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至福の時(とある隣の席の女子生徒side)

今日の天使様も素敵です。


窓から差し込む光が天使様を祝福されているかのように照らしています。


何もかも許容し、全てを受け入れ、数多の者に許す様で瞳を閉じる姿はまるで神の啓示を承ける聖女ようです。


教会の天井壁画を目にしたように自然と息を飲む光景が教室内に拡がります。


誰もが微動せずにただただ見つめる。

見つめることしか出来ない。


この空間に自分は居ていいのだろかと疑問に思っても思うだけで身体は動かない。

ここに居たいから。


このクラスに休み時間に動く者はいません。

天使様がここに居る限り。


この短い休み時間に早々と次の授業の準備を終わすのは少しでも長く、天使様を見ていたいが為です。


「可世、寝てる?」


真中さんが天使様の前で手をヒラヒラさせますが反応されません。


「御疲れなのかもしれません。私達は静かにしていましょう」

「んっ」


伊集院さんが天使様を起こさないように周囲に牽制するかのように諌めます。

天使様を見つめていた私達生徒全員が静かに首を縦に振り、それにYES と答えます。


普段は雑談せずにただただ天使様を見つめるだけで終わる休み時間ですが天使様がお休みをいいことに皆さん煩くならない程度に雑談と言う名の情報交換を行っています。


「編入生って何処のクラスになったんだ?」

(うちには来ないぜ)


「ほら、御崎先生の所に一人入ったらしいよ」

(美空姫歌の居るクラスだよ)


「男?女?」

(美男子なら餌食、美少女なら敵、普通なら無関心)


「うわぁ、そいつ可哀想ー」

(その編入生は餌食確定)


皆さんの会話には裏があります。

雑談には人の悪口が付き物です。

ですが天使様のお耳を汚すような愚かな真似はいたしません。


「ねぇ聞いた?三年生が蛙に触って熱だしたらしいよ」

(当然天使様への接触禁止ね)


「知ってるー先生が飼ってる蛙でしょう。私も友達から聞いたけど、その先輩それで補習になったんでしょう」

(生物学教師要注意ね。解剖学の希望を提出するわ)


当たり前ですが天使様の害になるモノは全て排除します。


「補習って転ぶロボットを立たせては起こす作業らしいぜ」

(天使様にやらせたら即その教師を解体する)


「何だよそれ、何処情報?」

(未然に察知したら即実行を許可する)


クラス一同団結して天使様をお守りするのは義務です。


「一年にも補習になった奴いるらしいぜ」

(数名確認済み)


「どうせ水泳馬鹿だろ」

(叶は確実)


「彼奴もだけど何と全教科赤点者が居たんだよ」

(美空姫歌)


「マジか?」

(叶だって二つだけだったのにか!)


「マジだ。叶がアレと一緒に補習するのかと嘆いてた。んで次からは藤堂に勉強教わるんだと」

(情報源は叶。美空姫歌が自己申告してきたんだと)


「でも流石に全教科はデマだろ」

(ただの馬鹿か、叶に狙いを定めて補習を狙ったかのか調べるわ)


噂を真に受けるのは愚の骨頂ですが、そもそも噂とは何かしら注目される点があるから噂になるものです。

しかし今されているのは雑談に隠された裏情報は噂ではなく事実。


美空姫歌は私達の中では要注意人物にあげられています。

何故ならアレが好んで接触する人物全てが天使様に好意を持っているからです。


女性は嫉妬深い。

それは万国共通でしょうが、そこに天使様は当てはまりません。

人間風情が天使様と同類などと烏滸がましいです。


真中さんと伊集院さんには嫉妬しますが天使様は嫉妬はしません。


ですがアレはするでしょう。

今は天使様と接触する機会を悉く潰していますし、アレが好意を寄せる男性達には天使様に接触しないように警告はしてあります。


キーン…コーン…カーン…コーン……


チャイムと同時に先生が見られました。


「あら………今日は号令はしなくていいわ。皆さんは静かに授業を受けるようにね。一つでも物音をたてたら減点にします」


先生は瞳を閉じる天使様をうっとりと見つめると起こすどころか起こす行為をしたら強制減点勧告されました。

当然です。


「………………」(コクリ)


