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プロローグ

どこかで金属の地面に落ちる甲高い音がする。

改札口の方だ。俺は人の波を掻き分けて、急いで向かう。

あった。

100円玉だ。

おそらく交通系のICカードを使う際に落ちたのだろう。

これで所持金は263円。

ビールの一本でも買うか。

俺は駅を出て、コンビニに向かった。


ここは大都会東京、新宿駅。

俺はここで、ホームレスをしている。

いつからこうなったのかなんて覚えていない。

家族のことも、自分の名前さえも。

落ちているタバコの吸い殻に拾ったライターで火をつけて、一服する。

希望も、将来もない。

12月の新宿には冷たい風が吹く。

その風は、どことなく湿気を帯びていた。

タバコを吸い終わり、公園のベンチでさっき買ったビールを飲んでいると、雨が降り始めた。

資源ごみ置き場から拾ったボロボロのダウンジャケットに水を弾く力はなく、濡れた衣服が俺の体温を奪っていく。

ホームレスになってから、初めての冬だった。

高架下に行ってもいいが、もう俺に生きる気力はなかった。

とにかく疲れて、眠かった。

コンビニの廃棄の弁当は、他のホームレスが先着順に持っていく。

雨風が凌げる場所には、既に誰かが住んでいる。

社会の資源は限られていて、人間はそれを奪い合っている。

ホームレスの社会でも同様だった。

俺はそんな生活にもうんざりしていた。

もういい。

もういいんだ。

俺はベンチに横になり、目を瞑った。

雨は次第に強くなり、地面を打ち付ける音が辺りに響いていた。

寒い。

身体が激しく震え、思わず丸くなる。

しかし、濡れた衣服に保温性はなく、むしろ身体を冷やしていく一方だった。

空腹のせいもあり、体は強張って、動かない。

こんな雨では周囲を通る人もいない。

ただこうして丸まっていることしかできない。

そのうち身体の感覚が消え、寒さを感じなくなった。

かわりに、強烈な眠気。


このまま寝たらきっと死ぬだろう。

それでいい。


俺は眠気に身を任せた……。

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