第2話『お弁当と、午後の公園』 ―『三人分の朝ごはん ―そして、それぞれの恋―』より―
昼下がりのキッチン。
ゆかりがエプロン姿で、玉子焼きをくるくると巻いていた。
「佐久間くん、彼女とお昼ごはん食べるんでしょ?」
「えっ!? あ、い、いや、その……まだ彼女じゃないです!」
慌てて手を振る佐久間を見て、誠が新聞の陰で小さく笑う。
「まぁ、そういうのは“まだ”のうちが一番楽しいもんだ」
「誠さん、茶化さないでくださいよ……」
ゆかりは笑いながら、そっと弁当箱のふたを閉じた。
中には、彩りのいい卵焼き、ウインナー、ブロッコリー。
そして小さなハート形の梅干しが一つ。
「これ、“応援弁当”ね」
「……応援?」
「がんばれって気持ちを詰めたの」
「……はぁ……なんか、恥ずかしいですけど……ありがとうございます」
佐久間は頬を赤くして、頭を下げた。
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午後。
公園のベンチ。
春の風がやさしく吹いて、桜の花びらがちらちらと舞っていた。
「それ、美味しそうですね」
隣に座ったのは、同じ会社の美咲だった。
人懐っこい笑顔と、少し猫のような目。
「ゆかりさんに作ってもらったんです。俺の……その、先輩の隣人で」
「ふふ、仲良しなんですね」
「まぁ、家族みたいな感じです」
そう言いながら、佐久間は弁当のふたを開けた。
金色の玉子焼きが、午後の光を受けて輝いていた。
「おいしい?」
「……はい。なんか、元気出る味です」
美咲が小さく笑った。
「じゃあ今度、わたしもお弁当作りますね。」
その一言に、佐久間の胸がふっと温かくなった。
遠くで子どもたちの笑い声が響き、木の影がやさしく揺れる。
> ――その日、ひとつの恋が、小さな弁当箱の中でそっと芽吹いた。
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この第2話では、“他者に作ってもらうぬくもり”が
“自分で誰かを想う”第一歩へと変わる瞬間を描いています。
誠・ゆかり・佐久間、三人のあたたかい関係が
新しい恋の風をやさしく後押しする回です。




