縁は結ぶ(西城要side)
僕は進学校である全寮制の男子校に入学する予定であったが、急遽予定を変更して宝林学園に編入する事を決意した。
そもそも最初に行くはずであった男子校とて引っ越し先の自宅付近であり、進学校と言えばそこしかなかったからである。
しかし帰国してみればその情報は古く、今では宝林学園ほどの進学校は他にないと言われていた。
調べてみると宝林学園は子供の教育と言うよりも人材の育成と言った方が正しい学習項目が多い。
日本では珍しく、海外ではそう珍しくない実用重視型の教育方。何より高校教師達が教授陣など異例であり、より専門的である。
入試には間に合わなかったが帰国子女であった為、編入試験を受けられる事になったのは行幸であった。
この試験に絶対に合格する。
宝林学園なら男子校と同じくらいに自宅から近い。
しかも小等部ありとくればこの高校以外にあり得ない。
妹と一緒に登下校する。
聖愛と一時でも離れるなど考えられない!
ムサイ全寮制男子校など誰が入学するか!
そもそも聖愛にとって自慢できる格好いい兄でいる為に歯を食いしばって進学校である全寮制の男子校を選択し聖愛と離れる決意をしたが、そんな必要なくなった。
来年になれば聖愛も小学生だ。
学園内が離れていても、同じ学園に通える!
聖愛の成長記録を余すことなく見続けることが出来る!
その意欲を遺憾無く発揮した編入説明会を兼ねた面接を終え自宅に帰る途中、聖愛が公園で遊んでいたらと思い覗いて見ると妹は居なかったが代わりに変な女が公園に居た。
「あっ!あったー!もうっ!外出しても出会いイベントが発生しないなんてバグかと思ってたけど、あるじゃん!これで隠しキャラアイテムゲットね。もう砂場にあるなんて信じらんない!爪に砂が入るしヤになっちゃう!こんな汚いお守り私が持つなんて、アイテムじゃなきゃ拾わないし、さっさと捨てるのになぁ」
独り言を大声で言う女はどうやら、本人のではない落とし物を探して盗んだようだ。
最初は御守りの落とし主のストーカーかと思ったが、それにしては御守り自体に愛着はなさそうだ。
何はともあれ窃盗犯とは関わりたくない。
聖愛が居ないのであれば公園には用はないと、帰ろうとした。
「あっ!これ、落ちてたよ」
が、何故か窃盗犯は僕に気付き御守りを差し出して来た。
訳がわからない。
落とし物をなら警察だろ。僕は警察でもなければ落とし主でもない。そもそも窃盗犯の共犯になるつもりも更々ない。
「悪いけど僕のじゃないよ。落とし物なら警察に届ければ」
「えっ!?だってこれっ要君のでしょう!」
どうして僕の名前を知っている。
窃盗犯だけでなくストーカー行為もしているのか、この女は。
第一仮にそれがもしも僕の物だとして、先程まで汚ならしい物と女に認識されていた物を渡されて感謝するか。しかも御守りに対してだぞ。
御守りが汚ならしいって神仏に祟られるからな。
「はぁ、僕のじゃないよ。それに見知らぬ君に名乗った覚えもない。君が誰で何がしたいかは知らないけど僕に関わらないでくれない。迷惑だから」
何かと喚く犯罪者女から視界から消して公園を後にした。
一応、自宅がばれないよう後ろを警戒しながら帰宅したが大事なかった。
だから知らない。その女が御守りを警察に届けることなく、放置する訳でもなく、ゴミ箱へと捨てたなど。
帰宅すると聖愛が笑顔で迎えてくれた。
うちの妹は可愛い。癒しだ。マジ可愛い。
今日は公園で遊んだらしいが、それだけではないだろう。
何処と無くソワソワする様子に気付いてはいたが、素知らぬふりして心の中で悶えた。
しかし良かった。妹とあの女犯罪者が鉢合わせにならなくて。
風呂からあがると真っ先に来るかと思っていた妹が姿を見せない。訝しげに思い聖愛を探す。
「母さん、聖愛は?」
「あら、さっきまで要さんがお風呂から出るのソワソワしながらリビングで待ってましたよ」
「いないから聞いてるんだよ」
「お手洗いかしら?女性を急かしては駄目よ」
おっとりのほほんとしたお嬢様育ちの母はのんびり過ぎる。今日も幼い娘の外出に付き添うどころか、いってらっしゃい、と見送る始末だ。
我が親ながら危機感がなさすぎる。そしてそんな母親似な聖愛。ちなみに僕は父親似だ。
僕がトイレへと行く姿を見ると母は咎めたが、そんなこと知らない。僕は今すぐに聖愛の抱擁が欲しい。
トイレには鍵はかかってない。聖愛はまだ怖くて鍵をかけない。僕はトイレをノックしたが反応はなかった。ドアを開けて見るも聖愛はいない。
それから部屋という部屋を捜索したが聖愛がいない。まさかと思い玄関を見ると聖愛の靴が消えていた。鍵がかかっていた玄関の扉は解除されている。
僕は母に声をかけることなく一目散に外に出た。
こんな時間に幼い妹が夜の道を歩いているだけで誘拐してくれと言っている様なものだ。
昼間でも聖愛みたいな可愛い子には危険だ。それでも人目があるぶんまだマシだ。
「聖愛!セーラ!」
名を呼び辺りを探していると、妹がパジャマ姿で走り寄ってきた。
ちなみに僕セレクトの白のモコモコワンピ春バージョン~癒しの眠り羊~だ。
「お兄ちゃん!」
「聖愛!何処行っていたんだ!?」
「ふぇっ……ごめんなさい……」
ああ、やってしまった。
余りの心配に感情を制御せずに事情も聞かずに一方的に責めてしまった。
僕の剣幕な姿に聖愛はビクリと肩をすくめて涙を溢れさせた。ただでさえ既に泣いたであろう赤い目をさらに潤ませてボロボロと涙を流す。
泣かした。
僕が可愛い可愛い聖愛を泣かした……………泣いてる聖愛も可愛いいなぁ。はっ!違う!いや、違わないが違う!
