スピンオフ―『三人分の朝ごはん ―そして、それぞれの恋―』より― 第1話『目玉焼きと、三人の朝』
休日の朝。
誠の部屋の小さなテーブルに、三人分の朝食が並んでいた。
焼きたてのトースト。
湯気を立てる味噌汁。
そして、ゆかりが焼いた目玉焼きが三枚。
「黄身、崩さないように焼くのって難しいんですよね」
ゆかりが笑いながら、フライパンを置く。
「お、今日のは完璧ですね」
佐久間が箸を伸ばそうとして、誠に目で止められた。
「おい、先に“いただきます”だろ」
「す、すみません!」
小さな笑い声が、部屋の空気をやわらかくする。
誠は湯飲みを手に取り、ふと窓の外に目をやった。
朝の光がカーテン越しに差し込み、ゆかりの髪が少し透けて見える。
そんな穏やかな時間が、もうどれくらい続いているだろう。
「そういえば佐久間くん、最近よくスマホ見てるね」
ゆかりが何気なく言う。
「ん? あ、えっと……その……」
「彼女、できたの?」
「えっ!? い、いや、ちょっと気になる人がいるだけで!」
あたふたする佐久間に、ゆかりがくすっと笑う。
「いいじゃない。好きな人がいるって、ちゃんと生きてる証拠よ」
「……そういうもんですかね」
「そういうもんよ」
誠はその会話を聞きながら、静かに黄身を割った。
とろりと流れる金色の光。
その温かさが、いつのまにか“自分の朝”になっていることに気づく。
「ねぇ誠さん、黄身が崩れない焼き方、教えてもらってもいいですか?」
「うん。コツは焦らないことだ。……人生も、目玉焼きもな」
二人が笑い、佐久間もつられて笑う。
その音が、やさしく部屋に響く。
> ――三人の朝が、今日もはじまる。
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この第1話は、「再生した誠」「寄り添うゆかり」「成長していく佐久間」の三人が
“まるで家族のように過ごす”一瞬を描く導入回です。
日常の静けさの中に、未来の予感をほんのりと滲ませています。




