隣に座りたかったですね(副担任side)
あの馬鹿の尻拭いの為だけに副担任に任命された時はこの世の全てが信じられずに憎しみが募るばかりでした。
でした、そう全ては過去の事です。
今ではあの馬鹿に感謝しないでもな…………いえ、彼奴に感謝はないですね。感謝する相手は奴ではない。
ああ、今日も美しい。
教壇から見下ろすのは不敬ではありますが、彼女の眼差しを承れるこの立場は実にいい。
窓からの日差しを浴びてよりいっそう輝く黒髪、黒曜石の様なその瞳に写るのは今は私だけです。その他同様の日本人らしい容姿なのに彼女だけそれと異なるのは内面の美しさが滲み出ている証拠です。
一日中見惚れていたいですが彼女以外の視線が煩わしいですね。
未だに彼女と視線を合わせて会話らしい会話が出来ない餓鬼共の嫉妬は見苦しいですが仕方がありません。ここで何もせず終われば批判されるだけですし、何より彼女に失望されたくはありませんしね。
「来月の校外学習ですがUSOに決まりました」
「あれ?先生、今年の1年の校外学習は夢の国じゃありませんでした?」
年間行事には夢の国と記載されてましたし当然の疑問ですね。
「私、夢の国よりUSOのが好きですから」
夢の国が嫌いな訳ではありません。あの馬鹿と夢の国に行きたくないだけです。他の教員達にも許可は貰っています。あの馬鹿以外のですが。
「ああ、だから居ないんですね」
「「「「「「「ああ~」」」」」」」
生徒一同納得なようで何よりです。
おや、彼女は知らないようですね。目をパチリとして驚く姿も麗しく愛らしいですね。まさに無垢な天使とは彼女を指し示す言葉です。
あの馬鹿も天使の前ではあんな姿を見せなかったのですね。頭の中まで夢で覆われていればいいものを……いえ、彼女の父である理事長の顔にネズミキャラのペイントを施そうと躍起になって保健室送りにされるくらいには夢の中の住人ですが彼女にはその片鱗さえ見せないとはなんと小賢しい正にネズミのような男でしょうか。
「行く前から校内でキャラTシャツに耳と手袋とポップコーン容器を身に付けてはしゃぎ回っていた中年ならボイコットしましたよ」
まぁ、バラしますがね。
理事長の件を天使に伝えなかっただけありがたいと思って貰いたいものです。
「そんなことより校外学習について説明します。先程も言いましたが行き先はUSOです。貸し切りではありませんが各自優待パスを発行しますのでほぼ並ばずにアトラクションを楽しめます。集合時間にさえ厳守して頂ければ後は自由行動です。何か質問はありますか?」
誰も手を挙げませんし、特に質問はないみたいですね。
ああ、そうです。彼女だけはあの馬鹿を気に掛けて居る様子でしたね。慈悲深い彼女の記憶に残るとはなんて忌々しいのでしょうか。
「ちなみに夢の国年間フリーパス所持の中年は一応アレでも教師で担任なので連行します。安心して下さい、USO内巡回中は私とアレは同僚でなく他人ですから」
アレが担任なのは非情に残念ではありますが副担任に成れたので良しとしましょう。今のうちにあの馬鹿を担任の座から引きずり下ろして私が彼女の専属担任に成れるように謀らなければなりませんしね。
いけません、考えただけで自然と笑みが浮かびます。
「では後の時間は自習にします。各自教室から出なければ好きにしていいですよ」
私の言葉に席を立って話し合う生徒達。
騒がしいですがあの馬鹿のはしゃぎ様に比べれば可愛いものです。
「い、伊集院さん!い、い、いっ一緒にまわりませんか!?」
「おいっ、俺が先に誘おうかと思ったのに!伊集院、俺と行こうぜ」
「男は引っ込んでなさいよ!」
「そうよ!伊集院さん、女子グールプのが安心だし楽しいよ」
「真中、これ面白そうじゃね?」
「それよりこっちだって!」
「ちょっと!なんであんた達が一緒に行こうとしてるのよ」
「もう、私達が先に声掛けたのに!」
やはりあの二人に集中しましたか。
どちらか誘えればもれなく彼女も来ますからね。考えることは皆一緒です。
ですが女子三人。特に彼女は別格ですが、ああいう場所は馬鹿が少なくても確実に居ますからね。ここは教師である自分が巡回しながら随時天使を守らなければなりませんね。
決意を胸に刻むと同時に聞き逃せない澄んだ声が教室に響き渡りました。
「あ、あの!」
「「「「「「「はいっ!」」」」」」」
躊躇いがちな声に一斉に返事を返すと天使から思ってもみなかった願い事が。
「一緒にアトラクションまわってくれる?」
「「「「「「「喜んで!!!!!」」」」」」」
返答など一択しかありません。
そこからは怒涛の展開でした。
全員で乗れるアトラクションをガイドブックを見ながら決めていきますがクラス全員が一度に参加出来るのは人造人間3Dくらいしかありません。
なので全員で乗れないアトラクションはじゃん拳で決めました。
何をですって?勿論、誰がどのアトラクションを彼女と乗るかですよ。
天使の両隣は伊集院と真中で確定されましたがね。彼女が二人以外に誰か座らないかと声を掛けて下さったにも関わらず緊張し過ぎて気絶するからと理由を言う事なく首を振るのが精一杯で昇天する生徒達。おかげで私まで弾かれましたよ。私は気絶しようと吐血しようが一生に一度あるかないかの好機を逃したくありませんでしたのに……ほんと意気地のない餓鬼共ですね。しかし熾烈な争いの末、目玉の魔法使いアトラクションの席をもぎ取りました。
は?巡回?私は生徒達の引率ですが、何か?