黄金週間は睡眠学習
宝林学園にゴールデンウィークなんてない。
補講という名の授業があるのは当然ですな。
ちなみに土曜日も授業があります。
今日だって授業、明日も授業。
もう嫌だ…………。
県立高校が羨ましい。
今は休み時間なのですが誰一人として教室から出ません。
皆真面目に席に座って次の授業の準備しているよ。
それで良いのか学生諸君!もっと青春しなよ!
そんな心境の私は次の授業の準備もせずにだらけてます。
窓際席は春の陽気がポカポカで眠くなりますなぁ。
相変わらず理事長室からキラリと何かが光輝いていますがスルーします。何時ものことですからな。
ああ、首も瞼も重くて机に突っ伏して寝たい。
やらないけどね。
だって何か知らんがクラスの人達がチラチラ見てるからね。
何故だ?
最初は疑問に思って焦った。
鼻毛が見えてるの?
髪にアホ毛があるの?
歯に海苔でもついてたか?
手鏡なんて女子力の高い物は所持してないから窓を鏡代わりに見るがアホ毛はなかったよ。
さすがに鼻毛と海苔は確認出来なかったが、鼻の穴下を指先で触っても出てる感触はなかったし歯は口を閉じていれば問題ないさ。
制服に食べ滓もついてないし、スカートがパンツにINしてもない。
まぁ見える範囲はだがな。
何かあれば我が親友達が指摘してくれる事に期待する。
ああ、眠いしもういいや。考えるのも面倒になってきた。
背凭れに深く腰掛け目を瞑る。でなければコックリ、ガンッと顔面強打してしまう位には眠い。
そうやって微睡んでいると時ほど周囲の音が良く聴こえてくるがそれさえも子守唄に感じた。
「可世、寝てる?」
「御疲れなのかもしれません。私達は静かにしていましょう」
「んっ」
紗智ちゃんと馨子さんの声が近くで聞こえた。
二人とも優しいなぁ。ええ子や。
他にも耳を澄ませば音量低めの色んな声が聞こえてきた。
「編入生って何処のクラスになったんだ?」
「ほら、御崎先生の所に一人入ったらしいよ」
「男?女?」
「うわぁ、そいつ可哀想ー」
編入生は女子希望です。
手取り足取り教えてくれよう。
しかし可哀想?まぁ御崎先生はチクリ間で鬼だからな。
「ねぇ聞いた?三年生が蛙に触って熱だしたらしいよ」
「知ってるー先生が飼ってる蛙でしょう。私も友達から聞いたけど、その先輩それで補習になったんでしょう」
蛙くらいで熱をだすとは、柔な先輩だな。
食用蛙は鳥の笹身みたいな味で淡白だが旨いよ。
「補習って転ぶロボットを立たせては起こす作業らしいぜ」
「何だよそれ、何処情報?」
私はロボットより美少女フギュア派だ。
転んだアングルのパンチラは芸術だ。
「一年にも補習になった奴いるらしいぜ」
「どうせ水泳馬鹿だろ」
「彼奴もだけど何と全教科赤点者が居たんだよ」
「マジか?」
「マジだ。叶がアレと一緒に補習するのかと嘆いてた。んで次からは藤堂に勉強教わるんだと」
「でも流石に全教科はデマだろ」
水泳馬鹿?叶?なんか聞いたことあるような、ないような………うーん、思い出せない。まっいいか。
藤堂は眼鏡君で間違いない。だって眼鏡=ガリ勉だから合ってる、はず。
しかし全教科赤点か~
他人事でも笑えない。
私も何時仲間に成るかわからんしな。
出来ればその子には私が仲間に成るまで居て欲しい。
一人より二人のが強く生きられるしね。
しかし今日は皆よく会話が弾むね。
いつもはシャーペンを落とした音さえよく響く位には静か過ぎるのに。
ちなみに落としたのは私の隣の席の方です。
私の足元に転がって来たから拾って渡したら、顔を真っ赤にして鯉みたいにパクパクしてました。
おっ、これが恋の始まりですか、鯉だけに。
脳内の寒い親父ギャクが周囲に伝わってしまったのかクラスが一丸となってシャーペンを故意に落としました。
鯉が恋に故意に落とされた。
我ながら良いギャグが出来た。親父受け確実だなと現実逃避しました。
これってイジメですか?
