第10話 『ホットサンドと、お返しの朝』
朝の光が、薄いカーテン越しに差し込む。
トースターの中では、ホットサンドが軽く焦げ目を帯びていた。
パンの端から、チーズがゆっくりと溶け出していく。
ピンポーン。
昨日に続いて、またあのチャイムの音。
ドアを開けると――有森ゆかりが、両手に小さな紙袋を抱えて立っていた。
「おはようございます。昨日のお礼です。……たいしたものじゃないけど。」
差し出された袋の中には、
小さなジャムの瓶が二つ。
いちごと、オレンジマーマレード。
「私、これ作るのが趣味なんです。」
少し照れながら笑うゆかりの声が、
朝の空気の中に溶けていった。
「じゃあ……ちょうどいい。ホットサンド、焼けたところなんですよ。」
思わずそう言っていた。
気づけば、テーブルの上には二枚の皿を並べていた。
ひとり分だった食卓が、今日はふたり分になった。
いつもより、少しだけ賑やかな音が聞こえる。
トーストの焼ける音、湯気の立つ音、そして――笑い声。
有森ゆかりは、カップを両手で包みながら、
「朝の光って、誰かと一緒に見ると違って見えるんですね」と呟いた。
その言葉に、誠は少しだけうなずいた。
黄身が崩れた朝も、悪くなかった。
けれど、こんな朝も――悪くない。
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> ほんの少し、世界が変わる瞬間。
それは、誰かが「おはよう」と言ってくれた朝かもしれない。