皆さん『はい』とは言わず頷くだけにとどまります。

今日ほど静かな授業は今後ないと断言出来るほどの静まりようでした。


「うっ………」


授業中、天使様の苦しそうな声が響きました。

顔を上げ苦しそうな息づかいで拳を握りしめます。ですがけして瞳を開けません。

痛みを堪えるしぐさに私達は起こそうか迷いました。


「負け……な…い」


その姿は戦乙女のように大いなる敵を前にしてもけして諦めず立ち向かっていくかのようでした。


神の啓示、天恵、神託などの言葉があります。

あのように苦しませる神など神ではありません。

ですが、それでも、どんなに苦しそうでも天使様は立ち向かうのでしょう。

私達は見守ることしか出来ませんでした。それが不甲斐なく感じます。

幸いにも天使様は最後には微笑まれていたのが救いでした。











キーン…コーン…カーン…コーン……


チャイムが鳴り先生が退出すると天使様が覚醒されました。


「可世、おは?」

「Good morning.」


天使様は極上の笑顔を浮かべると真中さんの額へと祝福するかのように接吻されました。

真中さんが小柄なこともあり、まるで子供をあやすかのような優しい手つきは聖母様のようです。


一連の動作一つで皆さん声もなくただただ次の祝福を待つ信者のように茫然と微動だにしません。


「あっ、ごめんなさい!寝惚けてて……その、習慣で……」


天使様は慌てて真中さんに謝罪しました。

習慣ですって!?

何ですか、それはっ!

理事長、何て羨ましいことを!!

はぁ、もしあそこに居たのが真中さんではなく私でしたら…………………気絶します。


「御疲れのご様子でしたから無理ありません」


伊集院さんの言う通りお疲れなのでしょう。

少しでも疲れがとれていれば良いのですが。次の授業もお休みになった方がよろしいのに。

放送室のチャイム装置をオフにするべきでした。


「ところで授業はぁ………」


「終わった」

「終わりました」


ご自身がお疲れですのに授業など心配されなくとも、天使様はもっと御自愛するべきです。


「先生、怒ってなかった?」


「それは、ない」

「とんでもありません」


天使様を怒る輩など居ません。

存在したらその者は悪魔です。


「え"っ?」


「先生、『静かに授業を受けるようにね』って」

「いつも煩いわけではありませんが、いつも以上に静かでした」


神託を授かりような佇まいの天使様を邪魔する者は教師であっても妨げる行為は赦されません。


「………厳しいね」


「「当然」です」


当然の配慮です。


「先生にはお昼休み時間に謝罪するとして、紗智ちゃんのノート見せて貰っていい?馨子さんには授業内容の説明をお願い出来ますか?」


「「勿論」です」


申し訳なさそうに頼む天使様ですが真中さんや伊集院さんでなくとも全員が全員、天使様にお願いごとを申し使ったら『喜んでっ!』と居酒屋の店員なみにいくらでも笑顔で従いますのに。


その後、天使様が先生に謝罪されに行かれましたが何故でしょう?

天使様は誰にも迷惑などかけてませんのに。











ちなみ私事ではありますが、天使様に拾って頂いたシャーペンは家宝として厳重に保管しております。

保管するにあたって天使様の指紋が損なわれぬようにプラスチック手袋と滅菌済み容器を生物室から強奪しました。

そこはハンカチだろと仰る方も居るかもしれませんが、ハンカチは菌の温床です。そのような物で包むなど言語道断。


あの時は皆さんが私に倣いシャーペンを故意に落としましたが拾って頂けたのは私だけです。

ふふふっ、ざまぁ(笑)です。




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