拾えってーの?
さすがに拾いませんでしたよ。
そして隣の席の方は何故にシャーペンを借りた?私、拾って返したよね。
そんな『お父さんの服と一緒に洗濯しないで』と言う思春期の潔癖女子と同じ行為をされた父の心境と重なり切なかった。
いつもと違う周囲の状況に切ない記憶を思い出してしまった。
いいな、楽しそうだな。
私も井戸端会議したい。
でも眠い。
そうだ、次の授業の準備しな…い………と………Zzz 。
キーン…コーン…カーン…コーン………。
「っ!?」
チャイムだと!!寝てたよ!!
夢まで見てましたよ。
絶対に魘されてた。
寝言ならまだいいが叫んでないか、私?
夢の中で怪獣と銃撃戦闘して勝利の雄叫びをあげてましたよ。
いや~倒すの大変だった。
次見たら逃げよう。
何で戦いを選んだんだ?
しかも最初は銃撃してたのに最終的には格闘で最後を仕留めてたし、銃は何処へいった?
寝起きなのに半端ない疲労感だよ。
でも授業が始まる前で良かった!
今何時かな?
教室の壁に掛かった時計を見てみたら……………………あ、アレ?おかしいなぁ。
時計の針がかなり進んでる。
5分、10分でない位進んでます。
…………壊れたんだよね。もしくは電池切れだ……は、ねぇな。
何故ならここの時計は電波時計だから。
「可世、おは?」
寝起きに美少女天使を見られて私の心は急上昇。
「Good morning.」
だから自然とやっちまった。
紗智ちゃんの頬に手で撫でるように触りながら額にキスをしてしまった。
今なら父が額にキスしてM y sweet angel.で挨拶する気持ちが理解出来るよ。
これは紳士としての義務だ!紗智ちゃんを挨拶されて放置するなど紳士の沽券に拘わる。
慣れって恐ろしいね。
紗智ちゃんは硬直した。
ついでにクラス中も硬直した。
私も笑顔のまま硬直した。
………………………………。
「あっ、ごめんなさい!寝惚けてて……その、習慣で……」
けして疚しい気持ちはないよ。
体が勝手に動いたんだよ。
断じて私は変態ではない。
紗智ちゃんのプニプニ頬っぺにデレデレになんてなってないからね!
「御疲れのご様子でしたから無理ありません」
馨子さん心配そうに気遣うが疲れは疲れでも私のこれは寝疲れです。夢見が悪すぎたのと寝る体勢が悪かったせいだよ。あとは陽気が良すぎたせいです。
口が裂けても言えんがなっ。
「ところで授業はぁ………」
「終わった」
「終わりました」
ですよねー
何で誰も起こしてくれないんだよ!
うわぁっ、マジか。マジないわ。
テスト結果もギりっぽいのに内申点も悪かったらヤバくねぇ?ヤベーよ。
「先生、怒ってなかった?」
ちと探りをいれる小心者な私です。
謝れば許されるか?
つか、起こしてよ。
普通は注意するなりして起こすでしょうが!
それとも何だ?注意されても起きなかったのか?
私はそこまで寝汚なくない、つもりだ。
「それは、ない」
「とんでもありません」
「え"っ?」
異口同音で否定する二人。
「先生、『寝かせときましょう。皆さん、静かに授業を受けるように』って」
「いつも煩いわけではありませんが、いつも以上に静かでした」
それもどうなんだよ。
怒られたくはないよ。ないけどさ、授業中居眠りして何もお咎めなしの上に睡眠を促す行為はどうなんだ。
それって先生が私に関心はありません。
勉強が遅れても自己責任ですって事デスカ。
「………厳しいね」
「「当然」です」
親友も手厳しい。
堪えるわぁ。
悪いのは居眠りしてた私なのだから仕方がないけどさ。
「先生にはお昼休み時間に謝罪するとして、紗智ちゃんのノート見せて貰っていい?馨子さんには授業内容の説明をお願い出来ますか?」
じゃねーと困る。
友よ、助けておくれ。
「「勿論」です」
ありがたや、ありがたや~
今度ジュースでも奢ります。
持つべきものはやはり親友。
でも今度居眠りしてたら起こしてね。
お昼休みに先生に謝罪に伺うと逆に謝罪されてしまった私は、先生にどう思われているのだろう。
謎だ。