レッセイ探知本能生物
BLです。嫌悪感や偏見のある方はご遠慮下さい。
手をにぎりしめれば、
唇を重ねれば、
やわらかい、その髪を梳けば、
繋がっていれると思っていたのは、僕だけじゃないはず。
たまに言葉を交わすだけで、
すれちがいざまに目を合わせるだけで、
分かり合えてると思っていたのは君だけじゃない。
きっかけは、塾が同じだったこと。
「サハラ、シャー芯くれん?」
それは、あまりにも唐突だった。
「……シャー芯? あぁ…、ん。」
俺はPUMAとロゴの入ったファスナーを開けて、その中から0.5mmのシャー芯ケースを取り出し差し出した。
「あんがと」
そう言ってみなみはそこから1本抜き出すと、俺に返す。
俺は受け取ったそれを筆箱にしまって、ファスナーを右から左に戻した。
それは偶然席が前後だった日で、いつもいるみなみの友達が休みだった日。
『サハラ』と名前を呼ばれたこと以前に、しゃべったこと自体が初めてだった。
運命的な出会いなんてものじゃなくて。でも偶然で片付けてしまうのは悲しくて。
今思えば、俺にとってはそれがきっかけだったけど、みなみはもっと前からだと言う。
「もっと上手くいけばいいんだけどなー」
塾帰りの真っ暗な公園で、平方根わかんねーと言っていたときのような顔のみなみが、ブランコを揺らしながら言った。
「なにが?」
俺はその隣のブランコに座って、真冬の寒さに飲み込まれないようにと極力身体を縮こめて聞く。
「オレらのことだよ」
みなみが苦い顔で笑ってみせた。
「それは俺も思うけど、無理じゃん。みなみと俺、全然ちがうし」
元気にブランコを立ち漕ぎをしているみなみを見ると、ぶるぶると震えている自分が情けなくなる。
「だよなぁー」
みなみは溜息のようにそう言うと、立った姿勢からひざを曲げてずるずると座り出した。
口にしてみて、改めて実感する。
俺たちは、まるで違う。
みなみは大人数の友達と群れてはしゃいで騒いで、人懐っこい犬のようだけど、俺は群れるのが苦手で、学校の放課なんかは大抵寝てすごしてるような陰気な奴。
「サハラ一匹狼だもんなー。それはそれでかっけーんだけどさー」
みなみが声と一緒に息を吐いて白い空気をつくった。
「俺はみなみのほうがかっこいいと思うけど」
笑っている方が、いいと思う。
みなみみたいに、笑っている方が、かっこいいと思う。
「そーゆーことさらっと言うなよなー!! オレのほうが照れるじゃん!」
みなみは両手で顔を覆って隠して、恥ずかしいと全身で表現する。
「…………」
そんなところに、惹かれるんだと思う。
手を伸ばして、みなみの髪をさわる。
ふわふわやわらかくて、本当に犬みたいだと思う。
みなみはそんな俺を盗み見るように、顔を覆った指の隙間から目を覗かせた。
「…ずっこい。オレもさわる」
そう言うと片手は顔を覆ったままもう片方の手を伸ばして、さわるというよりは握るという感じで俺の髪を引っ張った。
「いたいいたい! ハゲるって!」
いじっていたみなみの髪を放して、代わりに髪をわしづかんでいるみなみの腕をつかむ。
「だいじょーぶ。サハラがハゲてもアイしてるから。心配すんな」
「10代半ばにしてハゲる気はねぇよ」
みなみは俺の髪を放した。
ハゲはやっぱり嫌なのか。
腕をつかんだままみなみを見ると、しょぼくれた感じでうつむいている。
俺は、こんなところが。ばかみたいにいとしくて。
「サハラ、」
返事をするように、つかんでいた腕の手を握る。
「なに」
みなみは立ち上がって、「帰ろ」とつないだ手を引っ張った。
俺は引かれるままに立ち上がって、2人で歩き出す。
公園を出たところでみなみがしゃべりだした。
「人間は他人のレッセイを見つけんのが得意なんだって」
みなみが息を長く吐いて、空気を白くする。クセなのか、白い息が好きなのか。
「んで、イイトコよりそのレッセイばっか見るようになって結局きらいになるんだって」
「ふーん」
俺はみなみの真似をしてあたたかい息を吐いてみる。
「オレさ、サハラのことならどんなことでも受け止めれる自信あんだけど」
吐いたあとに自分の顔にかかって、うっとうしかった。
「そりゃドーモ」
なんとなくみなみの言いたいことがわかった気がする。
「……あのさー、サハラから見たオレのレッセイってどこ? 自分じゃわかんないし、でもサハラにきらわれんのはやなんだけど」
こういうとき。
かわいいな、とか。思っている自分がいたりして。
あんまり直球に聞いてくるから、気がつけばその不安そうなまぶたに、唇をおとしてた。
それから。一瞬だけ唇を重ねた。
むさぼるなんて情熱的なんかじゃなくて。でも確かに、その間にはいとしいだなんて途方もなくわがままな感情があって。
「……忘れモンが多いとことか誰彼構わずやたら人にくっつくとことか、どうかなって思うけど、」
唇に触れるだけのキスは少しの余韻も残らなくて、それが逆に余韻になった。
「みなみが俺にくっつくのは嫌じゃないし、忘れモンしたっていいときはいいし」
2人で無意識に立ち止まっていて。再び歩き出した道で、みなみはやけに赤くなっていって、つられて俺も恥ずかしくなったりして。
「というか」
つないだまんまの手からはみなみの気持ちが直に伝わってくるようで、くすぐったい。
「惚れたらかんけーないと思いますが」
これは、ふつうに恥ずかしかった。
思わずみなみから顔を背けて口許を手で覆った。
寒いはずなのに顔だけ暑い。
「……サハラ、」
こ こだけは掘り下げて欲しくないなとか思っているとみなみが呼ぶ。
「…すっげ好きなんだけど」
たとえば、この感情にきっかけなんかを聞かれたら、即答はできなくて。
それでもひとつだけ確かなことは、まちがいなく俺は君を好きだってことで。
なんでってきかれたら、すぐには答えられないんだけど、悩んだ結果でるのは、最初は憧れてたんだってことだと思うんだ。お互いに。
つまりさ、
俺たちはお互いのすべてを欲しがっているんだ。
自分にないすべてが欲しくて欲しくて。
だから、好きになる。
それから知って。もっともっと好きになる。
君がいなきゃだめなくらいに。
「俺もです」
書いてから辞書引いて気付いたんですが、「レッセイ」の意味が自分で思ってたものと違ったようです…苦笑
探しまくった結果、自分が思っていた「レッセイ」にいちばん近い意味は「劣等」ではないかと。駄目な作者ですみません…。