊張感が漂った。しかし、本当のことだ。

「お恥ずかしい。なにぶん、この国は長らく平和でして、戦闘経験も少なくてですな」

「余計な犠牲者を増やしたくもない、話は終わりだ。俺は討伐に向かう」

「勇者様がそうおっしゃるなら……」

「では、失礼する」

そう言って出ていこうとした瞬間だった。

「ちょっと待ちなさいよ! 」

教皇の近くにいた兵士、だろうか、少々装いの違う女が、俺に声をかけてきた。

「さっきから聞いていれば、教皇様に無礼な口は聞くわ、私たちのこと弱いとか言うわ、勇者だとしても許せないわ! 」

教皇がちょっと困ったような顔をしている。

「これ、スノウ、勇者様になんて口を聞くんだ」

「教皇様、申し訳ありません、しかし、私は我慢の限界です。」

スノウと呼ばれた少女は怒りながらそう言った。

「決闘よ! あんたが負けたら、私たちがドラゴンの討伐をする! 弱い勇者なんかに任せられない! 」

「俺が勝ったら、どうするんだ? 」

「その時は、教皇様や私たちへの無礼を許してあげる」

「俺にメリットがないな、くだらない。もう行かせてもらうぞ」

逃げるのかー! 勇者のくせに意気地がないぞー。

周りの兵士達も同調する。

うるさい連中だ。しぶしぶ俺は決闘を受けることにした。

しかし、出来るとは思えないが、万が一この連中がドラゴンを倒してしまった場合、俺の記憶はどうなるのだろうか。

戻らないのならこの世界に来た意味がない。

まぁ、勝てばいいだけの話か。

俺と兵士たちは広場へ向かった。




女神像のある広場で、俺とスノウと呼ばれた女は対峙する。

周りには兵士や見物人たち。ずいぶん目立ってしまった。

なんでも、幼いころから女神教の騎士団で剣術を学び、今では女性ながら騎士団随一の使い手らしい。

他の兵士達とは異なり、軽装で、金色の髪を後ろで縛っている。

小柄だが、引き締まった体をしており、動きにもキレがある。

武器はやや細身の剣で、丸い小さな盾。機動力で勝つタイプだと分析した。

ただ、ミズチや虎と戦った時に感じた、強者のプレッシャーのようなものがない。

おそらく余裕だろう。

俺が武器を構えると、スノウも武器を構える。

間合いを慎重に近づけていく。

思ったよりも隙がない。騎士団でトップというのは嘘ではないらしい。

「来ないならこっちから行くわ」

そういってスノウは一気に距離を詰めてきた。素早い突き。俺は盾で防御する。

しかし、スノウはめげずに連続で切りかかってくる。無駄のない動きで、俺は防戦一方になる。

攻撃の合間に剣を振るが、華麗に受け流されてしまう。

思ったよりも難敵だったか。しかし、見切れないほどではない。

攻め続けても防がれている状況に、相手も埒が明かないと思ったのか、一旦距離を取る。

「思ったよりやるようね……なら、これでどう? 」

スノウは全身に力を込め、一気に上段から切りかかってきた。

俺は盾を上に構える。

しかし予想していた上段切りは手前で空を切る。

「飛燕!」

下から上への逆袈裟切り。それもピンポイントで盾を狙ったようだ。

上に構えていた盾の下を思い切り弾かれ、手を離してしまう。

盾が宙を舞い、俺はふらつく。

「今よ! 」

相手が渾身の突きを繰り出してくる。

この瞬間を待っていた。

剣術では及ばない、相手の攻撃が単調になる瞬間を。

俺は後ろに倒れ込み、突きを避けると同時に、真上に来た相手のわき腹を思い切り蹴り飛ばす。巴投げの要領である。

「ぐぇっ」

スノウは苦痛の声を上げ、自分の突きと蹴りの勢いで吹っ飛んだ。

すぐさま立ちあがり、倒れているスノウの首めがけて、剣を向ける。

「勝負あったな」

「まさか……アンタみたいのに負けるなんて……」

周りの兵士も、黙りこくっている。

「じゃあ、約束通り、俺は行くぞ」

そう言って、広場を後にした。

しかし、もう日が暮れてしまった。出発は明日にしよう。とんだ災難だ。

俺は近くの宿屋に泊ることにした。


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