炎のブレス
恐ろしく感じる雄叫びを耳にし、瞬時に両手で耳を塞ぐ。耳を塞がなければ鼓膜が破れそうなほどの雄叫びだ。
なんだ、これ、……くぅ。
雄叫びは耳を塞いでもわずかに聞こえてきて、頭痛に苦しめられる。そして雄叫びの勢いは背中で受け止めるように感じる。
いつまで耳を塞げばこの雄叫びは止むのだろうか。この雄叫びはどこのどいつが発しているのか。そんなことを考えている余裕がなかった。
しばらくして雄叫びは止んだ。体感ではとてつもなく長く感じたが、実際には数十秒そこらだろう。
耳から手を離し、その場から立ち上がろうとする。立ち上がると雄叫びの影響のせいなのか、少し眩暈がする。
そして頭に手を当てながら首だけ回して後ろを振り返り見る。先ほどの雄叫びを発した根源を確認するためだ。だがその先には――――
――――グワアアアァァァッ!
そう鳴き声を発しながらこちらを睨みつける、赤く首の長いドラゴンが存在していた。
「……え、え」
言葉にならない。意味が分からない。え、なんなのこれ? は? ドラゴン?
赤き首長のドラゴンが現れたことにより、色々と混乱していた。ドラゴンは自分の身長の三倍ほどの大きさをあり、口からは微かに火の粉が見える。
現実味が湧かない。だが恐ろしいほどの迫力はあった。その迫力のあまり、また呆然と突っ立ってしまう。
数秒ほど呆然としているとドラゴンは開いていた多くな口を閉じ、誰から見てもわかるほど頬の部分を膨らました。
このドラゴンがこれから何をしてくるのか、俺には分からなかった。だが、俺の身体が、脳が分かったいたかのように瞬時に動いた。
――――炎のブレスをこちらに吹きかけてくる。
その言葉が頭の中を横切っていた。
それに気づいたときには前方に向かって、いや、炎のブレスが当たらない範囲まで走っていた。
そこまで走ると背中から熱風が感じ取られる。高温の熱風だ。
前を向いて走りながら首だけ後ろに捻り、後方を確認する。そこは既に焼け野原と化していた。先ほどまで自分がいた場所は炎によって包まれているようだった。
その光景を把握してすぐに前を向く。俺は恐ろしいほどの戦慄を感じ、冷や汗を流しながら頭の中がこんがらがっていた。
何が起きている。あれはなんなんだ。なんであんなに燃えている。そしてさっきまで俺はあそこにいたんだ。やばい、殺される!
そんな脳内とは異なり、自分の足は前方に向けて素早く動いている。不規則に並ぶ木々をしっかりと避けながらも、あの口から炎を吐いたドラゴンから離れることに専念していた。
その時、混乱していた脳内にある言葉が瞬時に浮かび上がる。
――――後方から火の玉。
俺は瞬時に理解できなかった。火の玉? だが身体は分かっていたかのように一旦立ち止まり、右斜めの方向に身体を傾けてそちらに走り出す。
後ろの方からバンッっと聞いたことも無いような音が響いた。だが大方、俺も予想はついていた。たぶん、今から数秒ほど前まで自分がいたところにドラゴンの吐いた火の玉が当たったのだろう。
なんとも言えない恐怖をまた感じた。ドンッ、ドンッ、ドンッと何かがこちらに近づいてくる大きな振動が地面から伝わってくる。
ああ、間違いなくさっきのドラゴンだ。歩いてこっちに、自分の方に来てるんだ。
俺はそのことだけを理解した途端、今度は無意識ではなく意識して、足に力を込めて走り出す。目から涙を流しながらもドラゴンから全力で逃げるのだった。