楽園への道筋(西城要side)
ホームルームで御崎先生から校外学習の話を聞きながら先程、隣席の女子生徒と言う名の信者との話を思い出す。
御守りの持ち主はどうやらこの学校では教祖様のごとく敬愛されていることは分かった。
あとはどう接触するかだけど周囲のガードが固すぎる。ただお礼を言うだけなのにな。
「今年の一年の校外学習先はUSOに…」
「ええっ!?なんで!?だってゲームじゃ夢の国だったのに………」
美空が御崎先生の話を遮り大声をあげながら立ち上がった。
話を聞いてなかったのか、こいつ?
さっき御崎先生が話してただろ。
と言うか見掛けたことないのか?あの夢国ファンですと言わんばかりの格好で廊下をスキップしながら夢国ソングを歌っていた某教師を。あれで世界に認めらた名誉ある賞を受賞した人だ。それで受賞式を欠席した人でもある。
確か受賞式の日はちょうど夢国20周年記念日だったような……………………………あ、やばい。これやばい。考えないでいいことを考えてしまった。忘れよう。
それよりゲーム?
宝林学園はいつからゲームに?パソコン部が開発したのはスマホのアプリだったし、あれにゲームもあったか?
「美空さん質問があるようでしたらまずは挙手して下さい。それと何故USOに変更になったかは最初に話しましたが、聞いていましたか?」
「えっ!あっ、あの、ごめんなさい………怒らないでぇ……」
それは聞いてたのか聞いてなかったのかどっちだ?しかも謝りながら怒るなとは御崎先生が何時怒ったんだよ。ただ当たり前のことを注意しただけだろ。
そんなやり取りを冷めた目で見ながら僕は愛しの妹、聖愛に何の土産を買うか考えるのに勤しんだ。
聖愛と一緒に行きたいがさすがに校外学習に妹連れで参加出来ないことは理解している。だからこそ事前調査出来る。聖愛が行きたいと言った時、スムーズに案内出来る様になる為の予行演習だと思えば校外学習も熱が入る。
聖愛は確かあの黄色い生き物が好きだったな、いや魔女っ子杖も捨てがたい。でもあの杖は可愛くないし、そう言えばクッキー大好き青怪物がいつも食べているクッキーが美味しそうと言ってたな。
「要!蜘蛛人間のアトラクション乗ろうぜ!」
「僕はあの名作である魔法アトラクションは外せませんね」
もう全部買うか。
「黄色と魔法杖と青怪物クッキーだな」
「「は?」」
「なんだ?居たのか。どうかしたか?」
僕の友達である叶玲二と藤堂雅樹がいつの間にか机を取り囲んでいた。
ちなみに玲二は水泳馬鹿で雅樹は優等生眼鏡だ。二人の性格は対称的で合わなそうだがそんな二人には共通点がありそれもあって仲が良い。
「お前また妹のこと考えて話聞いてなかったろ」
「一緒に行動しませんか?というお誘いです」
いつも二人と行動しているからそれが当たり前の様に感じていたので勿論答えは是しかない。
そんな友人達にほっこりしていると、あの頭に痛みが響くような声がした。
「せぇんせ♪姫歌と一緒に行こっ」
「私は他の先生方と巡回がありますので……」
友達と一緒に行動しては?とは御崎先生も言えずに言い淀むしか出来ずに困っている。
美空は女子のみならず男子までにも嫌われて友達がいないからな。
そんな御崎先生の表情を見て何を思ったのか美空は爆弾を投げつけた。
「ううん!皆が悪いんじゃないの!姫歌がきっと何か気に触ることをしちゃったんだよ……仲直りしたいけど何が悪かったか分からないで謝っても失礼だし……斎先生は気にしないで!姫歌は大丈夫だよ!でも、ありがとうございます。心配してくれて…………姫歌、嬉しいなぁ」
ない。
普通にない。
ここは教室でホームルーム中。勿論クラス全員出席している。相談室ならまだしも、何故、ここで、それを言うか理解出来ない。
今の言葉でクラス全員の怒り状態に陥った。楽しい校外学習の話題から急降下で不快指数をぶっちぎりやがった。
「誰も心配なんてしてねぇよ」
「頭が心配ではありますがね」
二人の共通点と言うか、僕達三人の共通点はその美空姫歌による被害者である。
僕達三人は美空姫歌からストーカーされた時がある、なんとも悲しい共通点。
そして現在進行中でもある。
「要、玲二、雅樹~」
御崎先生を諦めて名前を呼びながらパタパタと向かってくる美空。
「ウゲッ!」
「来るとは思った」
「想定内ではありますが」
「ねぇ三人は一緒に行くの?いいなぁ~姫歌一人だから寂しくて………あっ!そういえば要は妹ちゃんにお土産買うんでしょ?女の子だもん私も選ぶの手伝ってあげるよ♪うーと確か……一番…k…感度が高いのは……ぬいぐるみだったかなぁ」
「余計なお世話だよ」
「むぅ!私が選んだやつが正解なんだよ。妹ちゃんも私が選んだ方のを喜ぶんだかr」
ガタンッ!
僕は椅子から立ち上がると美空を睨み付けた。
誰が喜ぶだって?
