ズボンはパンツ。パンツは?
服、服、ふく~♪何かいいのないかなぁ?
自室にてウォークインクローゼット内を行ったり来たりしながら鏡に向かって服を合わせるが、何かこれじゃない感が凄まじい。
「ない、ないわ、これ……」
避暑に軽井沢にある別荘を訪れたお嬢さんをコンセプトにした様な上品な白のレースボレロ付きワンピースに結婚式で着る様なこれまた上品でありながらシックな黒のノースリーブフリルリボンベルト付きワンピース。ベルト?ワンピースにベルト?そして何故こんな物が?と疑問だらけになったアリス服にロングとミニの二種類あるメイド服等々。
「うん。無難なワンピよりズボンだな」
ワンピースはスルーしよう。
ワンピなら一枚でOKで特に流行りなんてないだろと思ってたが………うん、ないわ。
USOだし、やっぱり動きやすいズボンだな。
「なんじゃこりゃあ?」
ズボン?いや、これウエストより上にくるけど………うおっ!こっちは裾がスカートみたいに広がってるわ。何これ?ズボンがピッタンパッツパッツやで!
これに何を合わせろと?
「今時の子の服はわからんわ」
ジーパンとかジーパンとかジーパンとかないの?もしくはゴムパン。
無難な服がない。
いや、あるのだろうが私には服をコーディネイトするセンスがない。どーすっかなぁ。
「可世?」
悩んだ時の天の助け!ドアのノック音がまさに祝福の鐘の音!
父をすかさず自室に招き入れてウォークインクローゼットへ。
「服が決められなくて」
「ああ、校外学習の………確かにワンピースだと何かと危ないしね」
危ない?いやいや、ここのワンピ着たら周囲から浮くからね。あっ、危ない人だと思われるっつう事っすか?そんなワンピをオーダーメイドで注文したのはお主だろ。
「ああ、パンツならまだワンピースより危険は減少するかな。でもハイウエストだと可世のくびれに変態が群がるし、ワイドパンツだと裾の揺れに害虫がわきそうだね。スキニーは駄目。そんな下半身の形がまるわかりのはパンツは私の前でしか穿いちゃ駄目だよ」
散らかったワンピとズボンを見て父がダメ出しする中、私は思った。
今の人ってズボンのことパンツって言うんだったぁぁぁああ!!!!
じゃあ、ズボンがパンツならパンツは!?パンティーなの!?…………さすがに父には聞けんわ。
つかズボンにそんなに片仮名の名前があるんかい!ズボンはズボンだろ!?
「デザイナーを呼ぼうか」
「呼ばんでいいです」
安易に作るの駄目、絶対。
何故、買いに行くではなく呼んで作らせる。
いや、こんなに服があるのに買いに行くのもどうかと思うよ!
「たまには買いに行くのも楽しいよ!」
ジーパン欲しい。ジーパン欲しい。ジーパン欲しい。
そしてパンツの表示がパンティーか確かめたい。
「でも既製品だから可世の肌に合わないよ」
「敏感肌じゃないから大丈夫!」
既製品大歓迎!大量生産万歳!
「うーん。でも…」
「お父さんと一緒に買い物行きたいなぁ………なんて」
「うん、行こう」
ふっ、チョロイぜ。
これも全てパンティーの為、あ、いやジーパンの為、あざとい娘を許しておくれ。
そしてやってきました。
いざ、ショッピングタイ~ム♪
マネキンが服着てます!ハンガーに服がかかってます!ラックに服がたたんであります!
服屋だぁ♪
父がソファに優雅に座っております!ウェルカムドリンクの入ったシャンパングラスを持っております!傍らには支配人みたいな男性がテーブルにファッション雑誌をひろげて今年の流行りを説明しております!
服屋ぁぁああ!?
なんとなく予感はあったさ。
でもさ、でもさ、それを見ないふりして淡い期待を持ったていいじゃないか!
「お嬢様、そちらをご試着なさいますか?」
そして私の傍らには女性店員さん。
現実逃避していた私が持ってたのはパステルカラーの袖無しセーター。
こんな寒いんだか暖かいかも分からん服いらんわ。
ジーパン!私が求めてるのはジーパン!
「いえ、あっ!」
この材質はまさにジーパンって、家にあったパッツンパッツンやんけ!父がダメ出ししたからこれはなしだな。
この辺りがジーパン系コーナーなら私が求める普通の作業系ジーパンもあるはず!やっと光明が見えてきたよ!
「あっ、これ!」
ゴムだ!ジーパンだけどウエストゴムだよ!
脹ら脛が少し見えるぐらいに丈が短いけどパッツンパッツンじゃなくて普通のジーパンよりかなりゆとりがあって穿きやすそうじゃないか!おおっ!しかも何やらジーパン特有のかたさやゴワゴワ感がなくて柔らかく伸びる感じがするぞ。
もうこれで決まりやろ!
「そちらでしたらお色がブラック、インディゴ、ブルー、ホワイトがありますが」
黒、青、白は判るがインディゴとは何奴だ?
私なら断然合わせやすさ一番の黒一択だが………しかしインディゴとやらの本性が気になる。
ここは奴の本性を暴かなくては女が廃る!
「インディゴにします」
そう返事をすると店員さんがインディゴとやらを持って来たが…………なんやただの濃い青やんけ。大層な名前がついとるな、インディゴや。
うん。何かもう選ぶの面倒になってきたわ。
もういいや。考えるのやめた。
「あそこのマネキンが着ている上着あるかな?」
マネキンの上着を強奪することにしました。
マネキンの着てる服=店のお勧めコーディネイトだから安心だ。
ジーパンなら上は何でも合うでしょ。
ちなみにマネキンが着てるのは黒白チェックセータです。オバチャン今まで上着はINするのはダサイと思ってましたがマネキン様はスカートにINしてます。だから私もズボンにINします。マネキン様は最先端を先取りする出来る子なのでオバチャンもそれにならいます。
「こちらになります。お色はどうなさいますか?」
もうインディゴは判ったので
「そのままで大丈夫です」
「ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべ満足そうに礼を述べる店員。
そりゃアレの値段一つでっん万円でしたからね。服の値段なんて怖くて見れんがたぶん、きっと、絶対、っん十万はするんだから店員も大満足な消費者だろうよ。
私も思いがけずとも、カゴはないが値札を見ないで金持ちみたいに買い物出来ましたよ。
「ああ、此方は当店からのサービスになります」
サービスで渡されたのは私がこの店に来て、すぐさま表示と共に値札を見てしまったアレであり、アレ以降に値札を見ることが恐ろしくなってしまった品。
生まれはイタリア、素材はシルク、その名はショーツ。