懐かしの味(クラスメイトside)
ふふ~ん♪
俺は早起きして、廊下を鼻唄&スキップしながら歩いていた。
咎める者はいない。
だって朝のホームルーム開始一時間前に教室に行く物好きな奴など居るはずないのだからな。
「おっかし~♪お菓子~♪天使様の御菓子~手作り~御菓子は~あま~い甘い、天へと昇る味~」
作詞作曲、俺の美声が誰も居ない廊下に響く。
「イエーイッ!俺一番乗r………はぁあっ!?」
教室の扉を開けると、そこにはほぼ、いや天使様以外のクラスメイト諸君が全員勢揃いしていた。
「おっ?遅かったな」
「ビリだよ。ビリ」
「ダッセー」
朝の挨拶なく友人が俺が最後だと告げる。
「な・ん・で、お前らが先に居るんだよ!?」
俺、警備員が門開けると同時に校舎に入ったんだぞ!
なのに、何故、お前らが先に居る?
「何でって、なぁ?」
「そりぁあ、なぁ?」
「ビリなのに一番乗りって(笑)」
最後の引っ張るな!
そして俺の疑問に答えろやっ!
えっ、何?ピッキングしたの?
犯罪?ねぇ、ついにやちゃったの?
「お前等、とうとう…………」
「言っとくけど、不法侵入はしてないぞ」
「さすがに学生の身で宝林の警備システム侵入は無理だからな」
「せいぜい先生を脅s、説得するぐらいしかしてないよ」
何やってるの!不法侵入はって、何だよ!?はって!?
しかも学生じゃなかったら侵入したの!?プロでも解除が難しいって言われる警備システムに!?
そして最後っ!お前のそれは脅迫だ!犯罪だ!!
「よく先生が納得したな(脅迫されて)」
「ほら、あれだよ。アレ、朝練」
「このクラスに運動部は居ないのに?」
「華道部は花が命、鮮度重視だからな」
「俺も、華道部なんですけど~そんな連絡なかったんですけど!」
「連絡ミス、ドンマイ」
「連絡簿、俺の前の奴がそれを言うな!」
そんな事をぐだぐだと言い合っていたら、天使様が登場された。
一斉に窓に張り付く俺等は端から見たら気持ち悪いだろうが、当事者達は懸命に窓の取り合いをしていて気付かない。
ちなみに俺はあとから運動部の友達に気持ち悪かったと言われた。
「重箱?」
「まさかの和菓子!!」
「それより天使様が神々しい!そして初々しい!!」
「グハァッ!!」
天使様は不安そうに俯き重箱を大切そうに胸へと抱え直すと、俺等が待つクラスへと歩みを早めた。
天使様に対して失礼だが、その姿はまるで手作り菓子を好きな人に早く食べて欲しい、でも美味しいと言ってもらえるか不安な様子が初々しい。
俺は胸を撃ち抜く天使様の可愛らしさに胸を撃ち抜かれ吐血するかと思った。
ドキドキじゃない、もう胸をドッキンドッキンさせながら暫し待つと、天使様が教室へと参られた。
「おはよう」
「おはようございます」
「おは」
伊集院、真中。お前等スゲーよ。もうマジ尊敬する。
俺は、俺達は胸が痛すぎて言葉も出ねぇよ。
「………皆、早いね」
いえ、俺が一番遅かったです。
そしてこいつ等は俺よりもっと前に居ました。
「今日は特に、皆さん早かったみたいですね」
「ん、欲望に忠実」
ホントになっ!
そして伊集院、真中!お前等がそれを言うなっ!!
「それより、お菓子」
「そうですね。そのようなことよりお菓子ですね」
欲望に忠実なのはお前等もだろぉぉぉおお!!
俺はお前達の笑顔に騙されないからな!
天使様の笑顔を見習え!!あの無垢で慈悲深い微笑みを!!!
「では、どうぞ召し上がれ。朝から重いかもしれないけど、小さめに作ったから一個くらいなら平気かな?甘いのが苦手ならこっちのレアチーズケーキをどうぞ」
重箱の中身は小さなどら焼きとプチレアチーズケーキ。
えっ、これ手作り!?
