表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

どうぞ父を宜しくお願いします

授業も滞りなく終わり、待ちに待った放課後です。


ええ、ソロコンサートなんて忘れましたよ。私は過去を振り返らない女です。ええっ、ソロコンサートを止めなかった音楽教師(女性、38歳、独身、趣味は婚活)など知りません。私は過去を振り返らない女ですが怨みは末代まで呪う女でもあるのです。


さて放課後は定番通りにいきますか。

乙女の放課後なんて一つだけです。


さぁ、美少女達よ。オバチャンとガールズトークしようぜっ☆


喫茶店ではなく今の時代はファーストフードでドリンクバー片手にガールズトーク。もしくはお洒落なカフェでケーキかしら?それともクレープかアイス片手にゲームセンターに行っちゃう?オバチャンはプリクラが撮りたいです。『祝!初友達☆』の文字を是非とも書かせて下さい。お願いします!


そんな私ですが只今、願望虚しく図書室にて待機しております。


独りでっ!!


ええ、ええっ!またしてもボッチですよ!!

嘗めてましたよ!進学校!!

馨子さんも紗智ちゃんも習い事で忙しいらしいんですよ。それ以上ハイスペック美少女になってどうする!誰得だよ!?私得か!!


「はぁ………」


思わずため息が出るのも仕方がないわ。


ボッチ………思い出したら泣けてくる。

今は馨子さんや紗智ちゃんという美少女(トモダチ)が居るから忘れていた。


そう、あれは忘れもしない幼い頃…………私は悪霊にとり憑かれていたっぽいです。

っぽいです。っぽい。だって私には見えませんから。

当たり前でしょう。霊感なんてないやいっ!あっても怖いし、困るからそれはいいんですよ。

ただね、私の周りの人には悪霊が見えるらしいのですよ!私の背後にっ!!一部の人だけなら分かるが校内外関わらず全員悪霊が視認出来るって、どんだけ凶悪な悪霊だよ。それに憑かれている私……。しかも私だけが見えない疎外感ハンパねーです。

父だけだったよ。見えないの………身内だし父も霊感皆無なのかな?


まぁ、その悪霊のせいで不調になったり怪奇現象が起こる等はなかった。

ただね、その悪霊ってさ、外見が物凄く恐ろしいみたいなんだよ。まぁ悪霊だしね。怖くない悪霊なんていないよね。普通は。

でもさ、そのせいでクラスどころか全校生徒が私を見ては拝む。時には涙ながらに、時には呆然と………私が廊下を歩けば道は割れ、膝をつく生徒達たまに先生、保護者。


さすがの私もこのままではヤバイと思いましたよ。

だから神や仏にすがったさ。

神社の祝詞、寺の経、教会の聖水、勿論御守りも購入したさ。

だけど効果はなかった。

しかも何故か私が身に付けた役たたずなはずの御守りが、生徒の間で効果があったらしく流行りだした。

憑かれた本人に御利益ないくせに私以外には御利益があるとかふざけんなよ。賽銭返せ!!


つーか私に対して御守り必須な対応とか傷つくからね。ガラスのハートが粉砕して修復不可能なレベルだからね。


全校生徒、並びに先生、保護者の方々よ。御守りあるなら拝むなよ。御利益あるんでしょ!とり憑かれてないんでしょう!いいじゃん。私は見えないのに憑かれてるんだぜ。


御守り効果あるなら無事でしょ!安全でしょ!だから拝む連中に『同じ学舎へ通う者同士なのだから親しくありたい』なんて言ってみたさ。

はっ?口調が違うって?人見知りなんだよ。コミュニケーション不足なんだよ。ボッチ嘗めるなよ!

だから遠回しに普通にしてくれ、あわよくばお友達にでもとお願いしたら拒絶されましたよ。はい。


この時私のなけなしの勇気は散々になり、声には出せぬ心から叫びをあげた。


お前達も呪われてしまえっ!!(涙)


そのおかげで無意識に術祖返しでもしてしまったのか、それとも御守り効果があったのかパタリと拝まれなくなった。

しかし悪霊が退散した代わりに私に近づく人も退散しました。


ここまでの効果は望んじゃいねーよ!!

なんですか!?人を呪わば穴二つですか!!


