第3話『コーヒーと、夜の相談』
夜。
静かなリビングに、雨音と時計の針の音だけが響いていた。
誠は、カップに淹れたばかりのコーヒーを注ぎ、ゆかりの隣に座る。
その向かいには、珍しく神妙な顔つきの佐久間がいた。
「……実は、告白しようと思ってるんです」
ぽつりと漏らした言葉に、ゆかりが驚いたように顔を上げる。
「まあ、そうなの? あの“気になってる”子?」
佐久間は頬を赤くしながら、小さくうなずいた。
「はい。あのとき、ちゃんと伝えられなくて……でも、もう一度会いたいんです」
誠は湯気の立つコーヒーを見つめながら、微笑んだ。
「……いいじゃないか。伝えたいなら、伝えた方がいい」
「でも、怖いんです。断られるのもそうですけど……なんか、変に期待してる自分もいて」
その言葉に、誠はしばらく黙り込む。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……昔の俺も、そうだったよ。
想いってやつは、不器用なほど重くなる。だけど、誰かを大切に思う気持ちは――
それだけで、ちゃんと前に進んでる証拠だ」
ゆかりがそっと笑みを浮かべる。
「ねえ、誠くん、珍しくいいこと言うわね」
「たまにはな」
三人の間に、柔らかい空気が流れる。
雨音が少し弱まり、窓の外には街灯の光がにじんでいた。
佐久間は湯気越しに、ふたりの笑顔を見て思う。
――こんな穏やかな時間が、いつか自分にも訪れるだろうか。
誠がカップを掲げて言う。
「ま、恋も人生も“焦らずゆっくり”。冷めないうちに飲めよ、佐久間」
「はい、先輩」
その夜、三人分のコーヒーの香りが、静かな部屋を包み込んでいた。




