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鋼の重低音  作者: parkboy
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こいつが元凶

大陸最南端の帝国エヴァルド。

首都エヴァンディアス。


宮廷魔術師ロイハルト=クルエスディエス(26)はドキドキしていた。

悪事を企て、実行する直前の方ではない。

胸の高鳴りである。ただし恋愛ではないが。


彼は優れた魔術師だが、同時に夢見る童子のような男だった。

かの千年王国期に存在していたらしい「音声魔術」。

いかなる楽器、もしくは歌かもしれないが、とにかく「音」によって魔術を行使していた体系が存在したという。


なんというか、その「音」で「魔術」を行使するという優雅な伝説に、彼はいたく心酔していた。

今では失われた技術であるが、是非復活させたい。思う存分研究する場と、地位と、資金が欲しい。

その思い一つで、彼は宮廷魔術師にまで上り詰めた。

専攻は紋章魔術のくせに、である。


そして今宵、彼は伝説への手掛かりを見つけた。

つい3ヶ月前に発掘された千年王国期の遺跡に、とある碑文が残っていたのである。

曰く、


「音色と旋律が精霊を呼び、喜ばせ、魔術と成り」


他の箇所は風化して解読不能だったが、この一文のみ読み取れた。

そしてその碑文の下には、五本の横線と幾つもの黒点による図形。


世紀の大発見だ!!

現代魔術史に残る一大事だ!!もちろん最高の!!


彼の仮説は完成した。

音によって精霊と何らかの関係(それは契約であったり、召喚であったり、単純に共闘であったりだろう)を結ぶ、

(恐らく現行の精霊魔術より高度な、もしくは柔軟で繊細な)極めて特異な精霊魔術。


あとは触媒だ!!


精霊は気まぐれで、自然と同義の存在である。

特殊な歌唱方法か、特別な楽器が必要なはず。


ここで、彼の専攻である紋章魔術が役に立つ。

紋章魔術は、もうそのまんまである。

地面でも、紙でも、服でも肌でも空中でもいい。

自身の血を混ぜたインクか、血そのもので、定型の図形、いわゆる魔方陣を描き、行使する魔術である。

膨大な魔方陣の中には、召喚も含まれる。

紋章魔術による召喚は方程式だ。

基本の魔方陣に、召喚したいモノの特徴となる式を代入すれば「大抵」成功する。

だから、今回は、あの碑文の下にあった横線と黒点を代入してアレンジすれば……


宮廷に仕える楽士の連中曰く、あの横線と黒点は音階と音程を記した楽譜ではないかとのこと。


もう辛抱たまらん!!


ロイハルトは決起した。

1週間の長期休暇を無理矢理取得し、帝国辺境の別荘に篭り、魔方陣を作成した。

26年来の悲願である、失われた体系・音声魔術。

その何か手掛かりとなりうるモノを召喚せしめる、魔方陣を。


結論を述べるなら、彼は成功した。

信じられないような存在の召喚に。



「あ。座標ミスった。」



____________________



季節は春。

お気に入りの曲をiPodで聴きながら、桜並木を歩く。

就職して一年、今日は休日だ。

今週末に新人の歓迎会も含めた花見の場所を下見に来たが、この河川敷でいいだろう。

駅から近いし、住宅街からは離れているから騒いでも通報されないと思う。

コンビニとスーパーも近いから、買出しもすぐに済ませられそうだ。


今日の予定はほぼ終了。

さて、半日以上の残りの余暇時間、どう使ってやろうか……。


と、ニヨニヨしてたのがいけなかったのか。

この河川敷は車はあまり通らないが、バイクがよく通る。

折り悪くイヤホンで音楽を聴いていた自分は、後ろからせまるバイクの音に、全く気付かなかった。


突然の浮遊感と、背中の鈍痛を感じながら、俺の意識は地面に落ちる寸前で暗転した。


____________________



白天山 最奥の大渓谷「竜の谷」


「親父、何かが落ちてきたぞ。」


「あ?ここにか?」


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