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彼女は、僕の幼馴染だった。
小学校のころからの付き合いで、家も近かった。
彼女には兄がいて、その影響でゲームをしたり、少年漫画を読むらしかった。
僕は小さいころからいわゆるオタクで、かけっこも遅いし、おにごっこはいつまでたってもおに、肩の力も弱く、ドッジボールではいつもよけるだけ。
オタクの男とカードゲームやテレビゲームをすることはあっても、女子やイケてる男子からは見向きもされなかった。
でも彼女だけは違った。
一緒にゲームやマンガの話をして、俺のことを面白いと言ってくれた。
彼女の両親が共働きで、彼女がカギを忘れ、家に入れない時には、僕の家に連れて行って、一緒にゲームしたこともあった。
絵も上手で、僕が頼むとゲームのキャラクターの絵を描いてくれた。
目は大きく、はっきりとした顔立ちで、明るかった。
中学になると、うわさされるのが嫌で、ちょっと距離を取ったが、それでも彼女が好きだった。
彼女だけが好きだった。
ある日、彼女の飼っていた犬が死んだ。
彼女はその犬が大好きで、大きな声を上げて泣いた。
学校に来ても元気がなくて、僕は心配になった。
「帰りにドーナツ屋さん行こうよ。おごるからさ」
そう言って無理やり彼女を誘いだした。周囲の目なんてどうでもよかった。
元気づけようと思って、ゲームや漫画の話、僕が体育でかっこわるく失敗した話。いろんな話をした。彼女はすこしづつ笑うようになった。
僕はうれしかった。
「死んじゃったものは、仕方ないんだよね」
帰り道、彼女は寂しそうにそう言った。
「他の犬を飼っても、あの子はあの子しかいない。もう終わりなんだよ」
僕は俯いて、なにも言うことができなかった。
「でも、これから死ぬ子を救うことはできる。私、獣医になるよ」
彼女の顔が明るくなった。幼い時に、一緒に過ごしたあの顔だった。
僕の大好きな、あの顔。
「応援する。絶対応援するから! 」
ぼくはそう言った。