聖愛は僕があげればくだらない物でも喜んでくれる良い子なんだよ。正解?僕が選べばね。
見ず知らずの美空が選んだ物を聖愛が喜ぶだなんて、妄想といえ聖愛が汚されたように感じてとても不愉快だった。
「正解なら僕はこんなに不愉快ならない。先生、気分が悪いので保健室に行きます。ここに居たら暴力沙汰になりそうなので………じゃあね」
御崎先生の返答を待たずに玲二と雅樹だけに手を振り教室を出た。
廊下に出たものの保健室へ行く気はしない。後で利用履歴を調べられ注意されようと機嫌が悪いだけであって体調には何ら問題もないのに行くのは迷惑にしかならないし、かといって相談室に行って先程の事を相談と言う名の愚痴を吐き出す場にするのも迷惑だし、そもそも美空の事など考えたくもない。このままホームルーム中に帰るのもな………ああ、図書室にでも行くか。
図書室に着くと当たり前だが誰も居ない。ガランとした中、大量の本が圧迫感を与えてくるが本好きには堪らない光景だろう。
僕は新書コーナーから芸人が執筆して賞を受賞して話題になった本を取ると一番日当たりが良い席に座り読むことにした。
熱中すると聖愛の迎え時間に遅れるのでスマホでアラームをセットするのも忘れない。勿論図書室なのでバイブのみ状態だ。
それからホームルーム終了のチャイムが鳴ったのも気付かないで黙々と読んだ。
けして馬鹿にしていた訳ではないが所詮は素人作品だと、話題になったからと流し読み程度で考えていたが読み始めたら面白いと言うか、読んだら止まらなくなる文章力にこの人本当に芸人でいいのか?と思いつつもページを捲る手も文字を追い掛ける目も止まらなかった。
だから気付かなかった。
目の前に誰か座ったことに
最初に感じたのは匂い。
香水みたいな強い香りじゃなく仄かに香る優しい香り。図書室の本独特の匂いの中それは一際いい匂いだった。
何の匂いだろうか?花?石鹸?柑橘類か?鼻が自然とひくひくと匂いを吸いとる。
「……………」
本から顔を上げた僕は言葉も無くただ呆然とした。
目の前には女神が居た。
制服を着ているし同じ学校の生徒なのは判る。でも違う。だって、綺麗だ………。
日の光を浴びて輝く黒髪は女子が言っていた天使の輪がある。天使の輪なんて光の加減だと思っていた。でも、ああ、本当だ。黒髪に白銀の輪輝く様は正に天使の輪だ。
テーブルに開かれたままの本を見ずに窓の外を見つめる瞳は何処か遠くを、まるで界を別けた下界の様子を見守るような慈悲深い眼差し。
同じ空間、同じテーブル、匂いを感じるくらい近い距離に居るはずなのに彼女が遠くに感じる。
本当に存在しているのか?夢か?現実か?確かめる為だけに声をあげたら女神が消えてしまいそうで、でもそこに居る、存在する。ずっと見ていたい。でも畏れ多くて視線を自然と離しては、消えていないかと不安になっては抗いきれずに視線を向けることを繰り返す。
一目で天使と判るだって?冗談じゃない。女神の間違いだろ。じゃあ何か、僕の持ってる御守りって神器だったのか?えっ、ちょっ、それっていいの?貰う気満々だったけどそれって良くないよな。でも天使の贈り物だし、でも相手は女神だし………
「何か?」
不躾な視線を送りながら悶々としていた僕は混乱していた。二度言うが、混乱しまくっていたんだ。
「えっ!えっと、あの、その……これ、何ですが……これ、桜木さんのだよn、ですよね?」
危うくタメ口なりそうになりながら緊張で震えた手で御守りをテーブルの上に出す。
「あの、妹が、御守りに桜木さんの名前があって、それで泣いて、夜に貰って……ごめん、ちょっと、自分でも何言ってるのか……」
当初は妹の件での礼と御守りをこのまま貰ってもいいか尋ねるだけのつもりが、余りの緊張状態に時系列順にあやふやな説明を始め、途中で何が何だか分からぬなった自分に恥ずかしくなり両手で顔を隠して俯くしか出来なかった。
マジで、本当にないっ!
「同姓同名ですが私のではないよ」
えっ?だって、そんなはずない。
他に天使以上の存在なんて目の前の女神以外に存在するはずがない。それに信者がこの御守りは一点物で女神が所持していたことも今は所持していないことも確認済みだ。
「でも、セーラ、妹が貰ったって……」
「ならそれは妹さんのでしょ」
「妹は僕にって…」
「じゃあそれは貴方の物だよね」
どうして彼女はけして自分のではないと頑なに否定するのか?そこで僕はふと思い付く。もし彼女がそれを肯定したら?
隣席の信者の言葉を思い出す。
『奪われる前に隠せ!神棚に供えられる前にはよう隠せ!そして妹ちゃんの健気な心意気をかって黙っている私にお前は感謝して妹ちゃんの写メを進呈しろ!』
何言ってんだ、こいつ?と思ったが確かに、確かにこの女神の持ち物であれば強制的に神棚に輸送されるのも頷ける。僕が当事者でなかったら僕だって共感するし実行する。それをしなかった信者に感謝するがセーラの写メはやらない。やらないが、僕の天使コレクションの秘蔵写真を見せてやらないこともない。
「………いいん、ですか?」
「どうぞ」
ああ、やっぱりそうだ。
僕を気遣って返させないように、妹の気持ちを思いやってくれたんだ。
「あっありがとう、ございます」
女神は暖かい視線を僕に向けるとまた、窓の外へと視線を向けるが不安は感じなかった。
スマホのアラームバイブが振動し聖愛の迎えの時刻を告げたので女神の邪魔にならないよう静かに席を立ち図書室を出た。
今日のことをセーラに報告しよう。出来ればセーラにも会わせてあげたい。
いいっ!最強じゃないか!天使と女神のコラボなんてっ!!
そうだ雅樹と玲二に報告もしよう。そして今まで二人の共通点は今度は僕を入れて三人の共通点になることを。そして天使会、改め女神会に改名しないか打診しよう。