第7話
北の山脈は、荒涼としていた。
樹はほとんど枯れていて、山肌には背の低い草や苔が点々と生えているだけ。
岩石だらけの険しい灰色の道を、俺たちは進んでいった。
魔物もどんどん強力になってきた。
オークやゴブリン、コボルトなどは全く姿を見せず、リザードマンが徘徊しているのを多く見かけるようになった。
魔物を倒しながら山脈を旅すること二日間、俺たちは一際大きなリザードマンを見つけた。
その体格は、パワーとスピードが、今までの相手を凌駕していることを想像させる。
体には無数の傷があるものの、それが幾多の戦いを乗り越えてできたものであることは明らかで、威圧感がある。
「アイツがきっとここのリザードマンたちのボスね。きっと、ドラゴンの元へ近づいてきたんだわ」
スノウは言う。おそらく間違いないだろう。
「どうする? 」
奴はまだこちらに気づいていない。迂回路を探すという手もある。
「倒すに決まっているでしょう。アイツのいる先に、ドラゴンがいるのよ! 」
たしかに、自分の本拠地に至る道には、強力な配下を置くだろう。
「わかった。じゃあ、奇襲をかけるぞ」
スノウは頷く。
タイミングを合わせ、俺たちは岩陰から飛び出し、左右に分かれて屈強なリザードマンに接近する。
突然のことに相手は一瞬、驚いたようだが、すぐに戦闘態勢に入った。
右からはスノウの素早い突き、左からは俺の斧槍による縦切りが繰り出されるが、奴は突きを剣で払い、斧槍の攻撃を盾で受けた。
「この威力の一撃を片手で受けるとは……」
筋力はかなりのものだ。そしてスノウの突きに反応できる敏捷性もある。
俺は反撃に備え、素早く距離を取る。スノウも同様に離れた。
「俺がアイツを引きつける、その隙に攻撃しろ」
「了解」
俺は武器を剣と盾に持ち換えて、奴の方へ向かう。
剣戟が続くが、奴の一撃は重く、そして速い。スノウと訓練していなかったら防ぐことすらままならなかっただろう。
わずかな隙を縫って、俺は剣を振るう。
すると、リザードマンはそれに合わせ、盾を思い切りぶつけて、剣を弾く。
俺の体勢が崩れる。
「忘れてもらっちゃ困るわよ! 」
やられると思った瞬間、リザードマンの背後にスノウが現れ、突きを繰り出す。
背中に剣が刺さる。しかし、硬い鱗のせいで、致命傷にならない。
スノウは仕留めたと思ったのだろう、動きが一瞬止まる。
リザードマンは振り返り、彼女めがけて剣を振るう。
すんでのところで反応するが、避けきれずに剣先がかすめる。軽装の鎧をまとっていない個所から、血が流れる。追撃からは逃れ、距離をとって俺と合流する。
「大丈夫か? 」
「これくらい、どうってことないわ。でも……」
パワー、スピード、防御力、そして技量。すべて兼ね備えた相手だった。
「アイツの鱗は硬い、攻撃するなら鱗のない正面だな……」
「正面から行っても、剣と盾で防がれるわ」
「盾は俺が何とかする。お前がこれで決めろ」
俺は剣をスノウに渡す。
「二刀流なんてしたことないけど、それしかなさそうね。」
「チャンスは一度だ! 行くぞ! 」
俺とスノウはリザードマンに向かって駆ける。
そして渾身の力を込めて斧槍を振りおろす。リザードマンが盾で受ける。
狙い通りだ。
すかさずスノウが懐に潜り込む。リザードマンの剣の一撃。それをスノウは剣で反らす。
そして、がら空きになった腹部に、思い切り女神の剣を突き立てる。
リザードマンは血を吐いて、倒れた。
「強かったな」
「私にかかればこれぐらい……つっ」
激しく動いたせいで、スノウの傷から血が止まっていない。
「治癒魔法は? 」
スノウは剣を振りかざして試すが、どうやら自分には使えないらしい。
「今日はここで休もう。」
俺は剣を突き立てて結界を張り、二人で休息をとった。