「こっちこそ怒鳴ってごめんな」
聖愛の小さな体を抱き上げ頭を撫でる。
抱き上げながらも身体に外傷、服の乱れがないかもチエックする。
擦りすぎた目元以外に異変は見られないが安心は出来ない。
まずは事情を聞かねば。
「でもこんな夜中に聖愛が居なくなって、兄ちゃんは不安で心配だったんだ。聖愛もいきなり僕が居なくなったらどう思う?」
母さんや父さんの名前は強制排除した。
聖愛の一番は僕一人で十分。つーか不要。
「やぁー!お兄ちゃん居なくなっちゃ、めえぇ!」
僕の質問に対して聖愛は想像したらしく、僕を絶対離さないとばかりにギュッと肩を抱き締めた。
至、福!
何!か、か、か、か、カワユス!
めって、ダメのめぇー!
羊風ワンピをセレクトした僕に間違いはなかった。
僕の脳内メモリアルに新たに更新されたフレーズをメモリー&リピートする。
これでもう死んでも悔い………はある!
次は猫にしよう。
この時、聖愛の夏パジャマが決定された。
「僕は居なくならないよ。だから聖愛も約束な。一人で居なくならい、何処かに行きたいときは必ず兄ちゃんに言うんだぞ」
「うん、やくそく」
聖愛の小さな小指と指切りをする。
ああ、可愛い。
僕は聖愛を抱き上げたままの体勢で家へと向かう。
離す気はない。ないったら、ない。
「どうして外に出たんだ?」
「あ、あのね………」
歩きながら聖愛に理由を聞くと聖愛は嬉しそうに話してくれた。
僕の受験の為に神社で御守りを買ったこと。
最近母さんの手伝いを頑張っていたのはこの為か。欲しいのがあったら何でも買ってあげようと聖愛にリサーチしても僕に言わなかったはずだ。あの時はショックで泣いたが今は嬉し泣き出来る自信がある。
しかも僕の為にあの神社の長い階段を小さな体で上ったのか。僕の為に、僕の為に、僕の為に……………
感・無・量!
マジ良い子!
うちの子一番!
でも何処かに落としてしまい慌てて探していたが見つからず、公園に居た天使が代わりに御守りをくれたとのこと。
あの怖がりな聖愛が夜一人で探すには勇気がいったであろう。
そこまで僕の為に……………んっ、まさか!!
あの窃盗犯が持っていた御守りか!!
聖愛の勇気の結晶を汚いもの呼ばわりし、盗んだ犯人はっ!!!
…………つぎ会ったら、しめる。
そんな黒い気持ちを聖愛に隠して、嬉しそうに天使の話をしていた妹は夢の中。
いつもなら寝ている時間だし、昼間も夜も動き回ったのだから当然だろう。何より僕に御守りを渡せたことにほっとした幸せそうに寝息をたてている。
聖愛に手渡された御守りを見る。
そこには神社名と『桜木可世』と筆で書かれた紙が挟まれていた。
天使ではない。
でも妹にとっては天使であったであろう。
「会ってみたいな………」
妹と御守りを大事に抱き、淡い希望を胸に要は帰途した。
やっと隠しキャラ登場です。
本来であれば
数回外出→外出中に要と肩がぶつかる→妹が御守り購入し砂場で落とし夜に無断外出→砂場で御守り発見→要に捜索され無事御守りを渡す→要が妹に貰った御守りを公園で落とす→ヒロインが公園で御守りを見つけたところに要登場→交流に発展
でした。
ゲームでは要の家族構成に妹が居ることは書かれてますが出番なし。御守りも大切な御守りとして登場するも妹に貰ったとは書かれてません。勿論、妹が御守りを落とした背景もなし。