プラスチックに包まれたどら焼きと違い、重箱にそのまま整然と並べられたどら焼きの隙間から朱が映え、高級料亭のおみやの様だし、レアチーズケーキは一口サイズでこらもまた白色に朱が映え、和の重箱に洋菓子が斬新であるのに何処か上品な佇まい。
「凄い」
「美味しそうです」
不味いわけがない。
「私としてはレアチーズケーキがお薦めかな。何しろ私の失敗したクッキーを土台にしてお父さんが作ったから」
((((((天使と悪魔のコラボ、だとっ!!!!!))))))
全員の心の声が一つになった瞬間であった。
いやいや、それも驚きだが、失敗?天使様が?
どこがどう失敗?
こんな神々しい御菓子が失敗?
えっ、悪m、理事長が失敗ではなく?いや、理事長も失敗なんて言葉はないけど天使様よりは、ねぇ?
「失敗ですか?」
「失敗?」
「うん、失敗。どら焼きみたいに上手くいかなくて」
「どら焼き、高難度」
「そうですね。皮も餡も難しいと思いますが」
「そんなことないと思うけど?クッキーより目分量判るし簡単だったよ」
いやいやいや、クッキーより難しいですから。
しかもどら焼きが目分量で作れるって、天使様は天使であり和菓子職人だったんだな。
和菓子の得意な大和撫子と天使のコラボ!イイッ!実にイイッ!!
そんな内心絶叫の中、真っ先にどら焼きを食べる伊集院と真中。
やっぱりまずは【天使と悪魔のプチレアチーズケーキ】より【大和撫子な天使のどら焼き】だよな。
「美味しい」
「美味しいです」
「良かった」
「私はレアチーズケーキよりドラ焼きのが美味しかったです。勿論レアチーズケーキも大変美味しいのですが……何でしょう?懐かしい、心暖まる味に感じました」
「ん、私も」
二人の感想を聞き終えると、天使様が御菓子をくれた。
一口食べ、俺は泣いた。
全然違うのに、だってあれはおはぎで共通するのなんて餡ぐらいで、それだって天使様の生どら焼きの餡に比べたら雲泥の差がある。
なのに、亡くなったばあちゃんがよく作ってくれた味に似ていた。
いつも、いつも、ばあちゃんは祝いがある度におはぎを作ってくれた。飽きるほど食べて嫌気がさし、いらないと言ってもばあちゃんは祝いがある度に作ってくれた。俺はせっかく作ってくれたそれを食べないこともあった。
それがなくなった。
ばあちゃんが亡くなったから。
あの味がまた食べたくて母さんに作ってもらった。
でも違う。
母さんはばあちゃんのレシピ通り作ってくれたらしいが、違うんだ。
それから和菓子屋巡りをしたりしたがばあちゃんの味には出会えなかった。
最近では食べれないからこそ、思い出の味は美化されているとだけではないかと考え諦めていた。
なのに、懐かしい。
この味だ。
これが食べたかったんだ。
ばあちゃん、ごめん。ごめんよ。
こんなに後悔するとは思わなかった。
食べたかったら食べれるもんだと思ってた。
いつでも食べれると当たり前だと。
甘えてた。
我儘なガキだった。
贅沢な奴だった。
ばあちゃん。
せっかく作ってくれたのにいらないと言って、ごめん。食べなくて、ごめん。そして、ありがとう。
あんなに酷いことしたのに、それでも俺の祝い事には毎回来てくれた。おはぎを持って。
だからかな。
宝林に受かった俺にばあちゃんが天使様にお願いしたんじゃないかと思ってしまうのは。
だって、おはぎと生どら焼きじゃ全然違うのに、それなのに、ばあちゃんの味がしたんだ。
俺は泣きながら食べた。
次から次へと溢れ出る涙も鼻水も袖で拭ってはどら焼きを食べ続けた。
小さなどら焼きはすぐに食べ終わってしまったが、俺は十分満たされたのだった。
おまけ
「おや?懐かしいですね」
「可世の手作りだよ。本当はあげたくないけど仕方がないから巽にもあげるよ」
「可鈴さんがよく嫌々作っていましたね。どら焼き」
「パクッ…うん、美味しいね」
「パクッ……素朴で懐かしい味です。世流が作ると何故か上品で洗練された味になりますからね。そういえば………可鈴さんのどら焼きは確か当たr」
「パクッ!!!!うっ………………」
「!!まさか可世さんのどら焼きも………」
ロシアンどら焼きの当たりが出たの父でした。
そして可世は知りませんが母も生前同じことをしていました。
当たりは決まって世流が当たる。
そして可鈴曰く、自分より料理上手な男に作る料理はない。