愛の力に邪な心は砕かれる
どうにか退学は免れました。しかし悲しかな、留年の可能性は否定出来ないのが現状です。
塾でも行った方がいいのかしらん。
でもな、私嫌いなんだよ。勉強。
オバチャンだった時にも大学には行かなかったが高校は卒業したのよ。あの頃は高校は行くのは当たり前でまぁ、世間的なものもあったしな。それに高卒でないと就職出来ないような感じだったし。
ぶっちゃけ、就職するのに中高の勉強は必要皆無だったよ。使う機会なんてないよ。
文字は手書きでなくワープロだったから漢字が書けなくても読めれば問題ないし、英語だって日本から出なければ使わない。計算は電卓。
職場にもよるかもしれないけど一般庶民の就職先なんて、就職したら研修あとは実践あるのみな感じだったよ。
だから本当に勉強が活かせる職業は一握りだと思う。
ただ人間の精神的成長を育む時間のついでに勉強させとくかな方針でしょう。
だから日本にはスキップ制度がないのだと思うのよ。
つ~ま~り~
私は日本の情操教育の元、優等生のごとく美少女とエンジョイすれば良いのだ!
そこっ、反省してないとか言うなっ!
勉強は一応留年しない程度に頑張るよ。
だから塾に通おうと思います。
新たな出会い(美少女)が待ってるぜっ!
「お父さん、塾に行きたいです」
自宅のソファーに座り話を切り出しましたよ。
父は優雅に食後の紅茶を一口飲みカップをテーブルに音もたてずに置くと、代わりに私のテストを手に取って見てから私の顔を見る。
「なんで?補習を受けるほどの点数でもないし、基本が出来てるんだから問題ないと思うけど」
「でも先生にも転校を薦められるくらいには宝林では低いんでしょう?」
「気にしすぎだよ。これより悪い点数は宝林でも居るし補習対象生徒だって居る。何を勘違いしているのか、彼奴等が可世に期待しすぎなんだよ」
ああ既に私の成績については先生方から理事長に話がいっていたのね。
しかも何だよ。私より成績悪い奴いるやーん。えっ、もしかしてカンニング疑惑があったから転校しろと言われたんかいな。
「私カンニングなんかしてないよ」
あれは雑誌の占いのラッキーナンバーだったんだよ。
「疑ってなんてないよ。あの雑誌のまんまの数字だし、そもそも可世はカンニングなんてしないし、そんな器用な真似出来ないからね」
さすが父。わぁかってるー。でもそれ、褒めてないからね。貶してるから!ええ、どうせ私は不器用だよ!折り紙で鶴を折ったつもりが毎度何故か鳩になってしまうほど不器用だよ。
不思議だ。
ああ、折り紙じゃないよ!あれは折り方の説明書が悪いんだよ!
それじゃなくって!
私その雑誌の星座占い結果を父に話したよ。でもさ、それって父の星座占いの結果であって私のは言ってないのよ。うふふ、何時私の星座占いまで読んでラッキーナンバーまで知ってたんだろうね。
「雑誌読んだの?」
別に父の金で買って貰った雑誌だし、私の部屋にあるはずの雑誌を勝手に読まれようが怒りはしないよ。ただね、そのね、あの雑誌はね…………
「可世が興味がある物は全て私の興味になるからね」
「あ、うん。でもさアレだよ?」
百合なんだよ。
お姉様と妹様のいちゃいちゃもんなのですよ。
ちなみにネット通販で定期購読の品であります。
薔薇でないだけマシなのかな?
「姉妹ね…………可鈴となら10人ぐらいは娘が居ても良かったかな」
大・家・族!
おいおい10人って、しかも全員娘希望ですかい。だが否定出来ぬ。母が健康だったら母はずっと妊娠していただろう程の溺愛っぷりでしたもんね。父だけが。いや、母も父の事は好きだったよ。でもパワーバランス的には父>>>>>>>>>>><母みたいな感じでしたからね。
なんだろう……母が健康だったら嬉しい、嬉しいが、すんごく不憫に感じる。
「残念だけど妹は可鈴が居ないと出来ないからね。でも可世が欲しいなら養子でも貰おうか」
いや、そんな犬猫みたいに簡単に言わんでくれや。
美少女妹や美少女姉は魅力的ではあるがね。
父が私以外を猫可愛がる姿は微笑ましいが、だんだんその猫がグロッキーになっていくんだけど……。
ああっ、マイシスター!そっちに逝くな!
