第2話「焦げたトーストと、君のメッセージ」
朝。
アラームを止めて、二度寝して、起きたら出勤15分前。
「……詰んだな。」
それでも、俺は焦らない。
焦っても、会社は待ってくれないし、トーストは焦げるだけだ。
……いや、焦げた。
ガシャン!とパンが飛び出す。
見事に、黒い。
「おぉ……炭化完了。」
我ながら芸術的な焼き具合だ。
ま、カリカリ好きだし。健康には悪いけど、心には良い。
焦げたパンの香ばしい(というか焦げ臭い)香りに包まれながら、
ふとスマホが震えた。
《香奈さんからのメッセージを受信しました》
……え?
一瞬、心臓が止まりかけた。
“香奈”――俺の亡くなった妻の名前。
もちろん、そんなはずはない。
けれど画面には確かに、懐かしいアイコンが浮かんでいる。
恐る恐る開くと、メッセージアプリの下に、
「○年前の思い出」として自動送信された“タイムメッセージ”だった。
あの機能、まだ生きてたのか。
『焦げたトースト、またやったでしょ? マヨネーズ塗るとごまかせるよ。』
思わず笑ってしまった。
いや、タイミングが完璧すぎるだろ。
朝から幽霊レベルのツッコミが入るとは。
冷蔵庫を開ける。マヨネーズ、ちゃんとある。
「……ごまかすか。」
焦げたパンにマヨを塗り、少しのケチャップ。
見た目は悪いが、味は……悪くない。
いや、むしろ旨い。
「うまいな、香奈。」
思わず声に出して言っていた。
返事は、当然ない。
けれど、
スマホの画面に残る“既読にならないメッセージ”が、
なぜか少しだけ、温かかった。
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焦げても、少し焦っても、
誰かの言葉ひとつで朝は悪くない。