もうあの時には戻りたくない………(泣)


ああ、人は楽しい気持ちを知ってしまったら、あの日の辛い時には戻れない。過去の自分は耐えられたけど今の私には無理。だって友達が居るから…………


あっ私、詩人みたいじゃね?

何か良いこと思った気がする。

忘れないうちにメモらなければ。


鞄から手帳を取り出しさっそく書きながらも、目線は憧れの下校風景に釘付けだ。


窓から見える下校風景は幻想でしかない。

キャッキャうふふっと、友達同士で仲良く下校する姿が羨ましい。


私は一人寂しく、本と戯れる。

この落差に不条理を感じてしまう。


……………誰かいないかな?ボッチな子。


一応、図書室だから本を開いているが好みじゃない。私はもっと泥沼展開の愛憎恋愛やらウキウキドキドキファンタジー物のが好きだ。


世界が認める日本文学は漫画だろうよ!

進学校なら日本文化を余すことなく取り入れようぜ!

漫画もライトノベルもギネスブックもない図書室なんて図書室じゃない!


某世界有名魔法使い少年小説は何故に原本のみを入れた!?日本人が日本人の心を忘れてどうする!

某作家が海外本の『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳した日本人の美しき心はどこいった!!


私は声を大にして叫びたい!


………………なんてさっきから、ああだこうだと思っておりますが、まぁようするに……暇です。


暇なんですよっ!!


ちなみに何で私が寂しくボッチで居るかなんて考えなくても分かるでしょう?

………父待ちですよ。


公私混同駄目絶対。


でも父なら許される。周りの先生、生徒、保護者さえ何故か受け入れ、理事長の送迎が当たり前のごとく受け入れられている。

大丈夫か?この学校………


「はぁ………」


ため息が止まらない。図書室のオプション(本)を意味もなくページを捲るだけ。


例え馨子さんと紗智ちゃんに用事がなくとも、下校イベントは起こりようがなかったのね。起こっても付属品(父)付きではガールズトークにならないわ。


現実を受け入れながらも、儚い夢に思いを馳せる。


「んっ?」


窓から見えるは校門前を彷徨く怪しい影。

眼鏡君からデートに誘われていた。其の名もプリンちゃんではないか!


何やってんだ?あの子。


校門から出て行ったのは先程見た気がする。あの(プリン)は目立つから速攻分かったが、一人で帰ってたし私がターゲットにしていた仲良し女子友下校風景には加えられていなかったからスルーしてたよ。


帰ったはずのプリンちゃんがまた戻って来た。

忘れ物にしては学校に入らず、校門前を何回も行ったり来たりしている。


待ち合わせなら校門前で大人しく待つなり、待ち合わせ相手と携帯で連絡すれば良いはずなのに、それがない。

しかもあんなに何回も視界を彷徨けば、ターゲット以外興味がない私でもさすがに気が付くよ。

何がやりたいかは不明だが私のターゲット観察、及び参考下校風景を遮るのは頂けない。


あっ、また!仲良し手繋ぎ女子の手が見えなかった!ふざけんなよっ!今一番大事なとこだったのに!恋人繋ぎか!?それとも握手繋ぎか見れなかっただとっ!!私から馨子さんと紗智ちゃんの手を握る為の状況、状態、タイミングを参考にしようと狙いを定めていたにもかかわらず、肝心な場面が見れなかった!!!


余りの憤りに冷たい視線をプリンちゃんへと向ける私は悪くない。

何なのあの子。本当に……


「……邪魔だわ」

「何がですか?」


思わず漏れた声に返答があって驚いた。

外ばかり気にしていたら、机を挟んで目の前に立つ存在に声を掛けられるまで欠片も気付かなかった。


「えっ!?っ…………」


思いがけない存在に図書室だと言うのに大きい声をあげてしまい、慌てて口に手をやる。


「校長先生………」


何故、どうして、ここに居るんだっ!

校長は校長室の住人でしょうがっ。

しかしさすが校長!相変わらずのイケメンですね!敬語と目尻の皺がいい感じデスヨ。

プリンちゃんとは違った天然物の茶髪に琥珀色の瞳!穏やかな陽射しと新緑、紅茶と書物が似合う上品さは上流階級の貴族様みたいです。


「すいません。驚かしてしまった様ですね。世r、理事長より言付けを頼まれまして」


驚いて固まった頭に校長の苦笑が響く。


私の疑問に答えてくれて有り難うございます。そしてごめんなさいっ!

