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第8話

屈強なリザードマンがいた道を進んでいくと、大きな洞窟を見つけた。

左右には魔物の像。ガーゴイルだろう。ここを守っているようだ。

「やっと着いたようね」

「ああ」

覚悟を決めて、俺たちは洞窟に向かう。

すると、魔物の像が動き出す。

「左は俺がやる。右は任せた。」

「わかったわ」

俺は動き始めるガーゴイルの翼めがけて、思い切り斧槍を振りおろす。

翼は砕け、ガーゴイルは倒れて悶えている。

容赦なくとどめを指す。

ふりかえると、ガーゴイルが両手で目を押さえている。どうやら潰されたらしい。その隙に、スノウは口に剣を突き刺した。

呆気ない相手だった。

「先に進むわよ」

喜んでいる暇はない、これからが本当の決戦なのだ。


洞窟内は所々にある鉱石が光を発しているお陰で、真っ暗ではなかった。

これなら途中で襲われてもなんとか対処できそうだ。

しかし、奥から猛烈なプレッシャーを感じる。

「思ったより近いわね」

「そうだな」

スノウもそれを感じ取ったようだ。

「絶対に倒すわよ」

「言われなくてもそのつもりだ、そのために来たんだ」

「じゃあ、いくわよ」


細い洞窟の曲がりくねった道を抜け、大きな空間に出る。

そこには、全長10メートル程の巨大なドラゴンがいた。

体表は赤い鱗で覆われ、大きな翼を持ち、二本足で立っている。

頭部には曲がった角が生えている。


「よく来たな、愚かなる女神の使いどもよ……」

ドラゴンは低い声で言った。

「お前に恨みはないが、俺の記憶のためだ。ここで倒させてもらう。」

「私にはあるわ。家族や村のみんなの敵、取らせてもらうわよ」

俺たちは武器を構える。

「まぁ待て。貴様らが信仰する女神は、果たしてお前たちに何をした? 」

そう言われ、俺は言葉に詰まる。新宿で凍死しそうになったところを助けたと言えばそうだが、なにか見返りを貰ったわけではない。

「女神様は、運命を司り、私たちを守ってくれるのよ! 」

黙っている俺に変わってスノウが答える。

「そこだ。運命を司るとはどういうことだ? 万物には始まりと終わりがある。自然の摂理と言うものだ。それを徒に操り、人々の心を惑わせる者を、悪と言わずなんと言う」

「アンタこそ、魔物を操って罪のない人々を殺しているじゃない! 私はアンタを許さないわ! 」

スノウが声を荒げる。

「愚かな女神の手先には何を言っても無駄なようだな。かかってこい。貴様らが正しいというなら、力で証明してみせろ! 」


ドラゴンが吠える。空気が震え、吹き飛ばされそうになる。

しかし、怯んではいられない。

俺とスノウはドラゴンに立ち向かい、斧槍と剣で切りかかる。

しかし、強固な鱗によって、弾かれてしまう。

「やっぱりか」

「鱗のない腹部を狙うまでよ! 」

「そうはさせん」

ドラゴンは翼を使い、空中に移動する。これでは武器は届かない。

「これで一掃してくれる」

ドラゴンが息を大きく吸い込む。

それを見て、俺たちは距離を取る。

次の瞬間、視界は炎に覆い尽くされた。

ガーゴイルも火を吐いたが、それとは比べ物にならない威力である。

その炎に圧倒されていると、大きな羽音が洞窟内に響き渡った。

斧槍を捨てて素早く盾を構えると、炎の中からドラゴンが滑空し体当たりを仕掛けてきた。

巨体と空中からの勢いで、これまで体感したことのない衝撃が俺を襲い、吹き飛ばされ、洞窟の壁に思い切り叩きつけられた。

背中だけでなく全身に激痛が走り、動くこともままならない。

ドラゴンは俺の方を向き、大きく息を吸いこんでいる。

すると、スノウが俺の方を向いてドラゴンとの間に割り込んできた。

「光よ! 汝の傷を癒せ! 」

光が俺の体を包み、痛みが和らいでいく。

「勝ってよね」

そう言って、スノウは笑った。

ドラゴンの口から燃え盛る火炎が放たれた。

空間すべてを焼き尽くす炎。しかし、俺のところまで届かない。

炎が止むと、一人の人間が、倒れる音がした。


体は動く。

感覚もある。

研ぎ澄まされている。

ドラゴンが向かってくるのが手に取るようにわかる。

壁が背後にあるので突進ではなく、爪で攻撃してくるようだ。

俺は衝撃で亀裂が入った盾を捨て、両手で剣を構える。

目の前にドラゴンの爪が現れる。

俺は飛び上がり、爪を足場にして、さらに高く跳躍する。

そして、下から上に、ドラゴンの首めがけて、剣を振るう。

頭部と体が二つに分かれ、制御を失った胴体部分が、地面に大きな音を立てて落ちた。




ドラゴンを倒し、俺はその場に立ちつくしていた。

ドラゴンに動く気配はない。

そして、もう一人にも。

辺りは静寂に包まれている。

光を発する鉱石が洞窟内を照らし、焼け焦げた地面を映す。

俺はそれをただ、眺めていた。


どれくらいの時間がたったのだろうか。

何気なく俺が地面に剣を突き立てると、光り輝く結界がいつもより大きく展開されると同時に、女神が現れた。

「よくドラゴンを倒してくれました。」

「……あぁ。」

「約束通り、あなたから頂いていた記憶を、お返ししましょう」

「……そんなものはどうでもいい。アンタ、運命の女神なんだろ! アイツを、スノウを助けてくれよ! 」

「フフッ。」

女神は笑った。

「何がおかしい! 」

「あなたならそう言うと思っていました。たしかに私の力ならそれは可能です。ですが、それにはあなたの協力が必要です。」

「どういうことだ……? 」

「あなたにはこの世界でドラゴンを倒した勇者として約束された未来があるのです。また、彼女にもここで死ぬという運命があった……。彼女を助けるためには、あなたの未来、つまり運命の力を、すべて捧げなければいけません。それでもいいのですね? 」

「そんな未来、なんの意味もない。もともと俺この世界の住人じゃないし、思い入れもない。だから……彼女を助けてくれよ……」

「わかりました。では……」

そう言って女神は片手を俺に、もう片方の手をスノウに向ける。

やがて俺から青い光の粒子のようなものが湧き出でて、女神を経由し、スノウの元へと注がれる。

徐々に体の力が抜けていく。

やがて立っていられなくなり、ふらふらとその場に倒れこんでしまう。

それでも、光の粒子の流れは止まらない。

記憶が、自我が、消えていく。

俺はいったい、何者なんだ……?

わからない……。

そんな疑問を抱きながら、俺は意識を失った。

最後に見たのは、どこか見覚えのある、女神の怪しげな微笑みだった……。



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