第12話 『焼きそばパンと、昼休みの約束』
昼休み。
会社の屋上は、思いのほか静かだった。
空は青く、ビルの間を風が抜けていく。
自販機のコーヒー片手に、誠はいつものベンチに腰を下ろした。
ポケットには、購買で買った焼きそばパン。
「たまにはこういうのも悪くないか」と思いながら、包みを開ける。
その瞬間――
「……あ、同じのだ。」
振り返ると、有森ゆかりが立っていた。
彼女の手にも、まったく同じ焼きそばパン。
少し気まずそうに笑いながら、彼女は隣に腰を下ろした。
「偶然ですね。」
「いや、もしかして人気商品なのかも。」
「いえ、私、炭水化物×炭水化物が好きなんです。」
彼女がそう言って笑うと、
誠もつられて笑ってしまった。
それは、久しぶりに“昼の笑い”を感じた瞬間だった。
しばらくの沈黙のあと、ゆかりが小さく呟いた。
「……この間の雨の日、ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。あのコーヒー、久しぶりにいい時間でした。」
「また……いつか、一緒にどうですか? 今度は、ちゃんと淹れたやつを。」
誠は少しだけ考えてから、
「いいですね。じゃあ、約束しましょう。――昼休みの続き、今度は夕方に。」
二人の間に、風が通り抜けた。
焼きそばパンのソースの香りが、どこか甘く漂っていた。
> 雨の日の記憶が、晴れた昼に少しずつ溶けていく。
焼きそばパンのソースの香りと、ひとつの約束。
――“ゆる飯”がつなぐ、人と人との距離。