父っー!!!!!校長をパシリに使うなよっ!!

それより校長が父の名前を呼ぼうとして、呼び直したね。誤魔化せませんよ。私はしっかり、ハッキリと聞きました。


名前で呼ぶ、呼ばせる程親しい間柄ですかっ!私は一人寂しくボッチなのに…………随分と仲が宜しいことで。

何だよ。絶対父はボッチだと思ってたのに!家にも父の友達なんて来ないし、私といつも一緒だし、ボッチ同士だと思ってたのにっ!!

実は友達が居ましたとか、驚愕の事実だわ。


「理事長が理事長室へ来て下さいと………」


はっ?そんな用件で校長を足に使うなよっ!何様ですかっ!?ああ、理事長様だったよ。おい。

校長めっちゃ呆れてますよ。どうすんのさ?父の唯一の交友関係が娘のせいで破綻したら父はボッチだよ。

ここは娘の私がフォローしなくてはっ!!


「すいません。父がご迷惑を御掛けしました。理事長室へ行って父には、校長先生が親しいからといって甘え過ぎるのはやめるよう言います」


だからどうか父を見捨てないで下さい!あんな父ですが娘にとっては可愛いんです。


椅子から立ち上がり保護者心境で校長に深く謝罪してから校長の反応を窺う。

お願いだから拒絶しないでくれー!!


「………甘…え……てる……世流が、ですか?貴女にではなく?」


今度は校長が驚愕の事実を知ったらしいです。目が点になってますよ。めっずらしい~。始終穏やかな感じで表情なんて仮面装着したかのように変わらないのに。父のことも素の呼び方に戻ってますよ。


ここまで驚くとは………えっ、ということは知らなかったの、今さらですか?めちゃくちゃ甘えてるじゃん。父。

だって父だよ。親馬鹿も裸足で逃げるくらいの狂愛レベルの父だよ。

そんな父が言付けを頼む程だよ。あの私に近寄る男は犬猫の雄でさえも許さない父ですよ。そんな父が人間で適齢期の男である校長を、溺愛する娘と接触させたんですよ。あの父、自らですよ。あり得ない。

それに父は私に甘いですが、激甘のデロデロに甘やかしますけど父は私には甘えないんですよ。

何だかんだと私には強要はしません。だから学校にも通えてますし、友達も出来ました。


「あんな父ですが校長先生を信頼しています。甘えるのも下手でどこまで甘えたら許されるか分からないんです。試す様に強要しているみたいですが友達が校長先生しか居ないので、そんな形でしか甘えられない不器用なお父さんなんです」


父は初めての友達付き合いに四苦八苦しているのだ。

その気持ちは凄く分かる。

手に取るように分かるぜ。


友達同士とはどこまでが許容範囲で許されるのか、甘えていいのか、嫌われないか、好かれるか、どうすれば友達でずっと居られるか、何が喜ぶか、悲しむか、怒るのか。まさに手探りな状態だ。しかも後がない。

私と父の友達付き合いの違いなんて慎重派か行動派ぐらいであろう。


「父のこと、これからも友としてどうぞ宜しくお願いします」


いま校長先生を逃したらこの先、父には友達がいなくなる。ここは娘の意地に賭け絶対に逃さないぞ。

悲しむ父は見たくない!泣かせたら校長とはいえボコボコにしてやる!隠れファザコン嘗めんなよ!!

ここまで生徒にフォローされたんだ断れまい。


「はい。といっても世流を任されたのはこれで二度目ですね」

「えっ?」


私以外に父の保護者根性で頼んだ人が居るの!?是非ともお話がしたい!お互いに父の苦労話に華を咲かせたい!