って!はっ!!幻覚が見えた。いや、これは予知だな。これ以上犠牲者は出してはならぬと神が御告げなさったんだ。
「いらない。お父さんの娘は私だけでいいや……」
「っっ~」
「グェッ!」
父が声にならない叫びを体で表現してきました。
おもいっきり抱き締められましたよ。おかげで潰された蛙の声が出ました。
そんな声に構わず父は私の頭を撫で撫で、顔中にキスの嵐が吹き荒れてます。
私は微動せずに達観の心境です。
「可世がデレた!可世が!可世が~!カメラいや、動画!ここにも隠しカメラ設置していればぁ!!!可世もう一回、もう一回だけ言ってごらん」
スマフォを片手にムービーを録り始めた父に私は笑顔を浮かべる。
「お父さん……………ウ・ザ・イ」
デレてない。私デレてないから。
そもそも今さらですが距離が近すぎますから!
何故に広々リビングに対面ソファーあるにも関わらず私の隣に座る。しかも肩と肩が触れ合うほどの近さですよ。
「離れて下さい」
「…………これが『ツンデレ』……うん、『ツンデレ』の何が良いのか分からなかったけど今なら分かるかな。確かに良いね。いや、この時の感情表現の言葉は『萌える』が正しかったっけ」
違う!つーか、どれだけ私のコレクション読んだの?全部か!?全部見たの?見たよね………
父から『ツンデレ』や『萌える』などの発言を聞こうとは思わんかったよ。
これ私の影響ですか………ですよねー。
あれ、そもそも何の話をしてたっけ?
そうだよ!塾!美少女塾の話だよ!どうして塾の話題から姉妹の話題に!?論点がズレてるよ!
原因は私の百合本ですがね………
「ええっいっ!離しんさいっ!!」
と言って抵抗しても隠された強靭な肉体と精神を兼ね備えた父には抗えない悲しい私。
「微々たる抵抗するか弱い可世も萌えるね」
おい、微々たる抵抗って何だ。私は本気だ。
握力がないのは認めるが、腕力と脚力には自信がある。本気を出した私は父くらいならお姫様抱っこしながら滑走出来るくらいには水中エアロビで鍛えてるからな。
そして私に対して『萌える』言うな。
私は容姿も性格も平凡だ。『萌える』は美少女のみ許される言葉なのだよ。これだから素人は、『萌え』の真髄を理解してないから困るわ。
もう抵抗するのは諦め、本題へ。
こうなったら意地でも美少女開拓への一歩を踏んでやる!
ふふ、父が親馬鹿なのは知っているのだよ!
ここは可愛くおねだりすれば一発ノックアウト。
卑怯?ふっ、打算的と言ってくれ。
では、可世いっきま~す!
「お父さん……塾行きたいなぁ」
ここっ!上目使いで、然り気無く抱き付く父の腕をギュッと弱々しく掴むのがポイントです。
また語尾を伸ばせばどんな低音ダミ声でも、こいつ自分に甘えてるなと錯覚してくれます。
ただし注意が必要。
効果は抜群だが自分の精神的ダメージが半端ないです。普段媚び慣れない方は自爆技になるので気を付けましょう。
「……………」
「……………」
互いに効果は抜群だ!
可世は吐き気と羞恥の狭間で精神異常となった。
世流は魅了されサイレントになった。
可世は精神ダメージで動けない。
世流は覚醒した。
「可愛い!可愛い!可愛い!可愛い!萌え萌え!!」
世流は萌え呪文を唱えた。
可世は更に精神ダメージを受けた。
「こんなに可愛い可世が塾なんかに行ったら何をされるか………うん、わざわざ害虫の温床に行かせるのも可世との時間が減るのも不快だし、勉強ならお父さんが教えてあげるよ」
世流は魅力ゲージが高まり束縛値が上昇した。
可世は物理、精神的に束縛された。
可世は強力な拘束に動けない。
世流の娘溺愛値がMAX から∞になった。
可世の野望は果たされずに終わった。