「可鈴さん。貴女の母です」

「お母さんが………」


母よ。貴女も苦労したのね。そしてその頃から父をお願いするとか………心中御察しいたします。


「懐かしいですね。私が世流と喧嘩して離れようとした時、可鈴さんが世流には私しか居ないから見捨てないで、と涙ながらに説得されました」


校長は笑みを浮かべながら懐かしそうに目を細めた。


直球過ぎますよ!オカン!!さすが母子。思考回路が同じだわ。


「さて、昔話もよろしいですがそろそろ世流が痺れを切らしそうです」


ええ、ええ、先程から気付かないようにしていましたが、校長の胸ポケットがブルブル振動してますもんね。それ携帯ですよね。


絶対に父だっ!


ちなみに私の携帯は電源OFFになっておりますよ。だって図書室だし…………だからではなく父の着信履歴が凄くなるからです。

もうストーカー並みですよ。

休み時間のたびに電話してくるのはどうかと思います。仕事しろよ。仕事。

しかも電話に出ないと即メール。それさえ返信しないと校内放送召喚かクラスに理事長顕現。


あ、り、得、な、い。


さすがに注意しました。

同じ学校に居るんだからさ、そこまで心配することないじゃん。


携帯も、今はスマホ?オバチャン黒電話世代だから操作が難しいのよ。

電話に出たら頬で変な数字は押し続けてるは、あげくのはてには切っちゃうくらい不慣れなのよ。

メールだって一行返信するのに1分かかるほどだよ。

私のが若い肉体なのに、何故か父のが現代の若人についていけるんだよ。


そんなこと正直恥ずかしくて言えない。だから父には電話やメールじゃなくて直接会って会話したいし、仕事中は邪魔したくないと言って、父のみ学校限定で携帯使用禁止にしました。


「重ね重ね父がご迷惑を……これ以上待たせると校内放送されそうです。理事長室に急がないと……………校長先生さようなら」


「はい、さようなら。世流が居ますし大丈夫だとは思いますが気を付けて帰って下さい」


互いに苦笑しながら私は本を鞄に仕舞い校長に下校挨拶してから図書室を出た。


図書室を出ると廊下でプリンちゃんとすれ違った。

まだ帰ってなかったんだね。あの子。

プリンちゃんは一心不乱の全力疾走で走って行った。

あんなに慌てて忘れ物かな?

でも廊下は走っては駄目ですよ。


にしても鼻息が凄かったな。そして甘ったるい香水の匂いがした。そしてプリンちゃんの名に恥じぬプリンヘッド。


うん。ないわ。あれはない。

恥ずかしくないのかしらねー。

もっと髪を労らないと将来が悲惨になるよ。若いって無謀だわ。


キーンコーンカーンコーン


突如チャイムが校内に鳴り響いた。


ん?下校時刻には早いよな。

はっ!まさか……


『1年A 組桜木可世さん。至急理事長室までお越し下さい。繰返します』


繰り返さんでいいっ!!


『1年A組桜木可世さん。至急理事長室までお越し下さい 』


キーンコーンカーンコーン


………………………

マジでやりやがった。


父ー!!!どうして大人しく『待て』が出来ない!!

そんなに不安か!?毎日一緒に帰ってるでしょ!置いて帰らないからっ!

そんなに寂しいか!?不安かっ!!可愛いなオイッ!!


プリンちゃんのことなど頭から消え失せる程の衝撃に呆然とチャイムの音が最後を告げると、私は早歩きで廊下を颯爽と歩いた。

目指すは理事長室。


待ってなさい、父よ。


「お説教です」


きっと理事長室では狼狽える父が居る。

あれだけ個人的に校内放送を乱用するなと口を酸っぱくして言ったのに、やりやがった。


娘に嫌われないか不安なくせに、怒られると分かっていても、なかなか来ない私に我慢が出来なかったんであろう。


悪いこと等していないのに校内放送で呼び出されるのは何か嫌だ。私のイメージが!!父よー娘が問題児だと思われたら、どうしてくれる!


ちょっぴり怒り気味な私だが、私はきっと父を許してしまう。


前に注意した時、段ボールに入った捨てられた子犬の瞳に垂れ下がった耳が見えるような父の姿にほだされて許した記憶は遠くない。


あれはいいっ!めっちゃカワユイ!!ワンコ父最高!!

あの姿が見たいが為にお説教すると言っても過言ではない。


許したあとの上目使いで尻尾を振る姿がまたイイッ!!悩殺ものだよ。あれは。


そんな確定した先を予測しながら、微笑を浮かべ理事長室へ向かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